第五話 厄災の生まれた日


「そうか、そういうことなら俺の膨大な魔力量にも、この世界の魔法原理にも説明がつく」


魔法情報というものが俺が研究していた次元間に存在する量子データであるという仮説である。まあ、仮説とは言ったが結構正しいと思う。俺が研究していた量子データという物質の性質をこの世界の魔法原理に当てはめると非常に明快に説明がつく。それになんらかのエネルギー源を持っているというデータもいくつか見つかっていたし。


さらに、俺が調べただけでも次元の狭間には膨大な情報が眠っていた。ということは量子データを構成するエネルギー、すなわち魔力との親和性が高いこの世界の高位魔導士は、その情報を自由に引き出し組み合わせられるのだから、必然的に魔法の万能性も高まるだろう


「ほんとチートだよな、魔導士って。ああ、俺も魔導士か」


とりあえずこの理論なら、次元の狭間には量子データに置き換えられた魔力が満ち満ちているはずである。ということは、


「当然、次元の狭間を通ってきた俺は魔力が多い訳だ。要は魔力の海を通ってきたわけだし」


まあ、理論の正確性はともかく、これで一応説明がつくし、後は俺が魔力隠蔽法を覚えれば何の問題もない……いや、あるな。


「詩帆も同じ条件だからほぼ確実に魔力量が多いよな……尋常じゃないほど」


超越級の魔力なんて異常以外の何物でもないし。まあ、詩帆の方は両親の身分もあるし……最悪なるようになるか。どうにかしてあげたいけど、今の俺にはどうにもできないし。


「まあ、どうか魔力ができるだけ普通であるよう願おう。俺だけが魔力エネルギーの濃いところを通った可能性もあるわけだし」


そういう訳で詩帆の方は神頼みだ。ひとまず理論上は魔力が普通の可能性もありそうだし。


「さてと、魔力の秘密の仮説がたったところで今日の本題、魔法の練習と行きましょうか。……ええと、まずは魔法属性適正チェックか。最初に……」


 教本によると最初は各属性の適正を確かめるらしい。どれだけ魔力量が多くても、六属性の魔法エネルギーのうち、何種類をこの世界で行使できるかは、本人の魔力質によるものらしく、一属性も使えない人もいるらしい。


「ここで、何一つ属性を召喚できなかったら、これだけの魔力があってもすべて無駄になるのか。……頼むから一属性でも適性があってくれよ」


まあ、一属性でも適性があれば魔力量から言えば、それが最高階位まで使えるわけだし……気楽にいこう。


「よし、じゃあ火属性でもいってみますか」


俺は、教本の通りに左手を手のひらを上に向けて前に差し出し、手のひらの上に火の玉が浮かぶ様子を頭に浮かべた。


その瞬間。


「出た。けど青い火の玉かあ。でも、最初の魔法でこんなレベルの物が出るって普通なのか」


確かに火の玉らしきものは出たのだが、思い浮かべていたような赤い火の玉ではなく、青い火の玉が出てきた。


「俺の前世での科学知識が反映されたのかなあ。いや、でもこれ火の玉だと思ってたけどほんとに火の玉か」


前世でもここまで純粋に青い炎というのは見たことないし……本当に炎であるかすら怪しくなってきた。


「でも、そうだとしたらこれは……痛っ」


しばらく考えづけていると頭の上に何かが落ちてきた。


「痛いな、もう何が当たったんだ。なんだ銅貨か。そういえばこの世界の貨幣システム調べてないな。まあ、それはまた今度だ。今は目先のこの炎を……待てよ」


この銅貨をあれに投げ入れれば温度は分かるんじゃないか。確か銅の融点が1080度ぐらいだったし。まあ、前世と組成が同じかどうかは分からないけど。まあ、でも……


「よし、じゃあ実験してみますか。一応距離はとっておこう」


ちなみに出現した炎は俺が手を離しても消えることはなかった。

さらに離れても炎が消えないことを確認して、俺は1メートルほど距離をとって銅貨を投げた。


炎が銅貨に触れた瞬間、コインが……蒸発した。


「……威力ありすぎないか。確か沸点は2500度超えてたはずだぞ。というか、これって属性との相性見るだけだよな。なのにこの威力……先が思いやられるな」


これで、この世界の魔法は効果範囲外のものには影響をもたらさないことが分かった。だって、もし影響があるとしたらこの部屋はドロドロに溶けてるだろうし。


ちなみに後日、この世界の金属の融点などを含めた物理法則はほぼ前世と変わらないということが判明し、それを証明したときにこの世界での物理学の有用性が増したのだが、まあ今は関係がないことだ。


「よし、炎は消しておいて、って言うだけで消えるのか。魔法ってやっぱチートだな。科学とは原理が離れすぎてて理解するのに時間がかかりそうだ」



火の時の状況を考えるとこの判定の際は制御の必要はなく、また余裕もありそうだったので、今度は左手で水、右手で風の玉を作り出してみた。


「できるもんだな。教本にも三属性を行使できる時点で超一流魔導士扱いって書いてあるし、もう十分な気もするが……なんか全属性いける気がするんだよな」


科学的な考察ではなく本当の意味での勘だ。まあ、危ない気もするが同時にどれだけ発動できるかの実験にもなるしいいか。


「じゃあ、まずさっき消した火属性の玉をもう一度出して。次に残りの属性の玉を一気に……」


結論から言うと六属性の玉は出現した。


六属性全て・・・・・が混ざった虹色の巨大な玉として……


「へえ、これが合成魔法か火と水とか反発しそうだけどこんな簡単に混ざるなんて、やっぱ魔法ってすごいわ、うん」


これが全く普通ではないと本人も薄々感じてはいたが自分が人外だと認めたくはないのであえて言わなかった。このことを他人に指摘されるのはまだ少し先の話。



「さてと、とりあえず全属性の魔法は使えるようになったみたいだし、早速教本に書いてある第三階位までの魔法を覚えていきましょうか」


俺はそのまま教本を読み進めていき、その日中に火と水の第一階位魔術をマスターするのだった。




こうして、この日が、後に世界の救世主と呼ばれる魔術師クライス・フォン・ヴェルディド・フィールダーが生まれた日であり、同時に現代の天才物理学者が自重をせず魔法を極めていく実験の開始日となった。


最も、このことはこの時点では、まだ本人ですら知らないことではあったが。

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