輝き

陽の光が溶け落ちる。

辺りは琥珀に満ちて、私の帰路を覗き込むように仄白い月が顔を出していた。いや、あれはある筈のない瞳だろうか?今日はどうにも奇妙なことを考える。冬の冷たさが頭を冷やしているようだ。

じきにその琥珀も黒曜へと変わり、月は輝きを増す。

子供の声もとうに消え、辺りは虫の羽音、エンジン音と道を蹴るタイヤの音に溢れている。

ただその中で、この視界が本当のものであるのなら特に奇妙なものと出会ったのだ。


ぽつん、と立っている少女が居た。


光が消えてゆく世界の中で、公園にたった一人。まるでそこだけ、見えない街灯に照らされたように輝いていた。瞳は星のようで、他の遊具に目もくれず、ただ辺りを見回す。

どうにも気になった。

彼女は、まるで家なんてないとでも言いたげな程、帰る気配を見せない。見回すのだって、家族を探しているとか、そんな雰囲気じゃない。何故か、笑顔だったからだ。


「君、どうしたの。もう夜になるよ」


「うん、そうみたいね」


「家に帰らなきゃいけないんじゃないのかい」


「私、家はもう行っちゃったから」


変なことを言う子だ。このぐらいの歳なら、そういう事も普通に言うのだろうか。子供はよく見かけても、実際に触れ合うのは、大人になってからは初めてのことだった。妻と呼べる人もいない、友人とはいつぐらい前か、パタリと会わなくなった。だから娘も息子もおらず、友人の家族を見ることだって、全くない。


「家が行っちゃった、って?」


「こんな夜更けに子供に話しかけるなんて、いけない大人ね」


「う……」


突然正論を喰らって、一瞬話をするのを躊躇ってしまった。


「まぁ、いいわ。ここにいる私だって、いけない子供なのだし。行っちゃったものは行っちゃったのよ」


「だから、その行っちゃった、ってどういう……」


「私の家は太陽なのよ。私は乗り遅れた太陽の光なの。だから、今はこの夜の中にひとりきり」


「……」


特別に変わった子のようだ。

我が子は目に入れても痛くないと言うが、子供のいない私には分かるはずもない。それに、もしその言葉が本当だったとして、太陽の光なんて目に入れてたら、痛いどころではない。焼けたり光を受け付けなくなったりするかもしれない。

ただ、こういうことを考える私も私で変だ。彼女の言葉を本当だとして、話すことにした。


「そりゃどうりで、行っちゃったわけだね。電話とか繋がってるなら、連絡しておきたいんだけど」


「ダメよ、太陽の声なんて聞いたら、耳が燃えちゃう」


「うーん、そうは言ったってなぁ……」


「あっ……」


女の子が空を向き、声を上げた。

なんだろう、と思って見てみると、その方向には、連なる山々の奥から漏れ出す光り輝く球体があった。夜空は焼け、照らされていく。


「あーあ、折角夜をもっと楽しみたかったのに。家が迎えに来たみたい」


「……バッチリのタイミング……」


「じゃあね、また会えるかも」


「えっ?」


声の主の方向を見れば、そこには誰もいない。あるのは照らされた公園。


「……こんなに遅くまで働いて、疲れてたのかなぁ………あれ?」


呟きを落とした地面には、冬の朝にも関わらず、季節外れのひまわりが咲いていた。まるで枯れそうもなく、触れれば日向ぼっこをするように暖かい。

今、夜は休み、昼が働き始める時間だ。

私は今日、夜と共に休むことにした。

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