第22話 山腹の乱戦 Ⅱ
体中に流れる魔力を感じ取る。
そしてイメージを形にしていく。
「(丸く・・・熱く・・・もっと熱く・・・大きさは・・・多分・・・これくらい)」
前に出した掌に炎の球体が生まれる。
道中の訓練のお陰か、以前よりもすぐに形成できるようになった気がする。
といってもレイナやキリカのように瞬時に形成とまではいかないのだが・・・。
「よし!出来た!! うん、なんか思ったよりも丸くないけど・・・まぁいいよね! いけ!ファイアーボール!!」
エマの掌で作られた少し不格好な火の玉が音を鳴らしながら標的であるウェザーホークに向かって勢いよく飛んでいく。
標的にされたウェザーホークはまるで獲物を物色するかの様に少し上空を優雅に飛んでいる。
直撃。 エマがそう確信したその瞬間。
魔物の危機察知能力が働いたのだろうか、唐突に上空で一回転し、いともたやすく
エマの放った火の玉をかわしてしまった。
そして回転の力を得て勢いをつけたウェザーホークは大きく翼を広げエマに向かって一直線に滑空してくる。
どうやら自分の獲物をエマに定めたのだろう。
「うそ!?避けられた!?」
「ふむ。まぁ、そんなもんじゃろ。」
直撃を確信していた分動揺するエマと、まるで当たり前だというように落ち着き払っているアグニラ。
そしてその背後からもう一つ声が響く。
「いいえ、上出来ですよ。」
滑空してくるウェザーホークとエマの間にマークスが割って入り、静かにレイピアを構え、
「ハッ!」
短く息を吐くとウェザーホークに向かって正面から刺突する。
決して速いわけではないその刺突はウェザーホークに吸い込まれていくかのように伸びてゆきかわされることもなく一突きにした。
レイピアのエッジが貫通し絶命したウェザーホークを確認すると一度大きく剣を振りエマに向き直る。
「まずは1つ。やりましたね、エマさん。」
「はぁ~・・・よかった~、でもごめんなさい。 魔法外してしまって・・・。」
マークスのおかげで、怪我一つないが、エマは少しだけショックだった。
「まさか、あんなに簡単に避けられちゃうなんて不意をついたと思ったのに」
「ふんっ。何が不意か! あんな蚊の止まりそうな炎で魔物が倒せるわけがなかろう!!」
「ぐっ・・・」
アグニラに厳しく指摘されるがぐうの音も出ない。
形成まではある程度うまくできたのだが、肝心なその後がよくなかった。
キリカやレイナが放つ魔法とは比べ物にならないくらいスピードが出ない。
これでは動きの速いウェザーホークには到底当たることはないだろう。
「ふふ、ですがエマさんに魔物の注意が向いたお陰でなんとか剣を当てる事ができました。 これもまた連携でしょう。」
マークスが優しく諭してくれるがそれがまたエマの焦燥を加速させる。
「私もなんとかみんなの役に立たないと・・・・。」
その呟きを待っていたようにアグニラが悪戯っぽく口を吊り上げる。
「ならエマよ、この前の犬っころの時に使った魔法はどうじゃ? あの炎なら逃げ場もなく一気に消し炭じゃ!! クフフ・・・・皆に見せてやるがよい!! 特にあのちびっこにの!!」
アグニラの言っている魔法は、キングウルフと対峙していた時に、エマが初めて使った魔法、ヘルファイアの事だろう。
キングウルフですらたった一撃で塵に変えた魔法だが、その正体はついさっきエマが
放ったファイアボール、それにもっと魔力を込め巨大化したものである。
そして何より大きくなるのは形だけではない、その威力は大地を大きく抉る程のものだ、そんな魔法この場で簡単に放てるわけもない。
「何言ってんの!? あんなの周りの人も巻き込んじゃうでしょ! 」
慌ててエマが却下するとぷくっと頬を膨らませてアグニラが拗ねてしまう。
「なーんじゃ。折角妾がいい案を出したと思ったのにのー。 あんな当たらぬ炎を何発放っても意味がないではないか。あーあー退屈じゃー。」
「退屈ってあんたね・・・・(ん?でも逃げ場をなくす炎か・・・もしかすると・・・)」
アグニラの物言いにエマが苦笑いをしていると、
「私も気になりますね、キングウルフを倒したエマさんの魔法。」
っとマークスがニコニコと笑顔を浮かべて話に割って入る。
その声を聞いたアグニラが先ほどまでの膨れた頬をやめ、エマの肩からグイっと身をマークスに近づける。
「くはは!そうじゃろ、そうじゃろ? 妾が教えたんじゃが、かっこいい詠唱もついておってな!・・・もーあれは傑作なのじゃ!」
アグニラの話を興味深そうに聞き入るマークスの背中を押し次の行動に移る。
「もう!アグニラいいってばその話は! マークスさんも!次行きますよ!!」
「あはは、ではこの戦いが終わった後にでもじっくりお聞きしましょう。」
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「ロックニードル!」
レイナの発声と共に無数の土できた針が出現し一気に飛んでいく。
標的とされたウェザーホークは驚くことに飛行しながらほぼ直角に旋回しそれをかわす。
「くっ・・・そこね! アクアカッター」
待ち構えていたかのようにキリカが水で出来た刃を放ちウェザーホークに直撃させる。
音もなく二つに両断されたウェザーホークはそのまま地面に落下していった。
「ナイスですキリカさん!」
嬉しそうにレイナがキリカに駆け寄りお互いにパンッとハイタッチを交わす。
「えぇ、レイナちゃんもいいタイミングだったわよ。」
「・・・えへへへ。」
キリカに褒められて相当嬉しかったのだろう。
尻尾の動きが左右にブンブンと忙しい。
「それにしても、こうも動きが読めないと苦労するわねー。 おまけに倒しても倒してもキリがない。」
「そうですね、なんというかここに集められているかのようにさえ感じてきます。 ロックシールド!!」
話の途中で護衛としてついて来ている冒険者の方にレイナが土壁を出現させる。
ちょうど冒険者の背後からウェザーホークが攻撃を仕掛けようとしている所だったのだ。
間一髪危機を脱した冒険者は片手を軽く上げてレイナに礼を示すと再び武器を構え駆けて行く。
「集められてる・・・・か、護衛の人達も大分疲弊している様だし、長引かせたくはないわね・・・っと! ファイアーサークル! レイナちゃんお願い!」
飛行中のウェザーホーク数体が偶然交わった瞬間にキリカが発声と共に地面から円柱になった火柱を出現させる。
「は、はいっ! ロックシールド!」
今度はレイナが火柱に閉じ込めたウェザーホークの上空に土壁を出現させそのまま落下させる。
大きな音と土煙を上げながら落下した土壁はそのまま5体ものウェザーホークを押しつぶした。
「うふふっ。 防御魔法をそんな風に使うなんて、さすが大賢者の弟子ね。」
キリカが少しからかいながらもレイナの頭を優しく撫る。
「~~~~~~っ~~~~~!!。」
レイナが声にもならない声を上げながらより一層尻尾を激しく振っている。
「とはいえ、こちらの魔力も底なしじゃないんだけど・・・・」
そう言うと厳しい目つきでキリカが上空を睨む。
まだ上空には無数の魔物達が旋回している。
ずいぶん倒したが、本当に減っているのか疑いたくなるくらいだ。
未だ撫でていたレイナの頭から手をどかすと、一つ大きく深呼吸し収納魔法から杖を取り出し構える。
「私も・・・出し惜しみしてる場合じゃないわよね。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ぅぅううう~~~~~アァァーーーーー!!!イライラするーーー!!!」
自分の身長よりも遥かに大きな大斧を片腕で担ぎながら、頭を掻きむしる。
白鷲の騎士団副団長という肩書を持つマールはそれはもう盛大にキレていた。
「おいこらてめーら!!! 卑怯だぞ!!さっさと下りてきやがれっ!!」
上空を旋回するウェザーホークにはマールの言葉などもちろん理解できていないのだろうがお構いなしに続ける。
「つーか、白鷲の騎士団のあたしが、ただの鷲に手こずるなんてなっ・・・・笑いもんだぜ・・・・。」 っとマールが自傷を含んだ瞬間
「「「ピイィィィイイー」」」
「笑ってんじゃねぇぇぇええええええ!!!!!」
決してウェザーホーク達は笑ったわけではないと思うが、あまりにもタイミングのよいその鳴き声に、もとより低いマールの沸点が一瞬で最高点に到達した。
ブンッ!!
担いでいた大斧を片腕一本で空に向かって勢いよく投げる。
回転しながら猛スピードで飛んでいく大斧は惜しくもウェザーホーク達に交わされてしまい弧を描きながらマールの手に戻ってゆく。
「ピイィーーーー!!」
ウェザーホークの一体がまるで馬鹿にしたようにちょうどマールの上空をくるくると旋回する。
「くく・・・・くくくくく・・・・上等・・・・上等だてめーら!!! 地獄で後悔しなっ!! 身体強化発動。」
静かに魔法を呟くと手に持つ大斧にグッと力を入れる。
そして大きく頭上に振り上げ、そのまま思いっきり地面に向かって叩きつけた。
爆発が起きたかのような大きな音と共に辺りには粉塵が一瞬で霧のように立ち込み、
視界を奪う。
「・・・エンチャント土刃。」
呟く様な小さな声がしたかと思うと、粉塵の霧を切り裂く風切り音がし、一閃、大きな大きな半円上の残像が煌めく。
「ふはははは!! 飛んでりゃ安全とでも思ったか!!」
大きな笑い声と共に今度は周囲をブンッと薙ぎ払うとその圧倒的なパワーから繰り出される風圧で残りの粉塵を吹飛ばし、腰に手を当てながらにやりと口を吊り上げるマールが出現した。
手に持っているのはいつもの大きな斧。 ではなく、大斧よりもさらに数倍大きい鎌であった。
大鎌の刃にあたる部分には岩石のような物で覆われており、所々ゴツゴツとして武骨な形状であるが、鉄や鋼の刃のように鋭利な輝きを放っている。
そしてもう一つ驚く事に、マールが立つ少し手前の地面には、息も絶えたウェザーホーク2体がピクリと動かなくなっていた。
「ピイィィィィィ゛ーーー!!」
粉塵の霧が奇麗に晴れようやく事に気が付いた残りの一体のウェザーホークが一段と大きな鳴き声を上げる。
「おーおー、呼べ呼べ。 何体でも相手してやるよぉー。」
鳴き声をマールが余裕綽々に煽り言葉で返すと、どこからか翼をはためかせながら、続々とウェザーホーク達が集まってくる。
まるで本当にマールの言葉が理解できているかのようだ。
上空を鳴き声を上げながら旋回するウェザーホークの群れをきつく睨み、憎たらし笑みを作りながらマールがもう一度煽る。
「おい! よく聞け鳥共!! 今からあたしは2パーの力を開放し、てめーらを倒す! まっ、地獄で誇りな! あたしから2パーも引き出したんだからな!」
そう言うと上空に指を二本立てて2を示すと、ニッと口を吊り上げる。
また一段とウェザーホーク達の鳴き声が大きくなった気がする。
煽られた事に怒っているのだろうか。
手にもつ大鎌に再度力を入れなおし、構える。
「さぁ、気張れよ鳥ど・・も・・あん?」
今にも戦いが始まろうとしたその時、何かが聞こえた気がしてマールが振り返る。
遠くの方、誰かがこちらに手を振っている。
それがどんどん近くなってくるのが分かった。
「ん?キリカ?」
満面の笑みを浮かべ、こちらに手を振りながらキリカが駆けてきている所だった。
「マーーーーール~~~~」
どうやら何か叫んでいるが彼女の名前を呼んでいるようだ。
「なんだ、アッチはもう終わったのか? 相変わらず手際良いなーキリカは」
キリカとは今まで国の仕事で何度も組んだ事があるが、多様な魔法や膨大な魔力量だけではなく、テキパキと動く行動力や、戦況を見る力というものをマールは相当買っている。
宮廷魔法師というとんでもない役職を得てはいるが、その前その職を得る以前、前線で戦う団入りを友として何度も薦めたくらいだ。
そしてもう一人、キリカの後ろで人影が見える。
どうやらこっちはキリカとは違い、必死に走っているようだ。
同じように何か叫んでいる。
「まってくださいぃぃ~キリカさぁぁぁんーーーー!!!」
今にも泣きだしそうな声で必死に後をついて来ているようだ。
「よー、キリカ、レイナも、そっちは無事終わったのか? よかったらこっちも・・・・・・って!? ええええええええええええ!!!」
言いかけたマールの顔が驚愕で固まる。
泣き叫ぶレイナのちょうど上空後方に雲のように大きな大群になったウェザーホークが追いかけて来ていたのだ。
「はぁはぁ・・・・よかった、マール・・・無事だったのね。」
レイナより少し早くマールのところにやってきたキリカが息を切らしながらもマールに笑顔で労う。
「・・・・・・。 って! よかったニコッ、じゃねー!!てめーキリカ! 何って数連れてきやがる!!」
マールは罵声を浴びせるが、落ち着き払ったキリカは優雅に汗を拭うと、マールに向き直り小さな肩にポンッと手を乗せる。
「私達、友達じゃない。ニコッ。」
花が咲いたようなワザとらしい笑顔を向けるキリカに、マールは言葉もなく唸るだけだった。
もう一人少し遅れて息も絶え絶えにやってきたレイナもそのままの勢いでマールにしがみ付く。
「マールさぁぁん! 一緒に! 一緒にやりましょ! ね? ね!!」
懇願というよりも泣きついて来ている形だ。
「なにが一緒にだ!! 巻き込まれ損じゃねーか!!」
しがみ付いたレイナをグイグイ引き離すようにし、マールが叫ぶ。
「もう、マール、そんなこと言わないの! 一緒にやればすぐ終わるわよ。」
「そ、そうですよ!三人ならすぐに・・・!」
「キリカ・・・なんか策があるんだな?」
「策? えっ? ないわよそんなの。 全力でやるだけよ!」
「やっぱり・・・・買被りすぎだったぁぁぁあ゛!!!」
「え?何? なんの話??」
先ほど思っていたキリカの事を頭の中で振るい払い、対峙していたウェザーホークに向き直る。
「おい、てめーら!!」
相変わらず上空を旋回しているウェザーホークはキリカ達が連れてきたものも合わさって70~80体の群れになっていた。
その群衆に思わず苦笑いが出てしまう。
「さっき2パーって言ったけど・・・・やっぱ、10パー開放する「「「ピイイィィィー」」」
両の指先全部を上空に上げ10を示した所でウェザーホークからまるで物言いのような鳴き声が入った。
「ぐぬぬぬぬぬ!!! 」
「え・・・・? なんか今マールさん魔物とお話ししてませんでした?」
「ついにマールもおかしくなっちゃったみたい。 ここはもう駄目ね。 かくなる上は・・・・レイナちゃん、マールを置いて逃げましょう。」
「てめえええらああああああ!!!」
辺り一面にマールの怒号が響き渡った所で再び戦いが始まった。
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