~龍野とヴァイスの結婚式~
有原ハリアー
結婚式にて
※本編未登場のキャラクターがおりますが、読みきりですのでスルーしてくださいませ。
※龍野視点です。
俺達が車を降り、崇城姉妹に案内された城の結婚式場には、既に見知った顔ぶれがずらりと並んでいた。
「(どいつもこいつも、笑顔で俺達を見送ってくれる……。全く、幸せもんだぜ俺達は)」
ヴァイスの縁者には、
俺の縁者には、親父、お袋、
その他にも、騎士達や、招待されたであろう貴族の方々が整然と並んでいる。
ちなみに、麗華はヴァイスのゲスト、舞華は俺のゲストだ。正面には、親父、お袋、国王陛下、女王陛下の四人が並んでいる。
彼らの直前まで案内されたとき、麗華はヴァイスの脇へ、舞華は俺の脇へ移動した。
それを見届けた国王陛下は、厳かに口を開いた。
「これより、須王龍野と、ヴァイスシルト・リリア・ヴァレンティアの結婚式開式を宣言します!」
俺達はお互いの正面を向く。
向き終えて二、三秒後に、国王陛下が言葉を続けた。
「汝須王龍野は、この女ヴァイスシルト・リリア・ヴァレンティアを妻とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、妻を想い、妻のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」
「はい。誓います」
「汝ヴァイスシルト・リリア・ヴァレンティアは、この男須王龍野を夫とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、夫を想い、夫のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」
「はい。誓います」
「皆さん、お二人の上に初代ヴァレンティア国王陛下、女王陛下の祝福を願い、結婚の絆によって結ばれたこのお二人を両陛下のご加護が慈しみ深く守り、助けてくださるよう祈りましょう。二人が愛に生き、健全な家庭を造りますように。喜びにつけ悲しみにつけ信頼と感謝を忘れず、あなたに支えられて仕事に励み、困難にあっては慰めを見いだすことができますように。また多くの友に恵まれ、結婚がもたらす恵みによって成長し、実り豊かな生活を送ることができますように」
誓いの言葉を終える俺達。
国王陛下が女王陛下に目配せすると、女王陛下は結婚指輪の入ったケースを持ちながら、俺たちの間に来る。
「では、指輪の交換を」
俺は指輪の片方を手に取り、ヴァイスの左手薬指に嵌める。
その後に、ヴァイスも指輪を手に取り、俺の左手薬指に嵌める。
「では、署名を」
国王陛下が結婚証明書を差し出す。
まずは俺が署名する。終わった後はヴァイスにペンを手渡し、続けてヴァイスが署名する。
俺たちの署名を確認すると、国王陛下は証明書を受け取る。
それを確認した後、再び俺たちは向き直る。
「では、誓いのキスを」
俺はヴァイスの顔に手を添え、唇にキスする。
それを確認した国王陛下は、高らかに宣言する。
「これで、結婚が成立しました! では皆様、盛大な拍手でお見送り下さい!」
式場の皆が、盛大に拍手する。
俺はヴァイスをエスコートしながら、式場を後にした。
式場を後にすると、麗華たちが俺たちの周りに集まる。
「おめでとうございます、姫殿下! それに龍野!」「おめでとうございます、お二方!」「おめでとうございます、お姉様! そして兄卑!」
口々に祝福の言葉を紡ぐみんな。
興奮冷めやらぬ中、ヴァイスが高らかに宣言する。
「さあ、この次に祝福される方はどなたかしら?」
ブーケを高々と掲げるヴァイス。
その行動で、女性陣の目が闘志を帯び始めた。
「皆様、準備はよろしいですわね? そーれっ!」
ブーケをトスするヴァイス。そのブーケを取ろうと駆ける女性陣。
果たして、手にしたのは――。
*
「須王龍野」
国王陛下に呼び止められる。
「くれぐれも、我が娘を……ヴァイスを、頼んだぞ」
「はい」
「もしも、悲しませるようなことがあれば……」
「承知しております。そうならないよう、精一杯頑張りますので」
「ああ。それより、親子喧嘩の話だが……そうだな、私を一発殴れ」
「え?」
「私のやり口が、気に食わなかったのだろう?」
「ああ……そうでしたね」
「遠慮はいらん。時には喧嘩も大事だ。もっとも、今回の場合は……懲罰だな、ハハハ」
「そうですね。では……!」
腕にうなりをつけ、陛下の胸板を狙う。
そして――当たる直前で勢いをほとんど殺し、陛下の胸板に軽くぶつける程度にとどめた。
「今回は、これで十分です」
「そうか。だが、我が娘には言葉ではなく――」
「気持ちで、ですね」
「そうだ。そして、二人きりの時間も満足させられるよう頼むぞ」
「陛下」
「父上と呼べ」
「では父上。やはりもう一度殴らせてくださいませ」
「ハハハ。今度こそ遠慮はいらん!」
もう一度腕にうなりをつけ、陛下の胸板を狙う。刹那、ドンッ、と音が鳴る。
これでも手加減はしましたよ、陛下。全力を出したら、幸せを嚙みしめるどころではありませんからね。
「龍野君!」
そこに、ヴァイスの声が響いた。
「何だ?」
「記念写真を撮りましょう?」
「おう! それでは陛下、失礼します!」
「ああ!」
ピンピンしている陛下が、威風堂々とした姿勢で俺達を見送って下さった。
これからよろしくお願いします、父上。
*
「あ~に~ひ~!」
今度はシュシュが絡んできたよ……。
「山ほどある文句を言ってやるわ! けど……写真撮影の後で、たっぷりと、だけど……」
と思ったら、急にしおらしくなった。まあ、こいつは絶対に
その様子を微笑ましく眺めていると、シュシュの手に持つものに視線が行った。
「シュシュ、それは……」
「お姉様から、ブーケトスで授かりましたの」
「おめでとう、次幸せになるのはお前だ」
「ありがとうございます、兄卑。では、そろそろよろしいですか、お二方?」
「おう」
「ええ」
俺とヴァイスが並び、シュシュがカメラを構える。その周りに、麗華、舞華、フィーベルス伯爵など、みんなが集まってきた。
ふと、俺のイタズラ心が囁いた。
「ヴァイス、しゃがめ」
「何? きゃっ!?」
お姫様抱っこにしてやる。どうだ、ヴァイス?
「うふふ、龍野君ったら……こんなところで、ダ・イ・タ・ン・ね」
「そりゃそうだろ。『男は度胸』って言うしな」
「うふふふ……」
「では撮りますわ! 3、2、1……」
パシャリと音が鳴る。
「もう一枚! 3、2、1……」
再び、パシャリと音が鳴る。写真撮影が終わったのを見届けると、俺はヴァイスを降ろした。
「うふふ。これで結婚式は終わりね。まああの人(国王陛下)が、『須王龍野に用がある』と仰ったのは驚きだけれど」
「式が終わる前に話を付けたかったのでしょう、女王陛下」
「龍野くん。『母上』と呼んでちょうだい?」
「はい、母上」
「ふふ、お母様もなかなかですわね」
「何か言ったかしら、ヴァイス?」
「いえ、何も」
「とにかく、これで式は終わりね。あら、あれは龍範さんね。ほらヴァイス、貴女の父親になる人よ? 挨拶に行ってらっしゃい」
「言われなくても。お母様」
俺たちは女王……母上に一礼すると、親父のもとに向かった。
*
「おう龍野! それに百合華ちゃん……おっと、ヴァイスシルト姫殿下!」
「二人の結ばれる様子が見れて、私は母親として幸せよ。ね、龍範さん?」
「ったりめえだろ、紗耶香!」
俺の親父、それに(いつの間にか親父の隣に来ていた)お袋が顔を出す。
「これからよろしくお願いします、
「おう、よろしくな!」
「宜しくお願い致します、姫殿下。さて、改まるのはこれくらいにして……」
いきなりくだけた口調になるお袋。何か、嫌な予感が……。
「良かったわぁ~! 百合華ちゃんが、私達の娘になって! ようやくよ、龍範さん!」
「まったくだ! こちとら、いつ結ばれるかやきもきしながら見てたからな!」
「そうよ! 小さいとき、百合華ちゃんも言ってたじゃない! 『りゅうやくんをお婿さんに下さい』って! ようやく、夢が叶ったのね……」
よよよとうれし泣きするお袋。
「さて、紗耶香は後で俺が介抱するとして……」
親父が大きな声で宣言しだした。
「次は披露宴だ! 陛下、お疲れさん!」
「まったくだ……。司会進行の大儀、頼むぞ? 龍範」
「承った! よし、全員ついてこい!」
*
披露宴会場まで移動する最中、俺はヴァイスに呟いた。
「これから、夫婦として過ごすわけだな。俺達」
「ええ、そうね」
「国の政務は、教えてくれ」
「言われなくても。それより龍野君、耳を貸して」
「何だ? いだだだだ!」
俺の耳を引っ張るヴァイス。
「そんな無粋な話は後でしましょ?」
「そ、そそそ、そうだな」
俺の返答に納得がいったのか、耳を引っ張る手を離すヴァイス。
「それよりも……よろしくな」
「よろしくね、私の元騎士様」
この先何があっても――それでもこの幸せだけは、何があっても手放さない。俺は心に強く覚悟したのだった。
これにて完結です!
結婚式の詳しい式次第などはよくわかりませんが、それでも祝わせてください、セイム様!
ご結婚おめでとうございます!
有原ハリアー
~龍野とヴァイスの結婚式~ 有原ハリアー @BlackKnight
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