第三十二話 されど魔人たかが魔人
「さて、まずは……<
魔人と距離を取った俺が、まず放ったのは<
「マ、マリョクカイフク、ダト」
「これで魔力枯渇の心配が減らせるからな。じゃあ、次は…<
「ナ、ナンダ。ソノキョウカマホウハ」
「補助魔法の賢者が作り出した、至高の身体能力強化魔法だよ。……いわく、人を竜に変えるとか」
「フ、フザケルナ。コ、コンナ、マホウガ、アッテ、イイワケガ……」
「さて、余興はここまでだ。そろそろ行くよ……<
まずは魔人の周囲の力のベクトルを操作し、奴の周りの重力と気圧を数倍に上げる。普通の人間なら死にかねないが、身体能力強化魔法をかけている魔人なら死にはしないだろう。まあ、それ相応の痛みはあるだろうが。
「グッ、カラダガ、ウゴカン。セイシンマホウ、デハナイナ」
「ああ、生物の神経に負荷を与えて重量を感じさせてるわけじゃない。膨大な魔力で周囲の空間に働きかけて、空間自体を圧縮してるからな。まあ、絶大な威力はあるが、俺レベルの物理知識と魔力がなきゃ、発動できないから、凡庸魔法にはできそうもないけどな」
「フッ、ソレデ、ジュウブンダロウ…<
と、さすがに悠長に喋っていると魔人に転移魔法で上空に逃げられた。……さすがに調子に乗りすぎたな。などと思いながら、俺は続いて魔法で自身の質量を低減し、即座に風魔法で上空へ飛んだ。
「って、逃がすわけがないだろうが…<
「ナッ、ナゼ、ワタシノバショガ……」
「物理魔法は空間に干渉してるからな。俺が<
「ナニヲ…ガッツ、グワウ、グギャア……<
「二度もさせるわけないだろ…」
俺が放った物理魔法第九階位<
ついでに奴が転移できないよう<
「…<
「その光は魔力でもなんでもない、正真正銘ただの光だから<
「クッ…<
「そう、それが正解だ。さてと、で、まだやるのか。……もっとも俺の故郷を襲い、さらには妹に重傷を負わせた時点で逃がす気はあまどないんだがな」
「クッ、キョウノトコロハ、ヒカセテモラウ……」
「いいけど、どこにだ」
この周囲は俺の<
「この隔離空間から、どう逃げるつもりなんだ」
「クッ……<
「言ったろ、その結界は全てのエネルギーを吸収し、反射するって。その結界を壊すには、その術式に干渉できるだけの知識と魔力がなきゃ不可能だ」
「ナラ、キサマヲ、コロシテ、コジアケル」
「はあ、ならそろそろ終わらせようか…<
「クッ……ウゴケン」
「今度は転移を封じてるからな。じゃっ、喰らってもらおうか…<
俺の詠唱と同時に自身の杖が、強力な力を纏う。物理魔法第五階位<
「遺言は、何かあるか」
「マジンサマニ、マケ、キサマハ、クラワレロ」
「……そうか。じゃあとどめといこうか…<
星物理合成第十二階位魔法<
結果、魔人は一秒経たずして、完全に微細な魔力となり消滅した……
後に残ったただの魔力の残骸を<
「…<
と、今日の魔法について考えていたときだった。突然、後方に誰かが<
「お兄様ー」
「うおっ……ちょっと、リリア、どうした」
「お怪我はありませんか。というか、さっきのあの魔法はいったい何なのですか」
「お、落ち着けよ」
「大変だなあ、クライス……」
「おい、アレクス。そんなこと言ってないで助けてくれ」
俺に飛び込んできたのは妹であるリリアだった。この元気さを見ると、さっきまでのダメージも<
「いや、助けられるわけないだろ。……主家の女性に触れるとか、さすがに……」
「アレクスの場合はマリーにすねられるのが嫌なだけじゃないの」
「そんなことない。マリーは拗ねててもかわいい」
「そんな……アレクス君。今、そんなこと言わないでくださいよ」
「こんなところでイチャつくな」
その後ろから来ていたのは少し成長した、アレクス達だった。状況を見るにアレクスの恋は成就したようだな。
「アレクス、おめでとう」
「ああ、ありがとうクライス」
「だから、一発殴らせろ」
「何でだよ」
「冗談だよ。さて、お前らは変わりなさそうでよかった。……で、リリアは」
「はい、お兄様。今は領立学園で魔法学と教養学を学んでいます。……もうすぐ卒業しますけど」
「そうか……もうそんな時期か。……えっ、早くないか」
「子爵様の意向らしいぞ。お前が戻って来るのなら飛び級で領立学園中等部の卒業資格を出して、いっしょに王立魔術学院高等部に進ませた方がいいだろうって」
「ああ、なるほど……妹と同級生になるのか」
どうやらリリアはかなり秀才になっているようだ。王立学院高等部への入学資格は最低規定年齢である十二歳に達していることと、国に定められた一定規模以上の中等学校の卒業と入学試験の合格がその条件だったはずだ。
「俺も一応、初等部は出たけど中等部は出ていないよな……入学資格なくないか」
「それなら子爵様が卒業試験を受ければいいと。たぶんクライス君なら一発で受かるだろうからって」
「いや……間違ってはいないけど……そうだった、そう言えば俺は貴族の息子だった。……そんな無茶が通るんだもんな」
「何に悩んでいるのかは知らないが、まあそういうことだな……それより」
「なんだ」
「俺たちと話すのは後でもいいから、まずはお前への憧れで目をキラキラさせてるリリア様の話を聞いてやれよ」
「えっ……分かった。了解」
アレクスの言葉にリリアを見ると、美しい顔を緩ませて、子供のような顔で俺を見つめていた。……にしても本当にリリアは美人になったな。黒髪と青い瞳が見事にかみ合った感じだ。俺としては黒髪な上に顔立ちが中学生時代の詩帆に近いので余計にかわいく見えるというか何と言うか……
って、そうじゃなかったな。俺への憧れか……まあ、あれだけしっかりしていても中身は十三歳だし、あれだけの活躍を見せた兄に憧れる気持ちは分からないでもない、か。
「リリア」
「はっ、はい」
「リリアは魔術師の適性があったみたいだけど……階位は?」
「はい。魔力量が第八階位、光魔法第八階位、水魔法第八階位、風魔法第七階位です」
「……予想以上にハイスペックだな」
まずは話題提供として聞いてみたのだが、リリアの魔術師としての適性は想像以上だった。俺が師匠やセーラさんの様な魔術の最高峰に触れていたから能力が低く感じるが、普通の魔術師の範疇からしたらこの国でも三本の指に入るレベルの魔法の実力があると言えるだろう。しかもまだ伸びしろはありそうだし。
と、そこまで考えたところでふと疑問が生じた。
「すごいな。……でも、上級魔法以上はどうやって習得したんだ」
「えっ、書斎の本からですよ」
「いや、あそこにあったのは中級魔導書まで。というか上級があったとしても、現象がイメージできなければ簡単には発動できないはずなんだが……」
「ああ、それならその本にイメージ方法もしっかりと乗っていましたから」
「……うーん、そんな本あったかな。ちなみに書名は?」
「書名は「九属性上級魔法入門」です」
「九属性。そんな便利なものがあったか。……というか合成魔術もか」
「はい……まだ使えませんけど」
おかしい。そんな本があるのはおそらく師匠の家だけだ。……この世界では上級魔道書はほとんど現存していないし、あっても国が管理しているレベルだ。そんな物が商人経由とかで持ち込まれるわけないし……んっ、待てよ。可能性が一つしかないならそれが答えなんじゃないのか。
「なあ、その本を見つけた時期は。後、作者名ってあったか」
「確か兄さまが出発された翌日に書斎に入ったときに机の上にありました。それから作者名は著者 マーリス・フェルナー。監修メビウス・コーリングって記載されてますね」
「……やっぱり師匠か。ということは俺が気づかなかったリリアの才能に五年前に気づいていたと言う訳か……言うの忘れてたのか、それともあえてか……まあ、今度会ったときでいいや」
「お兄様、納得していただけましたか」
「ああ、したよ」
「それでは、二つほどお願いがあるのですが……」
ひとまずリリアの実力の謎が解明した。が、どうやら彼女にとっての本命はここからのようだな。
「ああ、いいよ」
「一つ目ですけど……氷魔法の使い方を教えてください。王立学院でも教えてくれそうにないので」
「もちろん、構わないよ」
「ありがとうございます。……じゃあ、二つ目ですけどお兄様の五年間について色々聞かせてください」
「そんなことなら、いつでもどうぞ。というか、今でもいい」
「はい……じゃあ、時間がなさそうなので一つだけ。お兄様の魔法階位はどこまで上なんですか」
これはまた率直な疑問が来たものだ。これは五年前の俺なら答えていなかっただろうが、今の賢者の弟子という立ち位置があるなら、家族や友人ぐらいになら話してもいいだろう。なにより魔人殺しの功績で、既にある程度の位は得られそうだしな。
「魔力量が超越級第十二階位。その他の全ての属性魔術が第十二階位まで。さらに物理魔法全十二階位と召喚魔術が第八階位まで、かな」
「すいません。全属性というのは……」
「火、水、土、風、光、闇、氷、雷、星の九属性だね」
「……お兄様、本当にすごいです。私なんかとは比べ物にならないほど……」
「いや、リリア。おかしいのは俺であって、リリアは魔術師としては世界最高峰だからね。俺や師匠たちは特例」
リリアが俺と比較して、自分を卑下しているが、彼女も魔術師としては異常なレベルだということを認識してほしいものだ。俺や師匠とセーラさんのように人外は考えない方がいい。
「なっ、だから気にするな」
「はい……分かりました」
「よし、それでいい」
「リリア様……で、隣にいるのはクライス様ですか」
「はい。……ああ、ラムスさんですか。お久しぶりです」
「ええ、お久しぶりです。……それよりお二人とも魔力はまだありますか」
リリアが立ち直ったところで、俺に声をかけてきた守備隊長のラムスさんは、俺の記憶とほとんど変わっていなかったが、妙に焦っていた。
「私はほぼ全快ですよ」
「俺も九割ぐらいはあるけど……一体どうした」
「魔人の被害にあった領民や兵の治療が追い付かないんです。それでお二人に大至急、来てもらうようにと子爵様が」
「すぐ行く。場所は」
「子爵邸の前庭です。あっ、呼び名が変わったただけで場所はそのままです」
「了解。じゃあ、リリアとラムスさんはその場を離れないで。ちょっと特殊な転移をしますから」
「は、はい」
「分かりました」
「じゃあ行きますよ…<
一度行った座標には、瞬時に転移できる物理魔法<
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます