初クエ:早すぎる朝から
三日後、外の空が薄明るくなっていたがまだ太陽も出ていない時間。自分でも驚くほどに早く起きてしまったらしい。
もう少し寝るにも全く眠気が来ないから、早いが朝ごはんを食べること決めた。
朝ごはんを食べ、歯を磨き顔を洗う。それでも集合時間にはまだまだ早かったが、特にする事もなかったので出発の用意を始める。この日のために買っておいた鎖帷子とレザーアーマーを身につけて、ここ数日頭を悩ませてアイテムを入れた大きめのショルダーバッグを下げ、その上から防水性をもった木綿製のポンチョを羽織る。
そして初クエスト決定の知らせを受けた次の日、また家に来たトレントに渡された一枚の紙を机の上から取り上げる。
目標:ゴブリンの討伐
場所:近郊の森
コメント:最近近郊の森の近くの街からゴブリンの出現が頻発しているとの報告がありましたので討伐に向かって下さい。
人生で初めてのクエストの依頼書。それを自分の部屋に持って行く。本棚に置いてある木の箱を取り出し、そしてまだ中身の入ってないその箱に依頼書を入れ、蓋をする。これから中身がどんどん増えていくであろう木の箱の表面を、顔の筋肉が少し緩くなるのを感じながら撫る。それから箱を元にあった位置に戻すと、玄関に向かい靴を履き外に出る。
玄関をでると太陽が少し顔を見せ始めていた。鍵を閉め、大きく息を吸い、早朝の新鮮な空気を体全体に染み渡らせる、
「よしっ!」
と、一言気合を入れて冒険への一歩を踏み出した。
太陽に照らされて輝いている街中を足取り軽く進む。いくつか曲がり角を曲がると少し先に人影が見える。
その人間は、この間来たトレントと同じくらいの大男で、全身ピカピカと輝く新品のプレートアーマーを着て、背中に頭から膝まである盾を背おい、その盾に隠れる位置にウエストバックを付け、左腰に片手剣、右腰に脱いである冑をぶら下げている。
その男は僕達のパーティーメンバーのライガー。
職業はルーク、前衛職でパーティーの盾役だ。だから防御力重視の頑丈な鎧を着て大きな盾を持っている。
それに比べて、生産系のアルケミストである僕はそこまで前線に出ないため、防御力より動きやすい装備にしてある。
「おはよう、調子はどう?」
彼に追いつくように小走りで追いかけて声をかける。
「おっ、よう、フェルト驚かせるなよ。」
どうやらいきなり声をかけたためビックリさせてしまったらしい。
「あぁ、ごめん。驚かすつもりはなかったんだ。」
おかしい。普段はこんなにこんな事で驚くような奴じゃない。何かいつもと様子が違う。
「あんまり調子よくなさそうだけど大丈夫か?」
「え、あぁ、少し緊張してるんだ。なんたって待ちに待った初仕事だからな。」
そういうとライガーは大きく深呼吸する。
「ダメだな。パーティーの盾役の俺が緊張して固まってたらみんなを危険な目に合わせてしまうかもしれない。」
初めてのクエストに大分硬くなってしまっているようだ。確かにパーティーの防衛の要が緊張で動けないとなるとパーティーが全滅してしまうかもしれない重大事項だ、だが今回はそんなにたいそうなクエストでもない。
「大丈夫さ、今日はゴブリンの討伐なんだから。そうそう危険な目にはあったりはしないよ。」
ゴブリンは人間の子供くらいの大きさで、力も弱く頭も悪いため、新設のパーティーの初クエストによく出てくる。そのため、正直ルークの象徴である大楯を使う機会はほとんどないだろう。
「そういえば、まだ集合時間より全然早いのにもう集合場所に行くの?」
ふと気になったので聞いてみたが、そんな事を言っている自分だってこんな早い時間に集合場所に向かっているのだから人の事は言えたもんじゃない、
「いや、朝早くに目が覚めてしまって何もすることが無かったからな。どうせなら今日行く場所がどういう場所なのか資料室で調べておこうと思ってさ。そういうお前も随分早いじゃないか。」
やっぱり聞き返された。
「僕も随分早く起きちゃって、二度寝するにも全然眠くないからさ、ギルド会館で超余裕を持って待っておこうと思ってね。」
そう笑って答える。そうするとライガーも笑い、
「そうか、お前もか。じゃあ俺といっしょに来ないか?一人でいると時間を忘れて集合に遅れそうだ。」
どうせ何かしようとは考えていなかったので、その誘いに応じることにした。
現地や目標になっているモンスターの事を調べておく事は重要な事だ、どうせ暇なら時間を有効的に使おう。
「分かった。僕も付き合うよ。」
そう言って、二人はギルド会館に着くまでの間、今日のクエストについて色々と話をしながら歩いた。
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