6話 理由探しの旅
まるで、当たり前のようにこの世界で目覚め、朝日に当たり、柔らかい感触を感じ......?
瞼の奥から朝日が覗き込み、まどろみを搔き消していく。それと同時に頭が徐々に回転を始める。
いつの日か味わったことのある感触。それが何なのか考えれば考えるほど顔が熱くなり、体が火照ってしまう。
たしか、昨日、ミルと2人で夕飯を食べて、少し話してそのまま眠ったんだっけ。薄い服を通して全身が重なり合っている。ミルも、俺と同じように地べたでごろ寝したらしい。
お互いに相手を抱き枕として使っている。これを見た第三者は、恋人がイチャイチャしてるようにしか見えないだろう。
本当ならば、いち早くこの体勢から直り、彼女の記憶に干渉しないようにしなければならない。しかし、彼女は俺を強く抱きしめ、離れようにも、離れられない。
俺は右太ももを太ももに挟まれ、肩に腕を回され、胸が密着している。心地よすぎて、もう少しそのままでいたいなんて思ってしまった。
「ん......んん......」
ミルが目を覚ましたようで、体をもぞもぞさせる。俺はとっさに寝たフリをした。
「んー? あっ......え? ちょ、龍輝......」
俺は名前に反応して寝起きのフリをした。
「んー、あ、ごめん!」
俺はわざとらしく驚き、ミルから離れた。ミルは顔を赤くして動揺している。
「あ、違うんです。私が勝手に抱きついて......そのまま寝てしまって......。奥さんがいるってことを知っててこんなことするって最低ですよね。でも、私だって、見返りくらい欲しいんです」
「えっと、何の話してるんですか?」
「私、あなたのことが好きなんです。理由はともあれ、私はあなたに心を奪われたんです」
冷静モードに切り替わるの早くね? それはそうと、超直球すぎる告白に感情が乱れた。
「どうしてそんな急に」
「気持ちを伝えるなら早い方がいいかと思いまして......迷惑でしたか?」
彼女は罪悪感のせいで表情を曇らせた。
「迷惑じゃないさ。嬉しいよ、気持ちを伝えてくれて」
「あの、無理に私と付き合わなくていいんです。ただ、隣に......仲間として、パートナーとして側にいてくれれば、私はいいんです。もう見返りなんて求めませんので、これからも一緒に――」
「待て待て。ミルだけ気持ち伝えて、俺の気持ちは聞かねーのかよ」
ミルの唇に人差し指を当てて、強制的に口を閉じさせた。自分に好意を持ってるからこそできる至難の業だ。
「俺はなぁ、君に命を救われたんだ。自殺しようとしてる俺をこっちに召喚し、それからここでの生き方を教え、生活場所も提供してくれた。俺の生活はすでに、ミル無しでは成り立たないんだよ」
ミルの頭に手を置いて、抱き寄せた。
「これが偶然か必然かは誰にもわからないが、俺は君と一緒に生きていきたい。理由はまだ無い。だから、これから君と一緒にいる理由を探したいんだ。どうだ?」
「いえ、ですから、私のことを無理に好きになる必要はないんです」
「あー、俺はミルのことが好きだ! 遠回しに言ってすまない」
「そ、そうですか。ありがとうございます......。それよりも、どうしてこんな朝っぱらからこんな話を......」
彼女は冷静に見えて、実はそうでも無いらしい。そんなところが可愛いと感じた。これで、彼女が好きである理由が一つできた。
今日も仕事のために集会所へ向かう。正直のところ、お金に困ることはないのだが、最近モンスターの出現率が上がっているらしいので、今日も敵を狩りに森へ向かうのだ。
今回は、星6のモンスターを頼まれた。前回よりも星の数が少なくなったのだが、今回は敵の数が尋常じゃないということだった。なので、メンバーを1人追加して挑むのだが......。
「龍輝さ〜ん! 一緒に頑張りましょうね!」
そう言って紺色の髪を揺らしながら、俺の腕にしがみついた。胸を押し付けるようにしがみつくものだから、俺は動揺を隠せず、ミルは嫉妬している様子でこちらを睨みつける。
「その、一応、俺彼女いるから、そういうのはやめてくれませんか?」
「な、まさかミル! クッソー! 先越されてたか。せっかく収入源見つけたと思ったのに」
ミルは恥ずかしそうに顔を逸らした。このユカノという少女は、俺を何だと思っているのだろうか。
「まぁまぁ、これからモフルン倒しに行くんでしょ? みんなで力合わせて頑張ろう!」
「そうですね。今回は持久戦になると思うので、チームワークは必要不可欠ですよ」
「そーだね。あたいもまだ死にたくないしね。本気出そうかな」
モフルンは集団行動が得意で、一体一体は弱いが、チームワークでその弱さをカバーし合い、戦い辛いとのこと。ふわふわの毛が丸い体を守り、攻撃が通り難い。それから、攻撃力こそ弱いが、連続して繰り出すので厄介である。
今回は、前回と違って全体魔法で倒せる相手なので、簡単に終わると思う。
森を抜け、広い草原に出た。そこには、綺麗な白い草が生い茂っている、としか言い表せないほどモフルンで埋め尽くされていたのだ。
想像以上の数に俺は圧倒されるが、ミルとユカノは殺意を剥き出しにして武器を構える。
雲一つない良い天気だというのに、空から雪が降ってきた。その雪にミルが大剣を振りかざす。隙のできたミルに向かってモフルンが突進しようとしたのをユカノが2本の短剣で切り刻む。
鮮血が辺りに散らばり、モフルンや緑色の雑草を染めた。血が染み込んでドス黒い色へと変わっていく間にも、モフルンは隙の無い攻撃を仕掛ける。
俺は戦い慣れしていないせいもあり、防戦一方になっいた。倒しても倒しても奥から出てきて、キリがない。体力にはある程度の自信があるが、いくら体力があるとはいえ、これはさすがに......。勝てるのか? これ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます