第52話 なお、横取りもしまくったとする

 前回のあらすじ。

 なんかめっちゃヤバそうな依頼をこなすことになってしまった。完。


 とりあえず、このエントリー作業があったから私達はこのエリアに連れてこられた。それは分かった。


「話によると、不明者が出る座標は微妙にズレがあるものの、少ないことからある一点に停滞し、得物をおびき寄せるタイプのバグであることが予想される」


 先生は真面目に色々と言っているけど、私はもうそれどころじゃなかった。違うんだよね、うん。受けるつもり一切無かったし。3人が食い入るようにディスプレイを眺めてるけど、なんかもう付いてけないし。


「深追いはするな。何かを見つけたらそれだけでお手柄だ。分かるな?」

「はい、それはもう自分でも驚くほど存じ上げています。というか私に限って深追いだなんて絶対にそんなことするワケがありません」

「お前その口調どうしたんだよ」

「うっさい、私はショックに打ちひしがれてんの。黙って」


 ヒントや糸口は殆ど無い。まぁあったらわざわざ依頼なんて来ないんだろうけど。

 それにしてももう少し敵の実態というか、そういうものをデータとしてくれてもいいと思う。まぁそれを調べる為の調査なんだけど。


 とりあえず座標に向かって飛んで強くぶつかって、あとは流れで。みたいな? 八百長か。


「とりあえず作戦立てよっか。四人でまとまって行動してもアレだし、ペアで動こうか」

「それがいいな。二人はどういう戦い方するんだ?」

「私も井森さんもどっちかっていうと近接タイプなんだよ。札井さんはまきびしとして、

 志音はどうなの?」


 勝手に人をまきびしとするな。なんだ、まきびしとして、って。

 しかし私は別のところに感心していた。二人共、近接タイプなのか。井森さんなんか後ろで呪文唱えてそうな見た目なのに。いや禁止されてるけど。でも呪文的な、そういうスキルのあるアームズを使っていそうなイメージがある。

 多分、そのイメージがあるのは私だけじゃない。2人が近接攻撃を得意とすると聞いて、志音も目を丸くしていた。


「あぁ、あたしは色々かな。しかし、2人がそうなら、あたしはブーメランとかにするかな」

「あっ! いいねぇ! じゃあさ、札井さん貸してよ」

「え!? 私?」

「うん。近接と中距離間カバーできる方が対応しやすいでしょ?」


 それは正論なんだけど、家森さんは私に”中距離間”とやらをカバーさせる気なんだろうか。一切できる気がしないんだけど。


「んじゃ次の授業の時に」

「ちょっといいか」

「どうしたんすか? 先生」

「この依頼は人命が掛かっている。もちろん、過度なプレッシャーを掛けるつもりはないが。ただ、そう言った背景がある以上、出来る限り早くに済ませて欲しい」

「というと?」

「差し支えなければ、このあとすぐにダイブして調査に入ってもらいたい」


 私は予定無いし、志音も帰ってバナナ頬張るくらいだろうから大丈夫。

 家森さんと井森さん次第だけど、どうだろう。


「あー……ちょっと予定があるんだけど……まぁ、仕方ないよね」

「いや、家森に予定があるなら、今日のところはあたしと井森のペアがダイブして簡単な下見をしておくってのはどうだ? 明日は空いてるか?」

「! それいいね。空いてるよ!」


 トントン拍子に話が進んでいく。そして非の打ち所が無い。志音と井森さんなら心配いらないだろうし、私もある程度情報がある方が助かる。

 家森さんも用事をドタキャンしなくて済むし、一石二鳥だ。


「というわけなんですけど、どうっすか?」

「分かった。無理を言って悪いな。アームズの枠は二つに設定しておく。先日のテストでバッグに入っていたような最低限の道具は持たせるが、他に持って行きたい物資はあるか?」

「あたしは特に無いかな」

「私も思いつかないです」

「わかった、それじゃあ、2人はダイビングチェアでスタンバイしてくれ。そろそろA実習室の生徒達もあらかた帰るだろう。全員が帰ったらダイブを始める」


 そうして私と家森さんはとりあえず帰ることになった。

 窓の外は少し赤みがかっている。




 志音達のダイブを見届けた後、私達は実習室を後にした。一旦教室に戻って荷物を整理すると、家森さんと途中まで一緒に帰ることになった。


「明日、ちょっと緊張するねー」

「ちょっとで済む?」

「あはは。確かに、何人も同い年の子が居なくなってるって、冷静に考えたらヤバ過ぎだよね」

「そうだよ」


 他愛もない会話をしたあと、私はずっと気になっていたことを聞くことにした。

 きっと答えてくれると思う。やましいことさえ無ければ。


「気になってたんだけどさ」

「なになにー?」

「私達が火事場泥棒みたいな真似さえしなければ、2人がテストでトップだったじゃん」

「あー、やっぱそうなの? 最後にブーストかける前に何枚持ってたか聞いてなかったから確証はなかったんだけど」

「そうなんだよ、それまで私達20枚も持って無かったし」

「なるほどね」


 家森さんは顔色を変えず、私の話を聞いてくれた。

 ここからが本題だ。


「2人はどうしてそんなにたくさんの硬貨を集められたの?」

「あはは、簡単だよ。目の前でねずみと小鳥の喧嘩見ちゃったの」

「銅貨と銀貨の対象生物だっけ」

「そうそう。で、その様子があまりに不自然だから、ずっと見てたら、ねずみが銅貨になったんだよ」


 私達が解析をかけるまで知り得なかった情報を、2人は偶然目にした、というわけか。早い段階でそのからくりに気付いていればかなり有利に進められただろう。

 彼女達が実質一位になった要因を知ることができてスッキリした。横取りとか、そういうことはしてなかったということか。あの時感じた殺気は私の気のせいだったのだろうか。


「小鳥の方ももしかして、と思ってやっつけたら銀貨でしょ? ラッキーって言っちゃったよ」

「いいなぁ」

「そのあと森の生物を適当に殺しまくって、銅貨はねずみ、銀貨は小鳥、金貨は狼って分かったの」

「え」


 いやさらっと言ってるけど、それめっちゃ怖くない?

 なんで森で殺戮の限りを尽くしてるの?

 横取りしてた方がマシだったよ?


「情報処理科の人達が操ってるって聞いた時はなるほどなーと思ったよ」

「なんで?」

「私達が殺すつもりで近づいてるって、最初から知ってる個体が結構いたからね。多分、同じ人のプログラムだったのか、もしくは私達が”気付いた人間”だって情報が共有されたのかのどちらかだね」

「あー……まぁ、あの人達もポイント掛かってるから必死だったろうね」

「それそれ、そのお陰で後半は伸び悩みでさー。私達も札井さんについていけば良かったかも」


 うん、あのね、二人が念能力者みたいなヤバい殺気を放たなければそうなってたの、多分。やっぱり四人の方がいいし、志音も協力する相手を探してたし。


「明日の二人の報告、楽しみだなー」

「どれくらいダイブしてるんだろ? 志音は深入りは絶対しないって言ってたけど」

「んー……多分だけど潜っても1時間前後じゃない?」

「そんなもんかな。なんにせよ、無理はしてほしくないな。井森さんが心配……というかむしろ井森さんだけが心配……」

「自分の相方もっと大事にしてあげなよー」


 言葉とは裏腹に、彼女は大層楽しそうに笑った。交差点まで行くと、家森さんは「私こっちだからさ!」と言って歩いていった。

 手を振って後ろ姿を見送る。明日は家森さんとペアで捜索、か。


 私達は席が隣だし、結構話すからいいけど……。そういえば志音と井森さんって二人で置いといたらどうなるんだ。変なガスとか発生しないかな。見るからにタイプの違う二人だし。まぁいいや、その辺もどうだったか明日聞いてみよ。


 しかし、翌日。

 私が志音にそれを尋ねることは叶わなかった。

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