第212話 なお、後半戦とする
前回のあらすじ。校内放送を任された私と菜華は魔王になったり彼女を狙ってる元カノの曲を弾いたりして間を持たせ、お情けでメールをもらえるところまで何とかこぎつけた、以上。
夢幻:じゃあ早速お便りを読むね!
菜華:うん
夢幻:「がんばれ〜!」……はい!
菜華:え、終わり?
夢幻:私達がわたわたしてたから応援してくれたんだね!
っさいわ、頑張ってるわ。と言いそうになったが我慢だ。我慢。ほぼ同時に届いていた他2件のメールについても似たような応援だった。話題の肥やしにならなさすぎてつらい。
しかし、よく考えれば、「あ! もたもたしてる! なんか送らなきゃ!」とすぐに行動してくれた人達のメールが、内容の濃い長文な訳がないのだ。
逆に言うと、「なんか質問してあげよ!」と濃いめの内容について考えてくれてる人からはこれから来る、はず。多分。
菜華:あ、また来た。「菜華さんはギター歴どれくらいですか!? 俺は始めて3ヶ月くらいでまだ全然上手くできないです! おすすめの練習方法とかあったら教えて下さい!」って書いてある
夢幻:そっか〜
なんで高度情報技術科の生徒としてここにいるのにギターの話になるの、とは思わなくはなかったけど、もう話題ならなんでもいい。方向性を変えよう。高度情報技術科にはこんな生徒達がいると認識してもらう放送にする、ということで。
別にいいでしょ。それ自体の放送は前回志音達がやってたんだし。聞いてる人ほとんどいなかったと思うけど。
菜華:ギター歴は小5から。エレキかアコギかにもよるけど、おすすめの練習方法は常にギター触ってること
夢幻:キャプテンやってるツバサ君みたいだね!
菜華:スポーツのことはよく分からないけど、自分の体以外の何かを自在に操りたいなら、体に慣れさせるのは必須なんだと思う
夢幻:菜華は1日どれくらい練習してるんだっけ?
菜華:毎日、少なくとも2〜3時間は触ってる。休みの日は……最近はあまり触れてないけど、多分平日の倍くらい。予定が無い日は10時間くらいだと思う
夢幻:あの、これは変人のスケジュールだから、みんなは参考にしない方がいいよ
なんとなく普通に会話してみせる私達だが、一つだけ気付いて欲しいポイントがあった。そう、徐々にテンションを落として、私はやっと普段の自分っぽく喋ることができるようになってきたのだ。
やっとだよ、ここから。ここからが本番だよ。いやもうずっと前から放送始まってる的な意味で本番だったんだけど。
菜華:他にもメールが届いている。「先日、テレビでデバッガーのドキュメンタリーを観ました。カッコいいなーとは思いましたが、それと同時に、僕には出来ないなーと思いました。二人はどんな理由で高度情報技術科への進学を決心したんですか? 答えにくいことだったらごめんなさい、無視してもらって構いません」。以上
夢幻:これ、志音達のときも似たような質問来てたよね
菜華:囚人を見かけたら「罪状は?」って訊きたくなるのと少し似てる
夢幻:菜華はともかく、私を罪人にしないでくれる?
菜華:私は……端的に言うと、ギターが弾きたいから
夢幻:詳細は省くんだけど。冗談じゃなくて本気で言ってるんだよね、この人……ちょっと信じられないよね……
菜華:むっ。じゃあ夢幻はなぜこの科に?
夢幻:成績がいいからなんとなく一番難しい科に入ってみただけ
菜華:私よりも夢幻の理由の方が信じられないと思う……
夢幻:絶対言われると思った
さすがにこれは自覚があった。というか、後々になって芽生えてきたというべきか。高校生になってから、普通の実習だけで、何度か命が脅かされているのだ。その度に「あれ……デバッカーってヤバくない……?」って気付いてきたっていうか。
普通の実習だけで、と言ったのは、ほら、雨々先輩に命握られてたりするので。改めて考えると、私ってすごい可哀想だな……。
夢幻:だって、そういうのって実習中の事故でごく稀に発生することだと思うじゃない、普通
菜華:それはそう。私も、まさかほぼ毎年クラスメートが減る程のハードさがあるとは考えていなかった
夢幻:私みたいになんとなくで入った人はあんまりいないだろうけど、みんながそれぞれ重たい事情を抱えてるって訳でもないと思うよ。カッコいいからなりたいって、ただそれだけの人もいるんじゃないかな
菜華:うん。むしろそれが健全。重たい事情なんて抱えないに越したことはない
夢幻:たまにはいいこと言うよね
なんとなくペースが掴めてきた。メールが届くまではのんびり与えられた話題に乗っかっていればいいのだ。特に今の話なんてちゃんと学校に絡んだ内容だし。
しかし、タブレットの通知が光ったので、次の話題に移ることにした。菜華も異存はないようで、私が端末を操作し始めると、ギターの演奏に少し集中した風に見える。
夢幻:「高度情報技術の実習で、一番楽しいことと、嫌だなぁと思うことを教えて下さい」だってさ。お便りありがとうございます。なんかそれっぽい質問頂いたね
菜華:楽しいことと、嫌だと思うこと、か……楽しいことはギター、嫌なのはギターを弾くなという指示があったとき
夢幻:あんたほど分かりやすい人いないだろうね
菜華:私は単純だから。夢幻は?
夢幻:うぅん……
なんだろう? あんまりそういうことを考えずに生活をしているせいか、本当にピンと来ない。そうして、先に思い付いたのは”嫌なこと”だった。
夢幻:嫌なことっていうか、嫌だったことなんだけど
菜華:うん
夢幻:相方が消去法みたいな感じで決まった無愛想ゴリラだったことは結構嫌だったな……
菜華:電波に乗せて悪口を言うなんて、さすが夢幻
菜華はギターを弾く手を止めて拍手をした。だって本当に嫌だったんだもん。
菜華:無愛想ゴリラというのは夢幻のパートナーのこと
夢幻:そう、志音っていう女なんだけど、こいつが人の心に土足で踏み込むような真似しまくるし、見かけによらず勉強できて全科目私よりもいい点数取るし、私のアームズのことを私以上に考えて色々アイディア出してくれたり、とにかく最悪なの
菜華:後半は志音の悪いところが見当たらないけど、まぁ分かった。確かに、二人は初めはかなり険悪だった
夢幻:でしょ? でも、最初は周りを楽しませていたアームズが真剣に私の武器になっていて今は全然笑えないし、毎日誰かに500円盗まれろって念じ続けるくらい心底嫌いだった相方がいないと落ち着かなかったりするし。分からないものね、人生って
菜華:夢幻……志音のささやかな不幸を祈り過ぎでは……
夢幻:事実だし
後頭部に悲しげな視線が飛んできてる気がする。志音は今、私の後ろ姿を見ながらこの放送を聴いている筈だ。っさいわ。そんなオーラを送っても訂正なんてしないっつの。
菜華:次のを読む。「お二人の会話、少々過激ですが面白いです。しかしまたBGMが秀逸ですね。私はピアノを小さい頃に挫折したクチでして、羨ましい限りです。放送終了まで頑張って下さいね」。とのこと
夢幻:とのこと。じゃないわ! ありがとうくらい言いなさいよ!
菜華:確かに。ありがとう
夢幻:よし。もちろん質問を送ってくれると話が広がって楽なんだけど、こういう普通のメッセージも大歓迎よ
菜華:よ
夢幻:ちゃんと喋って
菜華:いや……ちょっと思い出してて
夢幻:何を?
菜華:夢幻も前に、楽器できるなんてカッコいいとか憧れるとか、そんなことを言っていた
夢幻:言ったっけ? まぁ言っててもおかしくないけど。そう思うし
菜華:……憧れるなら何故やらないの?
夢幻:いや、やらないっていうか、出来ないんだよ?
菜華:そんなことない。夢幻だってギターは弾ける。私が教えた。ちょっとこっち来て弾いてみせて
夢幻:校内放送で音楽的な公開処刑を執り行おうとするのはやめろ
誰がこんなところでギターなんて弾くか。しかも菜華の流麗かつ繊細かつ力強い演奏のあとで。聴いてる人達の耳がおかしくなったって苦情が来るかもだし、っていうか恥かきたくないし。絶対やんない。
菜華:メールが来ないからもう少しこの話をしても?
夢幻:いいよ。私にギターを弾かせようとさえしなければね
菜華:わかった。楽器と言うと身構える人が多いと思うけど、別にお金をかけて用意しなくても、”演奏”という行為を楽しむことはできる
夢幻:……?
菜華:鉛筆で机を叩いたり、扉を閉める音だったり、音の出るものは全部そういう可能性を孕んでいると、私は思う
夢幻:うんうん。たまにあるよね、電卓で演奏してみた、とか
菜華:そう。口笛の奏者がオーケストラで演奏することもするし、自分の体を楽器にするのもあり
夢幻:まぁ言ってる意味は分かるけどね。そんな簡単にできるもんじゃないって
菜華:そんなことない。私と夢幻ですぐにできることもある。ボイスパーカッションっていうんだけど
夢幻:え……?
それ知ってる……かっこいいヤツだ……マイク持ってブンチキブンチキ言うヤツ……どうしよう、知識が無さすぎてイメージすら非常にあやふや……。
夢幻:あんなのできなくない?
菜華:夢幻はよく志音に舌打ちをしているので大丈夫
夢幻:え、そういうもん?
いや舌打ち絶対関係ないでしょ。どういうこと?
私が眉間に皺を寄せていると、目の前のギター大好き女は稀に見る柔らかな笑みを浮かべた。いい表情過ぎる。絶対ろくなこと言わない。
菜華:一人で全部やろうとしなければいい。私がバスドラをやるから夢幻は私の裏に入るようにチッって言って
夢幻:わ、分かった……?
ほらね。意味不明なこと言い出した。
バスドラだかパズドラだか分からないけど、なんかやってくれるらしいし、私も一緒にやるらしい。
あの、待って。本当に今やるの?
大丈夫? 怒られない?
菜華:ドッドッドッドッドッドッ
夢幻:ッチッチッチッチッチッチ
ねぇ本当に大丈夫? 放送事故じゃない?
っていうか半ば確信してるけどこれ現在進行系で事故り続けてるよね??
チッチチッチ言ってると、タブレットがぴかっと光って、メッセージが表示された。差し出し人は木曽さんだ。
——今すぐやめて
はい。
だよね。
私は「も、もういいかな?」と菜華に問う。しかし、私の言葉は全く耳に入っていなかったようだ。
菜華:ドッ……いや、違う、ドゥッ……こっちの方が近い気が……
夢幻:生放送中に音質追求するのやめて
菜華:くっ……!
私は話題を逸らすように届いていたメッセージを読み上げる。実際そうするのが一番早いだろうしね。
夢幻:次行こ次
菜華:む……。まぁ、音楽は難しいものでも高尚なものでもないと伝わったならいい
夢幻:伝わった伝わった。んじゃ次ね。「こんにちは、夏休みにされていた高度情報技術科の女子二人の放送も聴いていた者です。お名前が特徴的なので覚えていたんですが、夢幻さんって何か変わった武器を使用されているんですよね。パソコンでしたっけ? 前回の放送ではクラスメートにも「変わってる」と言われていましたが、自分のアームズについてどう思いますか?」だってさ。うん、確かに変わってると思うよ。でも
菜華:ちょっと待って
夢幻:何?
菜華:パソコンをアームズにしているのは知恵
この野郎……メッセージの通り、私はパソコン使いだということにしておけば丸く収まったものを……なんでわざわざ訂正するんじゃ……許せん……。
菜華:嘘はいけない。本当のことを言うべき
夢幻:う、嘘はついてないでしょ? ただ間違いを訂正しなかっただけで
菜華:それは嘘に含まれる
夢幻:ぐっ……はいはい! そーですよ! 私が天下のまきびし使い、札井夢幻じゃ! 自分のアームズどう思ってるかって!? 意味分からんと思ってるわ!
菜華:む、夢幻、抑えて。音が割れる
夢幻:どーせ私は菜華みたいにカッコいい武器じゃないし、相方の志音みたいになんでも呼び出せる訳でもないし、っていうか、呼び出せるのはまきびしと生体アームズのキキだけ。しかもキキは基本呼び出しに応えてくれないから私の通常武器はまきびしだけ……
菜華:テンション上がったり下がったりでめんどくさいな……
夢幻:心の声漏れてるんだけど
バレてしまっては仕方がない。私は自分が何者なのかを暴露すると、すらすらと喋り続けた。
夢幻:言っとくけど、まきびしだってただバラ撒くだけじゃないからね。アームズは何度も呼び出すことでリンクが強くなって強化されるの。私のまきびしは空を漂うし、びゅっ! って目標に向かって飛んでってくれるし、大きくなったりもする
菜華:そう、使い勝手が良さそうに見える。ただ、発想力頼みの武器であることは間違いないので、取り扱える人はあまりいないだろうけど
夢幻:……やけに素直に褒めるわね
菜華:元々私は夢幻の能力については買っている。志音のことも。二人ともちょっと変わった人なので、そこが目立っているようだけど
あんたに変わってるって言われた私達って本当に可哀想。そんなことを考えていると、菜華が「あ」と声を上げた。
菜華:新しいメールが来てる。「乙さんと鳥調さんって付き合ってるって本当ですか?」だって
夢幻:……考えてから答えなさいよ? あ、鳥調っていうのは菜華のことね
菜華:付き合ってる。以上
夢幻:あんた……あとで知恵に怒られても知らないからね……
菜華:この後に及んで否定する方が白々しいと思われる。私はオープンだし、知恵も最近やっと観念したみたいだから大丈夫
本当に? じゃあブース越しに「てめぇー!」とか「何言ってんだよお前!!」とか聞こえるのはなんだろう。私の気のせいかな? それとも志音の唐突な発狂かな?
不思議に思っていると、メッセージの通知がたて続けにきた。確認すると、どれも似たような話で、私には無害だからそのまま読み上げることにした。
夢幻:菜華、大反響だよ
菜華:どういうこと?
夢幻:「俺、乙さんのこと可愛いと思ってたのになー! マジかー!」、「鳥調さん、恋人いるのか……ひっそり応援することにします……」、あんたと知恵、それぞれに悲しみと祝福のメールが届いてるよ
菜華:知恵のこといいなと思ってる人、差し出し人は分かる?
夢幻:特定しようとするのやめなさい。他にも「乙さんと鳥調さんは処理科と技術科の間では有名だよね! これからも陰ながら応援してます!」っていうのも来てるよ
菜華:……有名なの?
夢幻:多分、主にアンタの言動のせいだと思う
菜華は首を傾げて目をぱちくりさせている。無自覚ってすごいな、っていうか実習で知恵に触りたがったりしまくってるくせに自覚無いってヤバいな。
生徒達は学科のことよりも色恋に興味があるらしい。今も菜華と知恵についての質問がびゅんびゅん届いている。木曽さんからストップかかることも無いし、このまま進めて大丈夫そうだ。
私は自分が話の主役になれないことを少し残念に思ったが、こんなタイミングで似たような話題を振られても絶対にめんどくさいし、こういう場は自分には不向きなんだと分かったからもういい。
いや嘘。本当は頑張りたいけど、頑張り方が分からないと言った方が正しいだろう。だってこんなところで話題をかっさらうやり方なんて、「私も志音と付き合ってるんだよね」って言うくらいしか思い浮かばないもん。でもそれって凶器を使わない自殺だし。みんなの食いつきもいいし、このまま緩く楽しい時間を過ごすのも悪くないかなって。
夢幻:あ。これ私も気になるかも
菜華:何?
夢幻:「告白はどっちからですか?」だって
菜華:あぁ。えぇと、知恵から
夢幻:え!? 意外!! 絶対にあんたからだと思ってた……!
菜華:当時、まだ言葉を交したことも無かった時に
夢幻:えぇ……? 知恵が……? 嘘でしょ……?
菜華:「お前、ネクタイの結び方も知らねぇのかよ、貸せ。やってやる」って
夢幻:ポジティブシンキングの神様かよ
菜華:拡大解釈なんかじゃない、「私のネクタイを一生結び続けてくれるということ? それってプロポーズでは?」と思った
夢幻:拡大解釈だけが残ってるし、一生ネクタイし続けるつもりなの?
ダメだ。菜華から聞き出そうとしても、頭のおかしい回答しか返ってこない。これについては後で知恵から聞くとして……壁の時計を見ると、あと少しで5時になるところだった。
夢幻:そういえば今日って何時までやるの? これ
菜華:時間は特に決まってないと思う。設備点検が終わるまででは?
夢幻:そっか
菜華:どうして? このあと志音と約束でもあるの?
夢幻:ない
なんでわざわざ”志音と”なんて付けるの? バカなの?
こんな話の後であいつの名前を出したら怪しいでしょうが。つい被せ気味で否定しちゃったわ。
菜華:夢幻は志音の話になるとすぐムキになる
夢幻:ここがバーチャル空間だったらアンタの頭に無数のまきびしが刺さってるからね
菜華:あ、新しいのが来た。「そういえば入学当初、志音さんと夢幻さんもそういう噂ありましたよね。別に責めたり否定したりっていう訳じゃないんです。ただ、バーチャル空間で命を預け合ってると信頼関係とか愛情が芽生えやすいのかなって」。ここでメールは終わっている
夢幻:私と志音の噂……? なんだろ、マフィア組織を潰したとかそういう話かな
菜華:前後の流れから察するにどう考えても付き合ってるって噂だと思うけど
夢幻:そんな噂あったんだ……知らなかった……
菜華:……
誰だよ、このメール送ったの。緩く楽しい時間がいきなり辛く苦しい時間になっただろうが。後半が謎のフォローになってる分、余計扱いにくい。高度な嫌がらせか。
夢幻:私は違うけど、信頼関係が生まれやすいという部分については概ね賛成かな。相方にピンチを救われることだってあるし、その逆もある。積み重ねた先にそういうことがあるのも、なんらおかしいことではないかなって。私は違うけど
菜華:「私は違うけど」というフレーズで主張をサンドしてきた……
夢幻:黙れ
——お疲れー! そっち行くねー!
夢幻:あ。そろそろお別れの時間みたい
私がメッセージに気付いてそう言うと、ブースの扉が開いた。木曽さんは私の隣の席に座って、マイクに話しかけた。
木曽:どうもー。放送部の木曽です。いやぁ今日はすごかったね
夢幻:そうなの?
菜華:私のギターがみんなの心に響いたということ……?
夢幻:多分違うよ
木曽:点検で各教室を回ってきたんだけど、菜華が知恵と付き合ってるって認めたとき、皆が「きゃー!!」とか「うおーー!?」って騒いでたよ
夢幻:私達にとってはなんかもう当たり前のことだけど、他の科では知らない人も結構いたんだね
木曽:かもねぇ。それに二人とも可愛いから、隠れファンもいたみたいだし。何通かメールも来てたけどさ
菜華:可愛い……? あまり言われたことないけど。何かの間違いでは?
木曽:菜華は可愛いよりも綺麗とか美人の方が言われ慣れてるかな?
菜華:それならよく聞く
言ってみてぇ〜〜〜綺麗とか美人は言われ慣れてるなんて言ってみてぇ〜〜〜。
私は最大ボリュームになった心の声を無視して会話を続けた。
夢幻:でも、理解不能なことが起こったときに首を傾げてる時は可愛いと思うよ
菜華:そう……? 知恵もそう感じているかもしれない……ずっと首を傾げ続けよう
夢幻:太陽光に当てるとゆっくり首を振るおもちゃみたいになるからやめた方がいいよ
木曽:あはは。えぇと、そろそろ時間だね。すごい反響だったから、またなんか企画したいと思います。みんなもリクエストがあったら放送部宛にじゃんじゃん送ってね! またね!
木曽さんはそう言うと、人差し指を口の前で立てて、静かにするようジェスチャーで訴えてきた。そのままそっと立ち上がると、机の奥の方にあった機械を操作して「もう喋っていいよー」と振り返る。
「っはぁー……面白かったけど、なんか疲れたね」
「そう? 私は特に。ただ、メールが来なくて慌ててる夢幻はちょっと怖かった」
他愛もない話をしながらブースを出ると、そこには志音と知恵、この間会った顧問の先生がいた。当然知恵は顔を真っ赤にして菜華を睨み付けている。
大丈夫、修羅場になんかならないから。どうせこの後、今日のことをネタに知恵だけが喧嘩だと思ってるイチャイチャが始まるんでしょ。
「ばか! お前! ばか!」
「落ち着けって。お前、いつも以上に語彙が消失してるぞ」
「だってお前! こいつ!」
「わかったわかった。それは後で、家でゆっくり話し合えって。な?」
「……分かった」
最近思うんだけど、志音って私だけじゃなくて知恵を抑えるのも上手くなってるよね。
呆れた顔をする私と、「なんか知恵がまた怒ってる。一生懸命で可愛い」みたいな顔をしている菜華を見て、顧問の先生が言った。
「今日の放送は色々とギリギリだったよ……でも、今まで1、2を争うくらい盛り上がったのも事実だ。また声をかけていいかい?」
「先生ー! 菜華と夢幻の組み合わせはもうダメだって! さっきから言ってるだろ! せめてメンツをもうちょっと考えてくれよー!」
知恵は必死に先生のシャツをぐにぐにと引っ張って抗議している。その言い分は分かる。私ってあんまり菜華の奇行や激ヤバ発言を止めたりしないし。他人事のようにうんうんと頷いていると、バカゴリラが意味不明なことを言い出した。
「そうっすよ、先生。菜華は夢幻の言動にツッコまないからダメっすよ。崖めがけて爆走する列車を見てるような気分だったっつーか」
はぁ? 問題視してるの菜華じゃなくて私ぃ?
本当に許せない。なんなの、こいつ。私の方がまともだったでしょうが。というかオールウェイズまともでしょうが。
私は腕を組んで志音をギッ! と見つめる。視線には気付いているようだけど、こいつもこいつで譲るつもりは無いらしい。
「分かった分かった。その辺も考慮しておくよ」
先生からその言葉を引き出してほっとする志音と知恵。この二人、後ろから鞄でドツいてやろうかな。
まだやることが残っているという木曽さんと別れた私達は、志音の提案で4人で鷹屋に行くことになった。「お金が無いからいい」なんて遠慮する知恵に、菜華が0.00000001秒くらいのスピードで財布を取り出して奢るアピールをしたの、結構キモかった。
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