第?章 雪村雪見

1話 噂の美少女転入生

 ――ガヤガヤガヤ。


 クラスのみんなは、グループで固まって雑談していた。僕は教室の真ん中の席に座り、ぽつんとしていた。

「ねえねえ、転校生が来るって」

「それ、転入生。 知ってるよ、なんか芸能人なみに可愛いって」

 女子のグループ以上に、男子のグループは鼻息を荒くしていた。

「おい、見たかよ。おっぱいでけぇぞ」

「デブじゃねーのか、お前の性癖知ってんぞ」

「俺はデブ専じゃねーつってんだろ! ウエストも制服の上から分かるくらいキュッとしててよぉ、しかもAV女優みたいに美形なんだよ」

「トイレ行ってこいよっ、時間あるだろ」

「おお、マジ行ってこようかな」


 僕はいつもどおり、ただ聞いているだけだ。どこのグループにも入れない、ボッチだ。幸いイジメられてはいないけど、そんな人間がクラスでは僕一人なのが嫌だった。そろそろ過ぎた高校デビューにも見切りをつけなきゃならない。女子の短すぎるスカートの中は、またショートパンツだ。生パンくらい晒してくれよ。だったらスカート短くするなよ。後ろの女子グループは生パンらしいが、振り返るわけにも行かない。今度は本気で鏡を持ってこようか。そう考えるだけで、股間が固くなってきた。しょっちゅう勃起するのも迷惑なんだけど。


 予鈴と同時にムサ先生が入ってきた。筋肉ガチガチでむさ苦しいから、クラスのみんなはムサ先生と影で呼んでる。怒らせると本当に怖いらしい。タバコを吸っていた生徒を払い腰で廊下に叩きつけたとか、保健室でヤッてたカップルを平手打ちで病院送りにしたとか。あまつさえ、体罰で訴えようとした保護者に肘打ちで気絶させて脅したとか……、とにかくムサ先生は怖い。柔道の顧問以外、授業をしていないってだけありがたいけど、よりによって入学当初から噂だった先生が担任だなんて。


「おまえら、今日も全員来とるな。さっそくだが転入生を紹介する」

 教室がざわついた。ウチのクラスだなんて、誰も予想してなかったらしい。

 引き戸が開けられると、ふわふわボブ・ショートの女の子が入ってきた。前の学校の制服なのかかなりオシャレなブレザーを着ていた。僕には芸能人というよりお嬢様の印象が強かった。目はやや切れ長で、顔は小さくて丸顔、チークは赤くて、首は細い。胸は本当に大きい、きっと学校で一番だろう。ウエストはブレザーに隠れててわからない。お尻が丸いのか、プリッツスカートは跳ねているのが目に焼き付いた。脚はニーソックスで、物凄く細い。骨格が生まれつき細いんだろう。

 この娘、本当に人間なのか?

「ひ⁉」

 僕がそう思った瞬間、彼女がこちらを向いて笑った気がした。偶然だろうけど、なぜか背筋が凍った。


「よし、軽く自己紹介してくれ。黒板に名前書いてくれるか」

「はい、先生」

 笑顔で答えると、後ろを向いて背伸びをした。見えそうで見えないスカートの中に男子たちは釘付けになった。もちろん、そんな僕もだ。

 書き終わり振り返ると、深々と頭を下げた。


「雪村雪見と言います。よろしくおねがいしますね!」

 なんという、屈託のない笑顔だ。だけど、なぜだ。どうして僕は彼女のことが怖いんだ? でもクラスからは歓声が挙がった。

「天使は本当にいたんだ!」

「きゃんっ、可愛い」

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