初クエ:出発前から
ギルド会館を入って右側に今回の集合場所であるフリースペースがある。でも今2人が向かっているのは入って左側にある資料室という場所。資料室には、色々な場所の地形情報やモンスターについての情報が山のようにある。そこで二人は時間潰しに今日クエストで行く場所の地図や人口などの情報、そして討伐対象モンスターのゴブリンの生態情報などを探し読んでいた。
アトラス地方
標高三千メートル級の山々からなる山脈、並びにその麓にある街などを含めた場所である。標高千メートルのあたりまでは比較的になだらかな斜面になっているため、そこで狩りや果物の栽培などをして生活している人もいる。山から川が流れているので水に恵まれている土地ともいえ、穀物などの生産も盛んに行われている。
「今回行くところは山岳地帯か、一体何しに街に降りて来てるんだ。」
今回行くのは国の郊外にあるアトラス地方のトゥブカルという街、その付近の森の地図を見てライガーが囁く。
「多分食べれるものを探してるんじゃないかな。いつもならこの時期そろそろ暖かくなっても良いのに、今年はまだ寒い日が続いているからきっと食べれる物が無いんだよ。」
今年は近年稀に見る寒さで、これだと作物を育てることを生業にしている人たちは大変だろうと、隣のおじいちゃんが言っていたのを思い出した。
「もしそうだとしたら厄介だな。」
ライガーが資料から目を離さずに告げる。
「どうして?」
仮に、本当に食べれる物を求めて街に降りて来ているならば、今は空腹である可能性が高い、だから相手は弱っている可能性がある。厄介になる要因はないと思っていた。
「生き物ってのは腹が減るとどうにも凶暴化するものだろうからな。トレントがそうだったろ。」
確かにトレントは学生時代昼休みに近ずくにつれてムスッとした顔になっていた。彼はお腹が空き始めるとどうしてもイライラする性格らしい。もし今回のゴブリンたちもその時のトレントと同じならこれはかなりの厄介者になる。
「それならいっそ大量の食料を持って行ったらクエスト達成できたりして。」
まあ、そんなに大量の食料を持っていく荷馬車を借りるお金なんて持ってないけどね。などと考えているとライガーが、
「餌付けしたらまた降りて来るだろ。」
「ごもっともでございます…」
そんなこんなしていると集合時間になり、僕たち二人は資料室を出た。向かいにあるフリースペースに行くと人影が一つ見える。
「よう、時間ピッタリだな。」
片手を上げながらそう言うトレントは、ライガーと同じような全身を覆う鎧を着ているが、ライガーよりもかなり軽くなっているライトアーマーと呼ばれるものだ。
職業はナイトウィザード、魔剣士である。ウィザードの職業とややこしいので単にナイトと呼ばれることがほとんどだ。腰には刃が少し短い両手剣がぶら下がっている。
「まあな、予定よりも大分早く着いたから時間になるまで二人で資料室にいたんだ。」
そうライガーは告げると、トレントは顔をしかめる。
「二人か…」
僕達のパーティーは四人パーティーだ、トレントが集合場所に来ていて、僕とライナーの二人が今到着した、つまり一人来ていない。
「あれだけ遅れるなといったのに、あいつは。」
トレントは大きなため息をつくと。
「馬車の時間もあるし、今回ばかりは待ってやれない。先に出発しよう。」
そう呟くようにして言った。
四人目のメンバーであるカリンという女性は、昔から集合するとなるといつも遅刻していた。だからトレントも今回はかなり口酸っぱくいったのだろう、かなり呆れてしまっている。
「まあ、カリンの事だから馬車がある城門に着くころには走ってくるかもよ。」
彼女の事を精一杯フォローしてあげようと思ったがこれぐらいしか言えなかった。ギルド会館から城門までは約十分ほど歩けば着く距離だが、彼女が集合時間の十分以内に来たことは今まで一度も無かった。
「本当にあいつの遅刻癖はどうにかならないもんなのか。」
そんなことを言いながらトレントはギルド会館の出入り口に足を向ける。ライガーもため息をつき肩をすくめながら、
「行こうぜ。」
と、僕に言う。
「そうだね。」
僕もそう答えると、三人でギルド会館を出発した。
ギルド会館を出るともうすでに太陽は完全に顔を出していた。そんな太陽が照らし作り出した影の中を、三人は今回のクエストについて喋りながら馬車の待つ城門まで歩いて行った。
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