第24話 蒼炎の創作魔法


「のぉ、エマよ 一体どうするつもりなんじゃ! 妾の大炎魔法も使わずにこやつらを一掃しようなんぞ到底無理な話だとお主もわかっておるじゃろ!」



「そうだね。あの魔法は確かにすごく強力だけどさっきも言ったけど今回は使わないよ。 もう決めたの。」


「なぜじゃ!?お主のファイアーボールなぞ、何発放ってもかすりもせんというのに!!」


敵中のど真ん中でアグニラとエマが言い争う。



「だから考えている事があるってさっき行ったでしょ? それに・・・・今アグニラが言ったのがまさにそれだよ。」


「む?どういうことじゃ?」


不機嫌にしかめっ面を作ったアグニラが疑問を浮かべていると、突如上空をぐるぐると旋回中のウェザーホークの群れの中から数匹がこちらに向かって滑空してくる。



尖らせた鋭利な爪を立て今にもエマとアグニラを屠ろうとしているのだ。


しかし、命を狙われているはずの彼女らは落ち着いていた。




「ロックシールド!」 「ファイアーサークル!!」

エマの遥か後方から声がしたかと思うと突如土壁が出現し避けきれなかった数匹のウェザーホークが勢いよく衝突した。


そして間もあけずに今度はエマを中心に炎で出来た円柱が展開される。

近づく事も出来なくなったウェザーホークは突如身を捩りながら回避行動をとり、間一髪避けるとと旋回する群れの中へと帰って行った。


エマは後方に向き声をかける。


「レイナー、キリカさんーありがとう! 助かったよー!」

先程から何度かこういった襲撃があるのだが、全てこの二人が後方からフォローしてくれているのだ。


「ふん! 何を呑気に手まで振りよって! で、はよさっきの続きを話さんかっ! あの童達ももう魔力切れは近いのだぞ。」


「あぁ、そうだったね。 えっと、確かに今の私じゃ一体でも当てるのはすごく難しいと思うんだよ。」


「うむ。 お主はまだひよっこ魔法使いじゃからな! それにあの鳥共もなかなか素早いしの。」


「うんうん。じゃあさ・・・・・避けられないくらいの数を一気に放てばいいんだよ!」


「む?」

はてなを浮かべながらアグニラが考えるそぶりを見せる。


「題して・・・ひょっこ魔法使いの火の玉、数撃ちゃ当たる作戦!! だよっ!!」


「・・・・・・・・」


「あれ・・・? アグニラ??」


「・・・・・・・・・・・・」


「おーい・・・アグニラさーん・・・・・・やっぱ駄目かな・・?」


黙り込むアグニラに唐突に不安になる。

第一エマにとってもなんとなく出来そうな気がするっというだけで、失敗するリスクも大いにあるのだ。

これは一種の賭けではあるが、どういうわけかほんの少しだけ自信があった。



うんともすんとも言わず唯々黙ってじっとエマを見ていたアグニラが突然にやりと口を悪戯っぽく吊り上げ不敵に笑いだす。


「ククククク・・・・・・クフフフッ・・・」


「あ、あの、アグニラ?」


「クアーハッハッハ!! なんと単純な!! 一気にあの数をたたく程火の玉を出現させ倒すと言うのかお主は! 一で当たらぬなら十放つと? クフフフ。」


「やっぱ安直すぎるよね・・?」


「くふふ・・・そうじゃな。 まぁでも・・・面白い!! 妾は乗ったぞエマ! 時間もそうない、早速やってみるが良い。フォローは任せるのじゃ。」


「う、うん! ありがとうアグニラ!」



「にしても、もうちょい捻った作戦名がよいがのー。 なんというかそんままじゃし、センスの欠片も感じぬわ。」


「そ、そのへんはどうでもいいんだよ! 適当に今つけただけだし!」



「ふむ。 まぁ、まずは膨大な数の火の玉が必要じゃ、改めて集中せよ。 後ろの童共に守りの指示は妾がしておく!」





アグニラに短く頷いて見せるとゆっくりと目を閉じて火の玉をイメージしていく、実際ファイアーボールくらいならもう瞬時に作れるのだが、ここは念の為、濃密かつ詳細に作り上げたいのだ。



丸く・・・・熱く・・・もっと熱く・・・・

今回はたくさん作るし、スピードも出るように小さく・・・・もっと小さく・・・もっともっと小さく。


エマの前にふわふわと浮遊する小さな小さな火の玉が出現した。

その大きさはいつもの半分くらいだろうか、大体卓球の球くらいの大きさだ。


ここから同じような火の玉をどんどん形成させてゆく。


1つ・・・・8つ・・・・・・・・15・・・30・・・


小さな火の玉は数が多くなるにつれエマの周囲にくるくると輪を描くように展開されていく。


43・・・・・・60・・・・99・・・・160・・・


「(うぅ・・・さすがに放出せずに引き留めておくのはちょっとキツイ・・・・かも・・。でも!まだ! 全然足りないっ!!)」


エマはグッと食いしばると再び小さな火の玉を形成してゆく。


「くふふ・・・面白い!面白いぞエマよ!!! おいそこ!!エマの頭上に防御魔法じゃ!!!」


エマの肩に座りレイナとキリカに指示を出しているアグニラはキラキラと目を輝かせながら特等席でその魔法を見ていた。


ウェザーホークの群れ達もエマが作り出そうとしている魔法に魔物の危機察知能力が働いたのか今は必死にそれを阻止しようとエマに対し全面攻撃に出ているのだ。


「にしてもすごい集中力じゃの・・・もう周りの音さえ聞こえておらんかエマよ。 くふふ・・・妾に見せておくれ、お主のその炎を・・・」


そう言うとそっとエマの頬にアグニラが小さな手を触れた。


「大炎魔法は加護を与えたあの時から、もうそなたの物じゃ。好きに使うがよい。」


優しく笑みを作り触れた手でエマの頬をそのまま撫でると。

エマの身体が燃えるように赤く発光してゆく。







ーーーーーーーーーーーーーーーーー

「キ、キリカさん、エマは一体何をしようとしているんでしょうか!?」

「私にもわからないわ・・・それに何なのあのファイアーボールの数はっ!!」


前方の方から怒号のように飛んでくるアグニラの指示を受け魔法の力を使ってエマを守り続けるレイナとキリカは混乱していた。


誰よりも早く彼女の魔法が普通ではないと気付いたのがこの二人なのは、同じ魔法使いだからだろうか。


エマから感じる圧倒的な魔力量、そして今まさに展開されているその魔法の異常性。


全ての事柄が彼女らを混乱させている。


「エマ・・・・」

「魔物の攻撃が激しい! レイナちゃん防御魔法に集中して!」


「は、はい!! そうだ! 今はエマを守らないとアグニラ様がついているし大丈夫だよね・・・エマ・・・。」


残り少ない魔力を振り絞りエマを襲う魔物達からの攻撃を凌ぎ続けるレイナの心には例えようのない不安が募っていた。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


1500・・・・1800・・・2200・・・・


気が付けば周りは炎の玉で埋め尽くされていた。



エマの周囲にくるくると回るように展開している小さな火の玉はまるでエマ自身を覆い隠してしまいそうな数になっている。



「クハハハハハ!!! 良いぞ!!エマよ!! 全てを焼き尽くすのじゃ!!!」


「・・・もう、何物騒な事言ってんの?アグニラ、アンタってさそれでも本当に偉い精霊なの?」

エマがゆっくりと目を開けながら苦笑いでアグニラに言う。


「む? なんじゃエマ、ようやく妾の声が聞こえたか。」


「ってちょっと待って!!! なんか私!!赤く光ってるんだけど!?」


「ん?あぁ、さっきからずっと光っておったぞ。」


「えぇ!! なんで!? ちょっ!? えぇー・・・気持ち悪い!!」


「かっこよいではないか!!」


「気持ち悪いよ!! 消えてーーーー!!」


「炎王の加護のおまけ? みたいなもんじゃ!」


「いらないよ!!! これ、どうやったら消えるの!?」


「むー?そのうち消えるんじゃないかのぉ?」


「なんでアバウトォォォオーーー!?」


「くはは、夜とか面白そうじゃの。どこにおってもわかりそうじゃし・・・うむ!結構便利ではないか!」


「外歩けないよーーーーー!!!」


「ふむ。案ずるなすぐ消えると言っておろう。 してエマよ、もうその魔法は完成かの?」


周りをぐるぐる回る火の玉をキョロキョロと目で追いながら上機嫌のアグニラが聞く。


「そうだった! なんか急に重くなった気がしてさ、もう少し数も増やせそうだし、火力も高められそうなんだけど・・・・。」


「(ほーぅ・・・これよりまだ展開できるというのかこやつは・・・全く・・・本当に面白いの・・・クフフ。)」


「ん?どうしたの?」


「あぁ、いや、なんでもないぞ。 そうじゃな、数が増えるならもっと小さくしてみてはどうじゃ?」


「もっと小さく?」


「うむ!じゃが単純に小さくすると言うよりも・・・こう、濃縮させるような~・・・・」


小さな手で手つきを交えながらもジェスチャーで何とか伝えようとするアグニラ。


「ふんふん、なるほどなるほど・・・・・」


「出来そうかの? 時間がない。急ぐのじゃ!」




ウェザーホークの猛攻も熾烈さを極めている。

目線を後方に移すと、不安そうな顔をしながら額いっぱいに大粒の汗を流したレイナの顔が目に入った。


もうあちらの魔力も限界なのだろう。


エマは頷くと再び目を閉じる。



もっと小さく・・・小さく・・・・・・小さく・・・

エマの周囲に無数に展開していた火の玉が一瞬にして小さく作り変えられる。

大きさは卓球球くらいからビー玉くらいの小ささまで変化していた。


もっと多く・・・絶対に避けれないくらい・・・もっと・・・もっと・・・


3000・・・・3500・・・4900・・・・5000・・・・



「ぐっう・・ぅう・・・・・き、きついいいいいいいー!!!」

「くはっ!!クハハハハッ!!!」

思わず顔が苦しそうに歪むエマと、戦場に似合わぬ嬉しそうな高笑いをするアグニラなんともアンマッチな雰囲気だ。


「ま、まだまだぁあああああ!! 熱く! もっと熱く!! 全てを焼き尽くすほどの熱い炎にっ!!!」


「あ゛ぁ゛!これエマ!!それは妾のかっちょいいセリフじゃ!!!」



その瞬間、まるで音が消えたかのように静寂に包まれる。

アグニラは少し驚いた表情を見せたが、またすぐにいつもの不敵な顔を作り、口角を吊り上げる。


「クフッ・・・ククク・・さあ、エマよ・・・我ら炎王の力、とくとご覧に入れようぞ!」



赤く轟々と鳴らしていた炎はその色味が蒼く変化し、エマの周囲円状に音もなくピタリと静止している。



後方では信じられないこの光景に見守るだけの冒険者達がざわざわとざわつき始めた。


「な・・・なんだあの魔法は・・・」

「あの炎の色は一体・・・」



そしてマークスや、キリカ、マールも同じであった。

「マークスさんこれって・・・」

「えぇ、こんな魔法見たことがありません。おそらくは創作魔法。」

「なっ!? あいつ、新しい魔法を作っちまったってことか!?」


「エマ・・・アグニラ様・・・・本当に、大丈夫・・・ですよね・・・。」

アグニラからの加護を知るレイナだけはより一層不安だった。



エマがゆっくりと目を開け片方の手を上空に向け掲げる。

静止していた蒼い火の玉達はまるで息を吹き返したかのように轟音を鳴らし燃え盛り始める。




「フハハハハッ! さすがじゃ! よもやこれ程とはなっ!! 

そこのやさ顔の童! それと魔法師の童もじゃ! 全力で今できる最大級の防御魔法を展開せよ!!  ・・・・誰も死なせたくなければじゃがな!」



名指しされ少し驚いたマークスだが、そこにいつもの優しい笑顔はなく真剣な顔でキリカと頷き合うとレイピアを一度振るう。


虹色に輝く光の障壁を作り出し、全員が十分に入りきれる程の巨大なドーム型に展開させる。

さらにキリカが光の障壁の中に水魔法で何重にも障壁を作り防御魔法をより強固なもにする。



防御魔法が完成したのとほぼ同時だろうか、エマが上空に掲げていた手を勢いよく一気に振り下ろす。



「いっけえぇぇー! 蒼炎のインフェルノ!!!」


大きな轟音と共に五千を超える蒼い炎の玉が一斉に飛翔する。



避ける隙間もなく放たれた魔法にウェザーホーク達は次々と直撃し

上空には爆発音が鳴り響き、焼け焦げたにおいが鼻先をくすぐった。




エマはいくつかの爆発の大きな音を聞き終えると急激に体から力が抜けていった。

そして、抵抗する力もなく意識が暗闇へと落ちてい行く。




倒れて行く中エマが最後に聞いたのは

爆発から生まれる爆風に驚く冒険者の声や、

今にもこちらに飛び出してこようとするレイナの叫び声、

それを制止するキリカやマールの声、


ではなく


喜々として大いに笑うアグニラの声であった。






 

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