第17話:過去

「私が生誕して、六年の年月が過ぎ行った時に、貴方様、つまりガルディメス王子は、十一才の年が経って、隠し子とされて来ました。元々ガルディメス王子は、古い代々の王家の子に当るそうで、私の祖父上に辺ります。名前は、ベルメス王と呼ばれていました。父上と祖父上の間柄が良くはなく、常に、意見の食い違いで、互い口論し続けていたと母上から聞きます。父上の父に当らない母上の父だったから、どこか気に入らない所があったそうです。ベルメス王は、私と貴方様を愛しく想っていました。勉学に励む貴方様をベルメス王は、必死に見守り、時には、王家について話されたり、城下町の民衆について話されたりと後の王子として使命を託すると共に考えてなされたのでしょう」と姫は、六の時の頃を話された。「では、フィリネ姫から見て、私は、叔父と値するというのか、で、母は、姉となるという事か?」と私は信じ難かった、言った。「その通りです。私とは、五歳程離れていますが、母上の姉弟に辺る貴方様は、弟なのです。婚約するのは、できるのですが、父上としては、複雑だったのでしょう」と姫が言うが、その複雑の意味が分らなかった。私は、姫にどうして複雑なのかを訊ねた。そうすると姫は、少し戸惑って、「私の祖父に辺りますベルメス王は、老年期を迎えていました次期皇帝を選び、代わる必要がありました。城を守りぬく為の儀式と言えましょう。貴方様が丁度、十四の頃です。現の父上、ダングラース王に王の称号を与え、ベルメス王は、大王となって上位の地位を持つようになりました。ですが、ダングラース王は、どういう事でしょうか、以前の恨みを抱えていたようでベルメス大王を強制的に肩書きを消して城外へ追放されてしまったのです。

ダングラース王は『王の特権で決め、醜い者を廃除しただけだ』と母上に言ったそうです。一人だけ取り残された貴方様は、泣いておられました。恐らく、その頃から王を信じられなくなったと思われます」と姫が事実を語って下さった時にふと私の脳裏に流れるものがあった。「そうだ!私の父様を追い出され、王を恨み続けていたのだ。ずーっと永く父様の背中を見続けて来た正しき考えに、反したダングラース王に裏切られ…それを切っ掛けとして、私の肩書きを消して父様を捜す為に、城を出たのだ」と記憶を一部とりもどしたように思い出す事ができた。

「ベルメス大王の追放を期に王は、段々と貴方様の殺害を考えていたのでしょう」と下気味になって姫は言った。「そうだったのか…では、姫。王との再謁見を頼む」と突然に私は、顔を深刻な面持ちにさせながら、言った。「もう危険な事は、お止め下さい。貴方様は、充分にやり遂げました。もう殺られゆくのは、見たくありません」と引きとめようと姫は必死だったが、私の身体は、今にも行ってしまいそうな勢いだ。「姫、私は、やり遂げては、何一つない。唯単に町村民や父様に縋っていただけだった。何の力も出しきれていなかった。寧ろ、境地にまで追いやってしまったのだ。だから」と過去の柵を解くように私は、言った。「もういいのです!」と姫は、大声で張り叫ぶ様に言った。私は、ハッと我に返った。「ひめ…」と堕落に言う。

「貴方様だけが重荷となる問題ではありません!ですが、もう成す術がないのです。父上に従うしか…もう方法がないのです」と姫は、すっかり、弱気になってしまわれた。

「ひめ…私と姫の成すべき事は、本来は、何だった。王の下で指をくわえて見ているだけの地位なのか?それだけの特権だったというのか?…私は、下町や村の情景を見て来た。その為の二年だったのかもしれない。だが、それは、私を成長させる為の大切な二年だった。滅び行く有様を見過ごす事はできないだろう?姫よ…もう一度本来の成すべき事を、思い出すのだ。私は、もうこれ以上、放っておく訳には、いかないのだ。姫の力も欲しいと私は望んでいる」と姫に私は落着いて言った。姫は涙を手で拭って「わかりました。ですが、これだけは、守って下さい。必ず、生きる事…です」と姫が言って小指を立たせて「誓約証明です」と言った。私は、姫のムスッと脹れた顔を見て、笑みを浮べて、小指を立たせ、指と指を合わせて「指切り挙万、誓約を基に破りましたら、針を一千万本、打ましーます!指切った!!」と大きく大胆に揺さ振られ、本当に恐い事が私に伝わった。「何だ?その誓約証明はぁ?大体、字余りだろう」とつっこみを入れた私。「良いのです。ここまでしなくては、素直に聞いてくれませんから…」とまた姫は、ムスっとして、「何だ?私を信用していないのか…ハハハハハ…これは、参った姫です」と姫と私は、雰囲気を明るくさせ、誓いを結した。それは、まるで、最後の言葉を交わすように、無邪気のある幼い姫の頃を思い出させてくれるように、もうこの部屋からは、一歩も出たくはない心持ちがした。嬉しいけど、切ない誓い…だった。

しかし、そのような悠長な考えをしている時ではなかった。とても惜しい事だが。

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