第6話 盗人と姉
少女アリスの声は、牢屋の隣の壁に腰掛けるロンの耳にも十分に伝わった。
殺し屋とアリスから、ロンの姿は死角になっている。
ロンは心の中でよっこらしょと呟くと、腰を上げた。
「全く、世界一のお金持ちも苦労してんだな」
ロンは牢屋の前に姿を現すと、少年漫画の主人公のような笑みを浮かべた。
「ろ、ロン!?あんたなんでここに!?」
殺し屋の女が身を乗り出そうとするが、鎖で手首を繋がれ思うように動けないでいる。
「いやぁ〜優しい執事にここに宝があるって教えてもらってここにきたわけだが、これみて吃驚したわけよ、それでここの宝をひっそり探してたら、変なメイドがお前抱えて牢屋にぶち込むのが見えてそれを俺は観察してたわけよ」
「全然気づかなかったわ...」
アリスはロンの気配殺しに少し感心した。
「てかっお前!」
ロンが思い出したように声を荒げ、殺し屋の女に指をさした。
「な、なによ」
女が眉をしかめる。
「お前あの執事のこと刺しただろ!」
「は?執事?誰のこといってんの?」
女がさらに眉をしかめ、心当たりが態度を見せる。
「とぼけんな!執事が言ってたぞ、殺人鬼に殺されそうになったとな」
「あんた、誰かと勘違いしてるんじゃない?私はここにきて誰も刺してない、てかその執事誰よ」
「お話中悪いんだけど、それはまた後にしてくれる?それよりロンさん?だったよね、あなたは盗賊なの?」
このままじゃ話に拉致があかないと悟ったアリスが、会話を遮った。
「おお、そうだ、この城の宝を盗みに来た盗人だよ」
「それで、お宝は見つかったの?」
「いいや、この地下にあると聞いて来たんだが、見つからなかった」
「そう、なら都合がいいわ」
アリスは不敵味な笑を見せ、ロンは嫌な予感がした。
「ロンさん、この牢屋の鍵を探し出して私をここから出してくれない?」
「なっ」
何を言うのかと思えばこの女、そんなめんどくさいことを俺に...
「冗談じゃない、そんな暇俺にねーんだよ、宝さっさと盗んでここから出ないといけないからな」
「ここに宝なんてないわ」
「なに!?」
ロンがあからさまに驚愕する。
「宝は私の隠れ別荘にあるの、もし鍵を見つけてここから出してくれたら、そこの宝全部持って行っていいわよ」
「ま、まじか...」
ロンは宝がここにないと言われ、げんなりしたが、その事実を耳にした途端大きく唾を飲み込んだ。
いったいどれほどの宝があるって言うんだ...
ロンの頭の中で宝の妄想が膨れ上がっていく。
そんな夢の妄想からアリスの声で引き摺り下ろされる。
「お願いできるかな?」
しかし、ロンはすぐに頷かなかった。
俺がその別荘を見つけた方が早いんじゃねーか?いや、でも隠れ別荘って言ってたからそんな簡単には見つからないか...
「女の子がこうやって頼んでるじゃない!さっさと鍵見つけてきなさいよ!私もここから出たいし!」
さっきからロンとアリスの言葉のキャッチボールに首を交互に振っていた女が、アリスの援護射撃した。
「うるせーよ!人殺し!」
「なんですって!?たしかにそうだけど!」
ダメだ、この女と話しているとまた喧嘩になってしまう。
そう悟り、ロンはすぐに冷静になる。
「わかった、鍵を見つけてきてやる、どこにあるんだ?」
ロンは意を決して鍵探しの旅を選んだ。
とてつもなくめんどくさいが、宝のためなら我慢することができた。
「ありがとう助かるわ、鍵はおそらくアリサの部屋かアリサが持ってるはずよ」
ロンはそう言われ、さっき行ったアリサの部屋を思い返す。
もし仮にアリサが鍵を持っているとしたら、それを手に入れるのはかなり困難だろう。
頼むから部屋にあってくれよ
神様に祈願しながら、ロンは地下の階段を登った。
なんだよこれ...
ロンは正面玄関大広間に倒れ込む何十人の執事とメイドの姿を目にして絶句した。
所狭しとまではいかないが、足の踏み場も少ししかない。しかも、その足場は血で染まった地面だ。
いったいここでなにがあったっていうんだ...
ロンが休憩室から地下に渡る時は、こんな光景ではなかった。
おまけに、天井のビッグシャンデリアには光が付いている。
ロンは近くに倒れ込む1人の執事のとこに歩み寄り、腕の脈をはかり、生死を確認した。
死んでる...
ここで殺し合いが起きたのだ。
そう言えば、あの殺し屋の女も気を失って運ばれてきた。
もしかしたらこれに巻き込まれたのかもしれない。
やっとロンはこの城で異常なことが起きていることに気づいた。
盗人の自分と殺し屋、おまけにストーカーまで、この日に集まったのはたまたまではなくなってるのかもしれない。
そんな不安を追い払えないまま、ロンは広間の階段を登った。
やばい、迷った。
1回アリサの部屋にきて、帰りは無我夢中に走っていたもので、ロンは全くアリサの部屋が分からないままでいた。
ロンは極度の方向音痴というわけではないが、この城の内部構造が複雑すぎるせいもあって、部屋に辿り着くのはハードだった。
執事とメイドは広間で全員死んだのか、地下に行く前より大分静かで不気味になっている。
お化けでも出てくそうなくらいだ。
さらにおかしな点は見つかった。
そこらじゅうの壁の一部が鉄板で貼り付けられているのだ。
ロンその謎の鉄板の意味を浅く考えながら城内をさまよっていると、上に続く階段を見つけた。
なんかこの階段見たことあるような気がするな
まあいいや。
ロンはあまり考えすぎない性格だった。
そのまま3階へと続く階段を登り、適当に歩いていると、扉が半開きになってるのを発見した。
臭うな...なにかある
盗賊の勘がそう言っていた。
ロンは迷うことなく、半開きの扉を音を立てながら、開けた。
同時に呻き声のようなものが聞こえた。
一瞬本当にお化けが現れたのかと思ったが、どうやら違う。
扉の先は薄暗い一本道。
道ではあるが、それは10メートルもなく行き止まりの壁は、薄闇でも見て取れた。
その薄暗い闇の中に潜んでいたのは、椅子に体を拘束された少女アリサだった。
え?アリサ?なんで拘束されてる?もしアリサが鍵を持っていたら、問題は解決するじゃないか。
黒い目隠しをされ、口はガムテープで覆われているので顔は分からないが、肩にかかった金髪、水色のドレス、どれもアリスと一致したのですぐに分かった。
扉の軋む音で誰かきたのか分かったそうで、相変わらず、ガムテープでは押し殺されてるものの、呻き声をあげ続けている。
ロンは仕方なく、アリサのガムテープと目隠しを取った。
ビリビリとガムテープが外れると共に「ぷはぁ!」と息を吐き出すと、アリサはギロっとロンを睨めつけた。
「あんたが仮面の正体?いったい私を拘束してなにをしよってのよ!メアリーは無事なの!?」
怖がっているだろうと勝手に予想していたが、大間違いで、アリサは強靱に言葉を放った。
メアリーは確かアリスが言っていたメイドのことだ。
一方謎の仮面については、何を言っているのかさっぱりだった。
まさか、まだこの城に潜りこんでいる輩がいるってのか?
そう考えると、さすがにロンはこれが偶然ではなく、何者かに仕組まれた罠と考えざるおえなくなった。
「えーーいきなり?多分アリサを拘束した相手と俺は違うよ、仮面って誰?メアリーもしらない」
ロンの言葉にアリサがみるみる顔色を変えていくのがわかった。
一瞬ロンがアリサを拘束した犯人ではないことがわかり、顔色を変えたのかと思ったがそうではないと、すぐにロンも気づいた。
「な、なんで私の本当の名前しってるのよ...あなた何者!?なんで私の城に勝手に入ってきてるのよ!」
今度はどうやら本当に怖がってるらしく、アリサの表情にそれは現れていた。
アリサなんて言わず、無難に君と言っとけばよかったと、後悔した。
「アリスから聞いたんだよ、簡単に説明すると、俺はこの城に宝を奪いに来た盗人で、宝を見つけるため地下に行った。そこにアリスがいて、鍵を見つけてくれと頼まれた、それだけだ」
ロンはめんどくさくなりそうなことを省きながら説明した。
「それで、私のところまできたってわけね」
ロンはこくっと頷いた。
「アリサが鍵持ってるのか?」
ロンの話しかけに、アリサは顔を逸らし無視をした。
「おい」
思わずロンが突っ込む。
「鍵を手に入れて、牢屋を開けたとしたら、あなたはどうするき?」
アリサは再びこっちを向き、ロンに訊いた。
ロンは鍵の在り処を答えろよと心中で愚痴った。
「ここから出る、なんか今ややこしそうなことが起きてるみたいだしな」
「ええ、たしかにね、今この城には少なくとも5人の来客がいるわ」
アリサは不気味にくくくと笑った。
「ご、5人も!?」
ロンが思っていたのは3人だった。
自分、殺し屋、ストーカー、
他に誰がいる...
そう思いさっきアリサが言っていた仮面の男のことを思い出した。
それでも入れて4人、あと1人誰だよ
「俺と殺し屋とストーカー、仮面にもう1人は誰なんだ?」
ロンは関係ないことだが、気になって仕方がなくアリスに訊いた。
「知らないの?シドウっていう執事よ、あいつは私を拉致するために送り込まれた誘拐屋よ、ナイフで刺したんだけど死んでなかったみたい、きっとまだこの城から出れなくてうろちょろとしてるはずだわ」
アリサは再びその執事のことを思ってか不気味に笑った。
シドウ...執事...誘拐屋...刺された?
キーワード一つ一つ拾っていくと、一人の人物に行き当たった。
俺が看病したあいつか!
あいつも来客の1人だったってのかよ
ますます今起きてる現状が怖くなってきた。
さっさと牢屋を開けて、別荘に逃げ込んだ方がいいみたいだ。
「それで、鍵はお前が持ってるのか?」
「ええ、私が今もってる、左のポケットに入ってるわ」
今度は何故か素直に白状した。
なんでさっきは頑なだったのに、今は素直なんだ?まさかそのポケットになにか触ると電流が走るみたいなものでも入ってるんじゃないのか?
そんな疑いがロンにも現れたが、探るしかないと思い左ポケットを漁った。
手のさわり心地からして金属のようで、握って取ると、アリサの言う通り牢屋の鍵だった。
ふぅーと思わず息を漏らすと「じゃあな」と片手をあげ、踵を返そうとする。
「待ちなさいよ!これほどきなさいよ!」
アリサが怒鳴りちらす。
「悪いな、それ外して面倒なことされても困る」
「さっきあなた、鍵を開けたらここから出るって言ったわよね?」
「ああ、それがどうかした?」
「無理よ」
「は?」
振り返りアリサの顔をみると、してやったというような顔をしている。
「どういうことだ?」
「ここからは出れない、既に5人は閉じ込められているのよ、何があっても絶対に出れない」
「だからなんでだ」
ロンの中で少し焦りが出てることに気づいた。
そしてあの鉄板が脳裏を過ぎる。
まさかあれは窓を!?
「窓を鉄の壁で覆い、出れなくしたのよ、正面玄関のドアもパスワードが必要よ」
アリサがくくくと笑っている。
あんな鉄の壁を俺が来てからの短時間で付けたって言うのかよ...
なら、まさか俺が侵入したあの窓も?
「まさかとは思うが、俺が侵入した窓も既に?」
「あら、あれあなたの仕業だったのね、残念、あいにくもう鉄板よ」
アリサはついに声を上げて魔王のように笑った。
「まじかよ!!!」
思わず声に出してそう言った。
「なら、どうすれば出れるって言うんだよ」
「そんなの私が教えるわけないじゃない...と言いたいところだけど、このロープを解いてくれたら教えてやってもいいわ」
「ほんとか?」
ロンは怪しことなく、その船に乗りかかろうとする。
「ええ、だから早速ほら、解いてよ」
ロンは再び、アリサの元に近づき、椅子の裏に回ると括られた綱に手をやった。
いや、待てその前に。
ロンは黙ってその手をアリサの体のありとあらゆる所を探りまくった。
「ちょっ!はっ!なにしてんの!変態!?きも!離して!殺すわよ!」
アリサが鳥肌をたたせながらじたばたする。
「もしかしたら、ナイフとか持ってるかも知らないだろ?」
「持ってないって!」
ロンはちゃんと胸元とアソコ探り終え、何も無いことを確認すると縄を解いた。
ちなみにロンは性欲に鈍感だ。
縄が下に落ちると、アリサはそのまま立ち上がり体操する時のように手首をぐるぐる回すと、薄気味悪い一本道の部屋から出た。
「早速教えてもらおうか」
ロンも追うように部屋を出て廊下に声が響いた。
「裏口があるの、1階食堂奥にね」
「まじか、そんなところに裏口があったのか」
「でもパスワードがかかってるわ」
「...」
おいおい、まさか俺はまた...
「お、教えて?」
「だーめ♡」
アリサは悪戯満面の顔でウインクをしてきた。
このあまぁぁぁ!
「教えるって言っただろ!?」
「教えたじゃない、裏口の在り処を、パスワードとまでは言ってない」
まさか、年下の少女に嵌められるとは。
つくづく自分の人を疑わない心に嫌気がさした。
「でも安心して、取引よ」
「取引?」
今度はいったいどんな取引を仕掛けて来るのかと、次は疑心暗鬼になりながら待ち構えていた。
「そう、私のお願いを聞いてくれたら今度こそパスワードを教えてあげるわ」
「...本当だろうな?」
ロンが疑い深く、慎重になりながらききかえす。
「本当よ、さっきはあえてこの取引に持ち込むために、パスワードのことを話さなかったの、私のお願いは私にとってそれほど重要なことなの。それが終わればもうなんでもいいわ」
ロンが注意深くアリサの顔を窺うが、嘘をついているようには思えなかった。
女は嘘をつくと瞬きの回数が増えると聞いたことがあるが、それも窺えない。
「はぁーわかったよ...なんだよそのお願いって」
ロンがだるそうに肩を下ろした。
すると、アリサは急にしゃがみこみ、自分の靴下の中を漁り始めた。
そして、中から1本の棒状のようなものを取り出して、ロンに差し出してきた。
これは...
見たところ注射器だった。
てか、そんなところにそんな物騒なものを...
ロンは2度目の後悔をして、自分の甘さを思い知った。
「これは毒よ」
「毒!?」
思わずロンの声が裏返る。
その毒で何をしよっていうんだよ...
ロンの頭の中の嫌な予感センサーが激しく反応していた。
「これで、アリスを殺してきて」
「なっ...なに?」
平然とそんなことを言うもんだから、ロンは後ずさりしそうになった。
実の妹に死を望むのかよ...
ドン引きするロンだが、アリスの話を思い出す。
アリサは両親を殺している。
妹のアリスを殺すことにも躊躇はないのだろう。
しかし、ロンは違う。
人を殺したことは、まだ1度もない。
さすがに知らない人間でも躊躇う。
「殺せないの?なら、この話はなかったことになるわよ」
ロンが怖気づいてるのが分かったのか、追い討ちをかけてきた。
「いや、そうじゃない、さすが両親を殺しただけのことはあるなと思ってな」
ロンは自分の心を見透かされてそうなのが嫌で、嘘をついた。
それからアリサが口を開くのは数秒後だった。
一瞬自分が強がってるのがバレてヒヤヒヤしたが、どうもそうではなかった。
「は?何いってんの?私が両親を殺した?馬鹿のことを言わないで!」
アリサが眉をしかめて、怒りに満ちてるのだと分かった。
「いや、アリスが言ってたぞ、アリサが両親を殺して自分を監禁したって」
そうロンが告げると、アリサは爪を噛むような仕草を見せた。
「アリスがそんなことを?あの女...」
さらにアリサは舌打ちをした。
どういうことだ?アリサは両親を殺してないのか?
「いい?私は両親を殺してない、殺したのはアリスよ!」
「なんだって?」
頭が混乱してきた。
アリサは肉親を殺してない?
アリスが殺した?
どっちかが嘘をついている?
俺から見ればどっちも嘘をついている雰囲気とは思えなかった。
「ならなんでアリサはアリスを監禁した?」
「両親の復讐よ、私はお母さん様とお父様を愛していた...それなのにあいつはなんで...
とにかくそれで私は牢屋に閉じ込めて、餓死させて死なせようとしたのよ」
ロンは牢屋という単語に、あのカプセルのことを思い出した。
「なら、あのカプセルはなんだ?」
「カプセル?あー私のコレクションのことね、私は人に毒を注入して人形にする趣味があるのよ、それがなに?悪い?」
それはアリスが言っていたのと同じだ。
毒でアリスを殺すということは、アリスもその犠牲になるということだろう。
こいつがサイコパスには代わりないが、両親を殺したことは否定している。
もしアリサが本当のことを言ってるなら、なぜアリスは嘘をついた?それが逆でも謎だ。
思考を巡らすが、やがて、考えたって分からないという結論に至った。
「まぁ、それはもういい、とにかくこの毒をアリスに注射して殺せばパスワードを教えてくれるんだな?」
「ええ」
ロンはまだ殺すとは決めていないが、とにかくそういう方向に持っていった。
そこでひとつロンの中に疑問が生まれた。
「てかなんでお前自分でアリスを殺さないんだ?」
もしかしたら、自分で殺したくないくらいの妹に対する愛情は残っているのかもしれない。
っと思ったが理由は全然違うものだった。
「メアリーが邪魔してるの、私だってそうしたいけど、メアリーが行く手を阻むのよ、本当にあの人は私たちに平等で...優しくて...いつも私たちのことしか考えてない」
アリサはそのメアリーを想ったのか、だんだん感傷的に浸り初めてくる。
「メアリー無事かな...」
突然、アリサが小さな声で呟いた。
横から顔を窺うと、とても心配そうな面持ちだ。
「ねぇ、あんた広間通ってきたでしょ?そこにメアリーはいた?」
初めてあったばかりだか、アリサのこんな顔は初めてだ。さっきまでずっと悪趣味な笑いばっかなので、少し新鮮な気持ちになる。
「広間は全滅だ、メアリーもそこにいたんならもう死んでるだろうな」
「そんな...」
アリサにこんな顔をさせるくらいに、メアリーという存在はこの子にとって大事なものなのだろう。
アリスの話を思い出す。
メアリーは2人にとってお姉さん的存在で、平等に扱ってきたらしい。
かなり信頼をしているのだろう。
「あの仮面の男...いったい何者なの...」
「仮面?あーさっき言ってたやつか」
アリサが頷く。
「実は、殺し屋とストーカーと誘拐屋を操って集めたのは私なの」
「へ?」
またこいつはなんというカミングアウトを...
しかし一つ引っかかった。そこに盗人がいなかったことだ。
「まて、俺はどうなんだ?」
「あなたは知らない、ほんとに偶然よ」
「まじか」
俺タイミング悪すぎだろ...
神を恨みそうになる。
「それに仮面の男だって呼んでない、殺し屋と誘拐屋はその所のボスと報酬金を餌に、こっちに誘導させた。ストーカーも気持ちを利用してそうさせるように仕向けた。でもあんたと仮面の男は違う。私は殺し屋とストーカーを追い詰めるとこまでいった。ストーカーは逃げたけど、殺し屋はメアリーに閉じ込めさせた。その間に仮面がやってきて、目が覚めたら真っ暗、拘束されてることに気づいたわ」
アリサは長々と振り返りながら、ロンに説明した。
「そいつが殺し屋なのかなんだか分かんねーけどそんなの俺には関係ないことだね、さっさとこの毒注入してきてやる、んじゃな」
アリサがこれからどうするかも知らないが興味はない。興味があるのは宝だけ。
そのために、アリスを殺すことはもう覚悟していた。
後ろを振り返り、アリサの元を離れていく。
思ったより早くロンの頭の中では、城内マップが既に出来上がりかてていて、すぐに大広間へと続く道を見つけて、目指し歩いていた。
脳内では、何故かあの姉妹のことが浮かび上がっていた。
関係のないことだが、何故か頭にこびりついて離れようとしない。
自分とはあまり似てもいない境遇というのに。
ロンの両親は産まれた時からいなかった。
それは死んだ意味ではなくロンを捨てたのだ。
なので両親を失う気持ちも分からない。
兄弟もいないので、喧嘩もなければ笑い合うことも全然なかった。
ふと、その時前方に気配を感じた。
咄嗟に腰に添えるナイフを握り身構える。
道の奥は大広間の光が若干漏れていて、ここも薄らと明るい。
そこに人型シルエットはたしかにあった。
そのシルエットはだんだんこちらに近づいてくる。
やがて、顔が分かるところまで近づいてくると、ロンはナイフから手を離した。
そこにいたのはストーカー男だった。
ロンが「なにしてんだと」問いかけるため、口を開こうとしたが、ストーカー男に先手を打たれた。
「やっと二人きりになれたね、レイン」
ロンはその言葉に理解できなかった。
誰だ?
ロンはレインという名に聞き覚えはなく、ストーカーの男の顔は、もうあの時の弱々しい風貌ではなくなっていた。
満月の夜に 池田蕉陽 @haruya5370
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