第24話 なお、この中に一人足手まといがいるとする
前回のあらすじ。
ロッジのコアを呼び出すという大役を仰せつかった私は、まきびしを呼び出してクソ程笑い倒された。以上。
まぁ、まきびしも形状は丸っこいし、間違いというワケではないよね。うん、ただちょっと適切ではなかっただけ。私の一発芸により、過呼吸になりそうな人が二名程いるけど、今はそれについては無視。
「少なくとも二人はお前のせいで再起不能になりそうだな」
「少なくともってなによ」
「夜野が言ってたろ。クラスメートと爆笑してたって」
なるほど、確かに見えない患者を生み出してしまっている可能性は否定できない。このまま志音も変なもの呼び出して爆笑されたらいいのに。
「お前が何考えてるか、手に取るように分かるわ」
「じゃあ期待に応えてくれる?」
「さぁ、どうかな」
そう言った次の瞬間には、志音の手にはアンカーが呼び出されていた。
は?
誰がそんな事も無げに課題をクリアしろって言った?
はい、先生ですね、わかります。
「アンタって……本当に空気が読めないというか、なんというか」
「小路須さん、それは無いわ」
「先輩までなんなんすか!?」
さっきまで棺桶に片足突っ込む勢いで笑っていたのが嘘のように、先輩は腕を組んで溜め息をついていた。そうだそうだ、もっと言ってやってください。
「小路須さん……ないわぁ……」
「お前まで!」
なんか志音が悪いみたいな流れになってる。
この流れ最高なんですけど。
「っていうか志音のことはあだ名で呼ばないの?」
「小路須右衛門っていうのを考えてたんだけど、なんか今ので距離感じちゃって……」
「あぁ……なるほどね……」
「だからお前らなんなんだよ!」
三対一は流石の志音でも堪えるようだ。先生がモニターに映し出したものと、全く同じ形状のものを見事に呼び出した結果がこれだ。そういえば、見た目は合格だろうけど、材質の方はどうなんだろう。
「小路須さん、それちょっと見せてくれる?」
「? あぁ、いっすよ」
手渡されたアンカーを見て、先輩は唸った。志音も心なしか、少し不安げな表情でその様子を見守っていた。
「なんか変っすか?」
「いいえ、完璧だわ」
「そりゃよかった」
「情報記憶合金と、定着合金の変わり目も完璧……あなた、一体……」
はいダメ。おかしいおかしい。なんでこいつが異世界に迷い込んだ、とてつもない能力を持った主人公みたいな扱いを受けているのか、全く分からない。いやそうなってる理由は分かるんだけど、どうしても納得いかない。
志音を見る先輩の目からは畏怖の念すら感じた。私は手を広げて反復横飛びのような動きをしながら、カバディカバディと言いたい気持ちをぐっと堪えている。
先輩、主人公こっち。こっちだから。私のまきびしもいい感じで評価して。
「はえー。小路須さんすごいね! アンカーの呼び出しって難しいんでしょ?」
「なんでお前がそんなこと知ってるんだよ」
「情報を書き込んでプログラムを起動するのがウチらの役割じゃん? どうせアンカーを完璧に呼び出せる生徒なんていないんだからって、ある程度形が想定外でも起動するようにプログラム組んでたんだよ」
それは初耳だ。確かに鬼瓦先生はアンカーは難しい、そう言っていた。しかし言われてみると、杭の形をして素材さえ合っていれば、最低限の役割は果たせそうだ。
こんなに綺麗に、きちんと開く構造をしていなくても、コアさえあれば実習を続けることはできた、ということか。
まぁそのコアが無いんですけどね。
「ちなみに、プログラムがちゃんと通らなかったらどうなるんだ?」
「どこで詰まるかにもよるんだけど、パーツが破損して電源供給をしなくなったり、逆に暴走して爆発したりするね。情報記憶合金って扱いがわりと面倒なんだよ!」
「何それ、めっちゃ危険じゃん」
「そーそー。前の授業じゃウチも三回くらいサンプル爆破したからね!」
「なんで自慢気なの!?」
夜野さんは楽しげに爆発について語った。彼女は一体、どんな人なんだろう。まぁ変人であることは確かみたいだけど。だけど、結構話しやすくて好きなタイプの人間だ。実習が終わったら彼女に会いに行きたいと思った。
私達の会話を見守っていた先輩であったが、少し時間を気にした素振りを見せたあと、バッグからカードを取り出した。
「おしゃべりはこの辺にして、ちゃっちゃと実習を終わらせちゃいましょうか。……コア」
そして先輩はいとも簡単にコアを呼び出した。
ダメ。これじゃ私が究極にショボい感じになってしまう。
しかしケチをつけようにも、先輩の呼び出したそれは完璧だった。
「それじゃ、地面に固定する前に、コアの穴とアンカーの太さの確認をしましょうか」
そう言って、先輩はアンカーをコアに挿す。やっぱり完璧だ。アンカーが地面に突き刺さる部分を持って、少し振ってみる。抜けてしまわないかを確認する作業であったが、コアはぐらつくことすら無かった。
「大丈夫そうっすね」
「えぇ。お互い、寸法通りに呼び出せたようね」
「んじゃ、適当なとこに刺してもらっていい? こっちからもちょっと確認したいことがあるからさ」
夜野さんに言われた通り、志音はしゃがんでアンカーを地面に突き刺した。あとは情報処理科の役割のはず。私達はその様子を見守っていればいいだろう。
「んー。オッケーオッケー。定着用のプログラムもそのまま通りそうだから、三人はコアの起動までちょっと待っててくれる?」
今回、私は何の役に立つことすら無く実習を終えるようだ。クラスメートに醜態を晒した事に目を瞑れば、実習は成功と言えるだろう。こうなったら追試よりはマシと自分に言い聞かせるしかない。
「一時はどうなることかと思ったけど、なんとかなりそうで良かったわね」
「っすね。札井、次回までにイメージの練習しとけよ?」
「分かってるって。つまんない人は黙ってて」
「お前が面白すぎるだけだろ」
「まきびしぶつけんぞ」
私は本能の赴くまま、草むらに落ちてるまきびしを拾って、志音に投げつけた。ちなみにすぐ近くに立っていた先輩は止める素振りを見せず、私達のやり取りをただ見守っていた。
「いてぇな! ぶつけんぞって言いながらぶつけるの止めろ!」
「うるさい」
「っぶねぇな!」
ちっ。二個目は屈んで回避したか。
小さいとはいえ金属でできたそれは、かなり遠くまで飛んでいった。
ぐぅ。
妙な音と共に地面に落ちたようだが、なんだろう。
他の二人も違和感があったのか、まきびしが飛んでいった方向に視線を向けた。
「なんだ? 今の音」
「さぁ……」
二人に倣って草陰を見ると、光る何かを確認できた。
「え」
いや、いやいや、それは無いでしょ。
「ねぇ、あれって……」
「三人共! 近くにバグの反応があるよ! ヤバいかも!」
あぁ、うん、だよね。
やっぱりあれ、バグの目だよね。
木の陰から姿を現したのは、オークのような巨大な一つ目の怪物だった。ご丁寧に、斧のような武器まで持っている。
ぐあああと地響きのようなうめき声を上げ、ドスドスとこちらに近づいてきた。
「え、ちょっと!?」
「ヤバいぞ、アレ!」
動きは遅いが、一撃でも食らったらアウトだろう。
私は縋るように先輩を見た。
「私と小路須さんは既にアンカーとコアを呼び出していて、これ以上アームズを呼び出せないわ……」
「あ」
そうだった。つまり、ここで武器と呼べるものはまきびししかない。というかまきびしは武器とは呼べない。完全に詰んだ。
「夜野さん! ロッジはあとどれくらいでできるの?」
「急いでるけど、あと五分はかかりそうですよー! それまで持ちこたえて下さい!」
無茶苦茶言うな。そう言いたかったが、こうなったらやるしかないだろう。私は落ちていたまきびしをできるだけ拾い集める。徐々に近づく足音は、私を焦らせるには充分だった。
「札井! 無茶すんな! そんなんじゃ」
「分かってる。でも今回、私だけ何も出来てないし。少しくらい、格好つけさせてよ」
「お前……」
志音は動揺した面持ちで私を見ている。
そうだよね、あんたから見たらただの落第生の私がこんなこと言うなんて……。
「万が一まきびしでどうにかなったとしても、格好はつかないぞ」
マジでくたばれ。それは思ってても言っちゃダメだろ。
拾い集めたばかりのそれを、再び志音に投げつけそうになるのを堪えて、私はバグと対峙した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます