第二十六幕 さざなみの追憶点
ベッグの実家は、海岸沿いにあるホビット庄の、簡素と言っても良い石組みの家のうちの一つだった。白く塗られた壁は年季があってボロボロだった。魚の匂いが染み付いていた。
「お袋、帰ったぞ」
「お帰りベッグ。あれあれ、まあまあ」
ベッグが俺たちを伴い家に入ると、彼の母親はすぐにそれに気づき、足早にやってきた。そして、息子が連れてきた来客のうち、特にカリラとレゼルに大変な興味を示した。
「また偉い別嬪なエルフを連れてきたもんだね、しかも二人も! 明日はシケでも来るかね」
「お袋、この子らはエルフじゃねえ、人間だ。確かに人間にしちゃあ顔整ってるけどよ」
ベッグはそう言って鼻を鳴らすと、俺たち三人を母親に紹介した。
「そうかい、そうかい。都から来なすったのね。よう来たねえ。わたしゃこの子の母親のコリーヴよ。なんも無いとこだけど、ゆっくりしておいきよ」
ベッグの母親――コリーヴさんは善良を絵に描いたような、優しそうな女性だった。身長は100センチないくらいで、ベッグと同じくずんぐりしていて、皺だらけの手でカリラとレゼルを抱きしめた。
「おい魔王、琥珀の湖に行くぞ。付いてきな」
荷ほどきを手早く終えたベッグが、俺にそう声を掛けた。
「お袋、ちいと水を汲んでくるわ」
「はいよ。ちゃあんとメイルちゃんの分の水草採って来るんだよ」
「わあってるよ」
俺とベッグが外に出てると、浜辺で海藻を食べていたメイルがこちらにやってきた。まるでこれから琥珀の湖に行く事を分かっているかのようだった。それにつられて、波打ち際で遊んでいたカリラとレゼルもやってきて、結局四人と一頭で、湖へ向かう事となった。
「ベッグさん」
森へと歩く道すがら、カリラは先頭のベッグに声を掛けた。行く先に道らしき道はなく、延々と背の低い草が生えただけの大地が広がっていた。レゼルは草を
「どした、猫姫さん」
「ここはずっと、夜も、この波の音がしてるんですか?」
カリラのその問いに、ベッグは心底愉快とばかりにがははと笑った。
「そんな質問されたのは初めてだぜ。猫姫さんは生まれも育ちも都だもんな。海を知らねえってのはそういう事か。あんたの言うとおりだぜ。このホビット庄では、寝ても覚めても潮騒だけが音楽よ」
湖に至る道中、俺達は数人のホビットの男達を見た。彼らは逞しい両腕で、使い込まれた鋤を両手に持って、
琥珀の湖は、ホビット庄の北にある、なだらかな丘を越えたすぐ先にあった。海岸から近い場所にあったが、水は確かに淡水で、ベッグの言う通り柔らかく冷たい水だった。遠くに見える対岸には、先程通ってきた森が広がっていた。
「おれはちいとメイルの水草を採ってくっから、あんた達はこの辺でゆっくりしててくれ。あの対岸には行くなよ。あっちの森はエルフ領だから、人間が立ち入ると面倒事になるからな」
家から持ち出した桶に手早く水を汲んだベッグは、そう言い残すと上着を脱いで湖の中に入っていった。メイルも、当然のようにそれに付いていった。その折にちらりと見たが、彼女の首元にはエラらしきものがあった。メイルは魚よりも優雅に湖面を泳ぎ、水草を食べていた。
俺は、湖のほとりに立ってその様子を半ば呆然と眺めていた。
レゼルはしゃがみ込み、湖の水を両手で掬い上げ、しげしげと観察していた。
「ねえカラン、ここの水、なんでこんなに茶色なの」
言われて俺は、レゼルの手のひらに集められた水を見た。その水は確かに茶色で、彼女の白い手の中を
「ホビット庄に来る前、泥炭の話しただろ?」
「ええ。何万年も堆積した、燃える泥の話よね」
「そうだ。恐らくだが、ホビット庄の土壌の殆どは、その泥炭で出来ている。その土壌に雨水が染み込んで、地表に湧き出て来るまでに、水はその泥炭の層をくぐる。その過程で、水に泥炭の成分が溶け込んで、こうした色の水になるんだ」
「ふぅん……」
俺のその返答に興味があるのかないのか……レゼルは掬った水を嗅いで「不思議な香り」と呟き、口に含んで「美味しい」と呟き、俺を見上げた。
「それで、貴方はどうするの?」
「…………」
最近思うが、俺とレゼルのやりとりは、必要最低限の字数にすらなっていない。
だが、フィーリングが合うというかなんというか……俺たちのやりとりは、そうした短い言葉で十分に成立した。レゼルの意図を解した俺は、やはり最低限の言葉を、彼女に返した。
「ベッグとともに、新しい酒を作るよ」
「あの火みたいに強いお酒が、王都で葡萄酒に取って代わるとはとても思えないわ」
「取って代わる必要はない。生産は最低限で良い。俺たちの作る酒を愛してくれる一部の人が生まれれば、それでベッグも、コリーヴさんも十分に食っていける。俺はその過程を手伝うだけさ」
「……それって、どういう過程なんですか?」
カリラがそう問うてきた。手慰みに水辺の草を編んでいるのが、なんとも彼女らしかった。
「このホビット庄に蒸溜所……酒蔵を作るのさ。仕込み水はこの湖から引いてくるから、酒蔵は出来るだけここから近い場所が良いな。そして、王都から大麦を仕入れてきて酒を作る。出来た酒を瓶に詰めて王都で売る、それだけだよ」
「あの、先生」
「うん?」
「昨日ベッグさんが持ってきたお酒は、まさしくそうやって作られたものですよね? でも、ホビット庄に来る前に、先生はベッグさんに、『あのお酒はまだ完璧じゃない』って仰いましたよね」
「はは、良く気付いたね」
カリラの、その素朴な質問が嬉しくて、俺は顔を綻ばせ正面の湖を見渡した。
水面は静かに揺れている。穏やかな風が木々の隙間を縫っていて、遠くの小鳥のさえずりを運んできている。土の匂いが心地いい。
琥珀の湖は、まさしく、酒を作るにも
「あの酒は……ウィスキーは、あと数段美味くなるんだ。最後の工程を加えれば、ね」
✳︎✳︎✳︎
しばらくして水から上がってきたベッグとメイルと、俺たちはホビット庄に戻った。
夜、俺たちは申し訳ない程に、コリーヴさんに歓待された。ベッグが琥珀の湖で採ってきた
「ベッグ、昨日頼んでたあれ、出来てるか?」
「おう。抜かりないぜ。水漏れしねえのも確かめた」
食後、俺がベッグにそう尋ねると、彼は気前よく返事をして、鞄の中から彼の手のひらに収まるほどの小さな樽を取り出した。
「わ、可愛い樽……どうしたんですか? それ」
「俺が昨夜、ベッグに頼んでたものだ。葡萄酒の空き樽をくずして作って貰ったのさ」
俺はベッグから樽を受けとり、ベッグが拵えた透明のウィスキーをその樽に注ぎ込んだ。
「それが貴方がさっき言ってた、最後の工程ってやつかしら」
「ご明察。ウィスキーは樽で寝かせて、はじめて完成するんだ」
「寝かせるって……どれくらい?」
「ものにもよるが、一般的には三年、上等品だと十年から三〇年くらいかなあ」
「そんなに待つんですか……?」
「その点は大丈夫さ。腐っても俺は魔王だからな」
そう言って俺は樽に手をかざした。意識を集中すると、すぐに魔術は発動した。
もう随分と使い慣れた、白い反応光。回復魔術による、時間経過作用だ。
自分の身体から、指先を介しみるみるうちに魔素が放たれていくのが分かった。魔素は目の前の樽の時間経過を急激に促進させ、中に満ちるウィスキーの熟成をなしている筈だった。
だが、そのために費やされる魔力の量は、葡萄酒や麦酒を作るときとは桁が違った。自分の身体にはこんなにも魔力があるものなのか……魔術を使いながらも俺は、カラン・マルクの肉体に宿る魔力の総量に驚いていた。
そして、魔素の放出がある一瞬を越えた瞬間、
「……え?」
自分の脳裏を、何かのイメージが
それは強い郷愁にも似た、やけに真理めいたものだった。
――ああ、そうか。
――この感覚こそが鍵だったのか。
――これが分からなかったから、俺は、カラン・マルクの例の理論を、これまで再構築出来なかったのだ。
――肉体から急激に魔力が失われたとき特有の、精神体への過剰な負荷。それが次元跳躍の基礎理論の根幹になっていたとしたら、全ての辻褄は合う。そうだ。 カランのノートでは、精神体は高純度の魔素の集合体と捉えられていたではないか。魔素の移動には電位差や水圧に近い法則性があるのだ。空気中の魔素濃度と、魔術が自然界にもたらす影響度は相関している。そして空気中の魔素の総量が月の満ち欠けの影響を受ける事、そう、だから
「カランっ!」
「っ!」
その悲鳴のような叫びを聴いて、俺は急に我にかえり、魔力の集中を止めた。
「ねえ、どうしちゃったの!? 急に人形みたいに動かなくなって……」
俺のすぐ隣で、レゼルは俺の肩を揺さぶっていた。額に玉のような汗が浮かんでいた。
その向こうで、カリラは口を閉ざし、静かに俺とレゼルを見守っていた。
自分の身体は信じられないほどに疲弊していて、頬を冷たい汗が這っていた。
「…………」
俺は椅子に腰掛けたまま呆然と、目の前の樽を見ていた。
目の焦点は、オートフォーカスの壊れたカメラのように、樽と机の間を行き来していた。
――分かって、しまった。
カラン・マルクの部屋から失われていた、世界の秘密。
次元跳躍の基礎理論、その足掛かりとなるものが。
元の世界に帰る、その手段が。
「レゼル、俺」
だが、隣に座るレゼルの方を見て、口を開いた俺は、それきり何も言えなくなってしまった。
レゼルが今にも泣きそうな顔で俺にすがっていた。頬は白く、震える唇は青ざめていた。
――次元跳躍の足掛かりを掴んだと言えば、この子はどう思うだろうか?
「……はは、心配掛けてごめん。こんなに魔力を使ったのが初めてだったから、加減が分からなかったんだ。まだちょっと、頭がぼーっとしてるよ。でももう大丈夫だ」
俺はそう言って無理に笑い、目の前の樽に手を伸ばした。
――良かった。手は震えていない。
その事実に内心安堵し、俺は樽を傾け中身をグラスに注いで見せた。
「う、うおっ」
その酒が注がれた瞬間、ベッグが驚きに声を漏らした。当然と言えば当然だ。その酒は、樽に入れられた少し前とは打って変わって、この地に湧く水のような琥珀色をしていたのだから。
「なんで色が変わってんだよ……それに香りも」
「樽の内側の木の成分が、酒と反応したからだよ」
ベッグの素朴なその問いに、俺はつとめて平然を装い答え、グラスを彼に差し出した。
「飲んでみろ、ベッグ」
「…………」
ベッグはゆっくりとグラスを手に取り、傾けた。酒の一雫が彼の舌先に当たった瞬間、ベッグは更なる驚きに目を見開いた。
「う、うめえっ! ……なんだこれ、角が取れてるっていうか、別の酒みてえに、味が丸くなってる。木の香りと色と、微かにだが葡萄酒の甘い感じもしっかり染み込んでる」
ベッグは興奮冷めやらぬといった様子で、グラスの酒を一口飲んでは、新たな発見を呟いた。
「正直言うと、おれ、不安だったんだ。あの酒は確かにうめえが、それでも王都に居場所を作れるか分からなかった。でもこれならいけるぜ。すげえ、これが魔王の叡智……想像以上だぜ」
「あ、あたしにも頂戴よ」
「先生、私にも頂けますか?」
ベッグのその反応に興味を持ったレゼルとカリラも酒の試飲を所望した。勿論と俺は頷き、カリラとレゼル、そしてコリーヴさんにそれぞれ酒を注いだ。そのままでは強すぎるため、湖の水で割ったものを、彼女たちに手渡した。本当は氷を作って入れてやれればベストだったのだが、残念ながらその魔力は残っていなかった。
「……! うん! 相変わらず煙の匂いが強いけど、昨日のよりずっと飲みやすい!」
「この湖の水で割ってるのが効いてるんですね。お酒とお水が綺麗に噛み合ってる感じです。美味しいし、なんていうか……すごく、美しいお酒だと思います」
「こんな美味い酒をベッグが作ったのかい……わたしも歳をとる訳だねぇ」
女性陣のそうした評価を聞き留めながら、俺もまた酒を一口飲み、皆にバレぬよう小さく溜息をついた。
――やはり、駄目だったか。
確かにベッグや皆の言う通り、樽から出てきたその酒は、前よりも格段に美味くなっていたものの、俺が前世で飲んだものとは程遠かった。麦の品種選定、麦芽の乾燥、醸造、蒸溜、熟成……ブラッシュアップすべき工程は、まだ山のようにあるのだった。
「ベッグ」
「あ、ああ……」
「まだかなり粗いものではあるが、この酒が、俺が作ろうとしているものの原型だ。これからこのホビット庄に、酒蔵を作って、ここの水と王都の麦で酒をつくり、お前が作ってくれた釜で蒸溜して、樽に詰めて森で寝かせる……そういう計画はどうだろう?」
「……そうしたら、さっきみたく魔術を使わなくとも、このうめえ酒が作れるのか? おれにも?」
「もっとだよ。ベッグ。樽は絶え間なく呼吸をしている。この海辺のホビット庄で眠らせた樽は、寒い雨季に潮風を吸って、暑い乾季にそれをはき出す。そうして何年も呼吸を繰り返した酒は、今飲んでいるこいつよりも格段に美味くなる」
ベッグは俺のその言葉を、天啓を仰ぐように聞いていた。
そこからは、ただただ、楽しいだけの時間が続いた。
ホビット庄のどこに、その酒蔵を作り、年間の生産量はどれくらいで、蒸留釜はどれくらいの大きさにするかを話し合ったり、出来上がった酒を何年寝かせて、どういう風に瓶詰めして、それを銀貨何枚で売るだとか……そうした皮算用を、すっかり冷めた焼き魚と、残り少ない酒とともに、夜通し語り合った。レゼルも話に乗っかった。すっかり顔を赤くした彼女は、課題だった初期投資を、シャルトリューズ家で出すとまで言ってくれた。
俺は、前世の大学時代、研究室で、研究内容や将来のことを、先輩や同期や後輩たちと一晩中語り合ったことを思い出していた。金も時間もなくても、いつだって、どんな世界でだって、誰かと一緒に物作りをするというのは、楽しい事だった。
自分の中の歯車が大きく動き出したような、不思議な充足感と多幸感が、心の中に満ちていた。これからベッグやレゼルと織りなす日々は、ともすれば前世で酒職人となるよりももっと、やり甲斐がある事のように思えた。
夜は瞬く間に過ぎていった。俺たちは酒と雰囲気にすっかり酔っていて、カリラとコリーヴさんがいつ寝たのかも分からないほどだった。
✳︎✳︎✳︎
翌日。
暖炉のそばで気を失うように寝ていた俺は、波の音と海鳥の鳴く声で目を覚ました。
「ん、う」
俺は大欠伸をひとつして、上半身を起こし周囲を見回した。
ガラスの嵌っていない窓から、潮風と朝の光が差し込んでいた。
どうやら昨夜は酔いと疲れで、そのまま石床の上で眠ってしまっていたらしい。寝起きの身体は節々が痛く、頬には床の模様の跡がくっきりと付いていた。
「やっと起きたわね、カラン」
俺が外を見ながらぼうっとしていたら、隣の部屋からレゼルが出てきた。
「……おおレゼル、お早う」
「もうお早うっていう時間じゃないわよ。顔を洗って外行って、目を覚ましてきなさいな。あと、ついでにカリラを呼んできて頂戴。海のほうにいる筈だから。朝御飯食べたら出発するわよ」
レゼルの言う通り、朝というには太陽は高く、寝起きの目にその輝きは些か毒だった。
どうやら寝坊したらしい。朝を告げる王都の鐘の音はホビット庄までは届かない。そしてカリラも、今日は俺を起こさなかったらしい。俺は身体を大きく伸ばしながら、砂浜へ歩いた。
寝汗で肌着の下が蒸れていて、少し気持ちが悪かった。
カリラはすぐに見つかった。
彼女は身支度をすっかり終えていて、砂浜に降り立って海を見ていた。
旅の折いつも着ている焦げ茶色のコートが、潮風に煽られはためいていた。
「お早う、カリラ」
カリラは返事をしなかった。
後になって思い返せば、彼女が俺の挨拶を返さなかったのは、それが最初で最後だった。
吹きつける冷たい潮風と、絶え間なく続く波の音で、耳は半分ほども機能しなかった。砂浜は水面のように揺らめいて、波は俺とカリラの足先に柔らかな砂を運んでいた。
「あの海の果てには、何があるんですか?」
海を見つめたまま、カリラはそう、俺に問うた。
「海に果てはないよ。あの
「それは、この場所よりも素敵なものなんでしょうか」
その、カリラの一言に、何か重大な意味が込められているように思え、俺は隣に立つ彼女を見た。果てのない海に向かい立つカリラの横顔は、はためく黒髪に邪魔されて、わずかな輪郭を俺に見せるのみだった。
「……少なくとも俺にとって、今この砂浜よりも大切なものは、例え海の果てにさえないよ」
出発の時間は刻々と近づいていた。それは、彼女も分かっているはずだった。
カリラはかがんで、靴の紐を解き、裸足で砂浜に降り立った。
カリラの足は砂浜よりも白く、小さく、とても長旅に耐えうるようには見えなかった。
一歩、二歩、彼女はその足でさざなみの方へ歩く。その細い両腕を鳥のようになびかせると、焦げ茶色のコートが脱げ、砂浜に落ちた。中に着ていた、洗いざらしの白いブラウスが、風を受けばたばたと暴れていた。俺はその様子を、何かに縛り付けられたように、ただ見ているだけだった。
「先生は、太陽みたいです」
カリラのその呟きのような声は、彼女の口元から発せられる度に、砕ける波に掻き消えた。
「いつもいつも輝いていて、あったかくて、傍にいると、まるで私自身も輝いてるように思えます。ずっとその暖かさの中に居られたらいいなって、思います」
彼女は海に至る。その足に幾重にもついた砂粒を、波が瞬く間に洗い流してゆく。
こちらを振り返る。にこりと笑う。屈託無く、よく晴れた冬の陽のような――
「先生、覚えていてくれますか? ずっとずっと、覚えていてくれますか? この先にある、あなたの輝かしい日々の一欠けに、私が確かに傍にいた事を。この時間が確かにあった事を」
――覚えているよ。カリラ。ずっとずっと、覚えている。
君のその一言は、君をとりまく風景とともに、今でも、俺の最も深い場所に刻み込まれている。 まるでビデオゲームのセーブ・データを読み込むように、寸分の劣化なく、水面の光を、潮の香りを、風の冷たさを、砂に埋もれてゆくコートを、君の笑顔を、思い出す事が出来る。
波は幾重にもカリラのもとを過ぎ行く。
その度に、彼女の足元の砂を攫ってゆく。
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