オス♂の魔法使い

サクラン

Lesson1

 雑袋を背負った少年は道端で立ち止まった。

「エロエロエッサイム~!」

 何やら怪しい声が聴こえてくる。それほど遠くはないようだ。彼は自分の耳を頼りに駆け出した。民家の角を曲がると――あっ、誰かいる!

 奥に人の姿を発見した。まばらに雑草が生えた廣野に、踝まであるローブを着た老人が低く唸るような声で何かを唱えている。近くまで行ってみると地面の草の生えていない部分には魔法陣が描かれていた。

「あの~お取込み中のところすみません」

 少年が尋ねると老人は顔を上げて振り向いた。

「この辺に魔法学校があるって聞いたんですが……」

「それならここじゃ」

「ここ?」

 汗。少年はキョロキョロと辺りを見渡すが、それらしきものが見当たらない。

「あの、校舎は?」

「校舎などない。そこに学ぶ生徒と教える講師がいれば、そこが学校になる」

 汗。格言みたいなことを言われて少年は困惑した。

「おぬし魔法使いになりたいのか?」

「はい」

 そうかと言って老人は少年と向き合った。少年を上から下から品定めするように眺める。

「わしが魔法を教えている講師のイカじゃ。今日からおぬしをわしのにしてやろう」

「弟子?……ま、まあいっか。僕はオザムです。よろしくお願いします」

 オザムはペコリとお辞儀した。

「では」

 挨拶もおざなりに、イカはさっそくのように切り出した。

「レッスンを始める」

「?」

「まずは魔法使いのローブに着替えてこい」

「持ってません」

 いきなりそんなこと言われてもオザムは何も用意していなかった。イカの眉が片方だけぴくっと上がる。

「何、そんなものも持っとらんのか? 買ってこい!」

「それっていくらぐらいするんですか?」

「ゴウキュウじゃ」

「ええっ、高いなあ……」

 汗。ゴウキュウ――5900en(1en=1円)はオザムにとっては結構な額だった。痛い出費だなあと苦悩していると。

「そこら辺で適当にモンスターを倒せばいい。そうすれば敵が金の生える草の種を落としていく。それを金にして買えばいい」

「金の生える草の種?」

「読んで字の如く、金が生えるふしぎな植物の種じゃ」

「すごい。そんな植物があるんだ……」

「強いモンスターほどたくさんその種を落とす。さあ、行ってこい」

 オザムは学校を後にして、狩へと繰り出した。



【Lesson1.】金の生る種を集めよう


 さっき来るときはなんにも遭遇しなかったけど、これで大丈夫かな。

 護身用に小型のナイフを持っていたが、不安になるオザムだった。てくてく歩いていると……



 モンスターに遭遇した!


 トウセンボー出現。地面の下が二か所割れ、そこからそれぞれモグラのような頭が飛び出す。その口から蔓草を吐き出し、横にピンと張り出したそれに足を取られて躓くオザム。しかしモンスターと気付かず、オザムはそれを避けて歩き出した。すると今度は別の所からトウセンボーがまた二つ頭を出した。蔓草を吐き出して邪魔をする。また躓くオザム。

「なんだよ~」 足元を見て悪態を吐く。さっきもこうやって草に足が引っかかってこけそうになったなと訝る。よく見たらだいぶ不自然だった。二匹のモグラのようなやつの口から緑の蔓草が出ていて、それが自分の足に引っかかっている。そうか……これが。ようやく気付いてポンと掌で拳を打つオザム。彼は近くにあった木の枝をしならせ、それに掴まって川の対岸に着地した。やった、回避成功~! とピースサイン。

 再びてくてく歩き出した。はて……? やばい、このままだと闘わずに店に着いてしまう。

 少し悩んだ末――

 オザムは、あえて森に侵入した。



 モンスターに遭遇した。


 ゴチンッ! 頭の上に硬い物が落花してきた。

「イでっ……!」

 痛さに顔をしかめて涙目になるオザム。ん? 地面に何かが転がっていた。ゴロゴロ、ゴロゴロ。なんだこれ、ヤシの実? するとそれから丸い目玉が見えた。その目玉とオザムの目が合う。ほわ~ん。空気中に匂いが広がった。

「いい香り~」

 ほわ~ん。やわらかくて、優しくて、心地よい香りに包まれて、夢心地になったオザムは地面にへたり込んでしまった。瞼が下っていく。

「癒される~」

「お前、何をしている!?」

 とそこへ男性の鋭い声がした。



 つづく・・・

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オス♂の魔法使い サクラン @90yon

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