第19.5話 なお、不可侵とする


 口の端にトリガーを装着したまま、天井を仰いでいた。

 慣れてしまえばダイビングチェアの座り心地も悪いものじゃない。

 照明をゼロに設定した真っ暗な部屋の中で、何も見えないのに、

 そこに存在しているであろう天井から視線を離せずにいた。


 昔のことを思い出していた。

 あの手の温もりはもう二度と帰らない。

 確かめるように手を掲げてみる。

 暗闇の中で、私は何度も何度も、あの日々を極上の夢として反芻した。


「まこと……」


 幾度となく聞いた、許してという言葉が

 今でも甘い残響を残して私の中を漂っている。


 そもそも何を許すと言うのだ。

 私は許しを乞われる立場ではない。

 その言葉は本来私のものだ。

 私こそが贖罪の為、全てを賭して罪を贖うべき立場の人間なのだ。


 もちろん、そんな事はしないけど。


 -バーチャルプライベートを使用している生徒はトリガーを戻し、退室して下さい。


 抑揚のないアナウンスが流れた。

 ここ最近、毎日耳にしている。


 私は立ち上がりながらトリガーを手に取った。


「また来るよ、まこと


 そうして言い残して、暗い個室を後にした。

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