第3話 女騎士とゴブリン1
俺はアルルと共に村人に見つからないよう森の中を走った。辺りは徐々に暗くなっていき、松明が目印になり、相手の居場所を容易に確認することが出来た。
アルルは頭の耳を隠すためフードを深く被っていた。
フードの下には兎人がいるなんて誰も思わないであろう。
俺は剣を握り締め走っていた。緊張からかではべっとりと湿っていた。俺は何にこんな震えているのだろうか…。村人か、悪魔か、それとも村の壊滅を招く種を蒔いた俺の行為か…。
その時、俺は木の根っこに引っかかり、無様に転んだ。運良く下は木の葉のクッションで傷はそんなに無かったが、村人に追われていたところをこけたのならば、一貫の終わりだ。
「大丈夫か?ヴィレム。」
「大丈夫だ!すまない…。」
「僕もペースを上げすぎた、少し落とそう。」
そう言ってアルルは俺に合わせてペースを落としてくれた。心強い、その一言に尽きる。
もしも俺が出会っていなかったら、磔にでもされていただろうか…。
その時、急にアルルが歩みを止めた。そして、目の前からは赤い松明が迫ってきているのが確認できた。
そして、アルルは物凄い速さで駆け抜けると、次々に人々が倒れていった。
俺は恐る恐る、人間に近寄っていくと急所だけが見事に刺され人が倒れていた。その瞬間、倒れていた男の目が開き、俺の足を掴んだ。
俺は怖くなり、足を振りほどこうとしたが、その男がなにかを伝えたがっているように見えた。
「助けてくれ…。」
その一言であった。俺はとても複雑な心境であった。
俺を狙っていた村人達であるはずなのに、無性に胸が痛くなる。俺は怖くなった、自分は今この人を見捨てようとしている。それは俺の命を狙っていたんだからしょうがない…。本当にしょうがないのか…?
俺はその男がぶら下げているペンダントに写真が入っているのが気づいた。
「ヴィレム、早くしないか。お前がその人を助けたいなんて言ったら俺はお前を見捨てるぞ。」
「だが、こいつにも愛する人は居ないのか?」
「ヴィレム、お前はどこまでお人好し何だ?こいつらに受けた仕打ちを忘れたか?早く来い!!」
俺は全速力でアルルの所にかけていった。後ろを一回も振り返らず。
その後の道のりというのは追っても見当たらず、完全に巻けたといってよかった。しかし、気持ちは晴れないのは確かである。あの村がどうなるかも分からない。勇者って何なんだろうか?ただの肩書きか?
森を抜け大きな道に出ることができた。そこは街道になっていて遠くには城壁が見える。
俺はふと夜空を見上げた。空は住んでいて、周りに街灯も一切ないので満点の星空が頭上に浮かんでいた。
星は暗闇の中目立って光っている星もあれば、薄暗く光が微々たるものもある。しかし、どれも自らの個性を出していると思う。光り輝くなくても、周りの光に負けていても、それはそれで全て一つの星ということには変わりはない。この俺もそうであって欲しいと願うばかりだ。
「ヴィレム、おいヴィレム聞いてるか?」
「ごめん、聞いてなかった。星につい夢中になってな。」
「もう、暗いから洞穴で寝ようと思う。良いか?」
「大丈夫だ。」
そして、数十メートル先に見える洞穴を俺とアルルは目指した。街道は平坦な道のりだ、太陽が当たっている時はどんな風に輝くのだろうか…。
洞穴に着くと人影らしきものが確認できた…。俺は警戒しながら近づいていくとそこには女の騎士が倒れていた。
近づいて揺すると目がゆっくりと開いた。
「私達の仲間を救って下さい。ゴブリンに捕まり、安否が確認できません。ゴブリンはここから少し先の峠の洞窟にいます…。」
そう言って女の騎士は再度意識を失った。しかし、もう夜であるので今は動けない。行くとしても明日しかない…。
「ヴィレム、明日はどうする?」
「救いに行かないのか?」
「まさか、君は救いにいこうと思っていたのかい?国の騎士を助けるのかい?自己責任じゃないか、彼女達は危険と分かった上で騎士になったんだ。君なんかに救われたら彼女達の騎士としてのプライドを傷をつける。」
「騎士は騎士でも彼女は助けを求めているんだ!
自己責任?そんなの知るか!」
「君はまたそうやって自分を危険に晒すのかい?無謀すぎる。彼女達が生きているかなんて分からない。」
「俺は助けたい…。ただそれだけだ。」
「それは、君の罪滅ぼしじゃないのかい?」
その時、俺はその言葉が胸に突き刺さった。言われてみればそうかもしれない。彼女達を助けて俺は楽になろうとしている。自分の行いを肯定しようとしている。
「そうだよ、そうだ…。俺の罪滅ぼしだ、罪悪感に苛まれているんだ。もしかしたら、俺は自分の信じる正義が正しいのを証明したいだけなのかもしれない。でも、それでも俺は見捨てたくはない!」
「あー、君ってやつはどこまでお人好しなんだい?自分の危険を顧みず、突き進む。それは時に良いかもしれないが、時には破滅を導く。今回は僕が折れる。けど、これだけは守っては欲しい。」
『もっと自分を大事にして欲しい』
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