第19話 青年二人の旅 Ⅰ
「ったく!何が飼い猫の捜索だ!!ソーンタイガーだったぞ!!」
「あはははは! まっ猫ちゃ猫っすよ。」
戦闘で負った傷を回復薬で癒しながら青年二人が木陰で休憩している。
魔物の付けた傷跡はみるみる消えていくがその上の服まではもちろん再生はされない。
「あーぁ・・・・また服がダメになったな。」
「だからラグジュで買い込もうって言ったんっすよ。アルトがどうしても早朝に立つって言うから・・・・」
幼馴染の友人オーヴの指摘を他所にアルトはふとラグジュで出会った人物達を思い出す。
キングウルフとの闘いは実は偶然の事だった。
アルトとオーヴは近くの森で別の依頼をこなしラグジュの街に帰る途中で魔物の咆哮を耳にし駆けつけた。
状況が違えばきっと参戦などしなかっただろう。
何を隠そうそこにいたのはキングウルフ。
絶対に自分達の手に負えるような魔物ではない。
しかし、その目に映ったのは自分達とそう変わらないであろう歳の少女達が対峙している姿だった。
少し離れた場所でそれをオーヴと二人で見る。
「なんつー無謀な事を・・・・」
隣のオーヴはいつにもなく神妙な顔をしている。
アルトは少し考えると、ハッと彼女達の意図を感じ取り思わず口に出す。
「この先には街がある・・・・あいつら街に向かわせないようにしてんじゃないか?」
「マジっすか!! 」
もしかすると、あの時少女達に自分の過去に照らし合わせたのかもしれない。
忘れたくても忘れられないあの過去に・・・。
「オーヴ、街に向かってくれ。俺はあの子達と時間を稼ぐ」
オーヴに街への応援を依頼し自分はキングウルフに向かおうとする。
「何言ってんっすか!? 間に合うわけないでしょ・・・・仕方ない・・・一緒にやるっすよ!」
やれやれと困った顔をしながらもいつも自分に付き合ってくれるこの友人にアルトはいつも感謝している。
しかし、今回の敵キングウルフはどう考えても勝ち目がない。
もうこの友人とも最後になるかもしれない。
「すまんなオーヴ・・・・」
「は?今更っすか?アルトの暴走にはもう慣れたっすよ。まぁ、そう思ってるなら、今日の晩飯はアルトが奢ってくれるんっすよね?」
にやりっと笑いながらオーヴが返す。
「あぁ、たらふく食わしてやるよ。・・・・・・うし、行くぞ!!」
死に向かう恐怖はオーヴのおかげで少しは和らいだ。
改めて二人の青年は覚悟を正しキングウルフに向かっていく。
そこから先、
青年二人が目にした一人の少女の魔法は例えようのない程凄まじい物であった。
圧倒的強者のキングウルフをたった一人で一撃の魔法で消滅させてしまったのだ。
今でもあの出来事は信じられない。
しかも後に聞くとその少女は異世界から来たばかりで初めての魔法だったという。
これにはもう言葉も出なかった。
アルト達が小さい頃から死に物狂いで修行して取得してきた魔法を遥かに超える魔法を繰り出したのだからたまったものじゃない。
少しプライドを傷つけられた思いと、
それとは別にふつふつと闘志のようなものが沸きあがっていた。
まだ、自分にも強くなれる可能性があるかもしれない。っと。
―――――――――――――――――――――――――――
さっきから話しかけても上の空で適当に返事をする友人をオーヴが苦笑いで見る。
この友人は昔から何か考え事をすると周りが見えなくなる。
何に対しても真剣に物事を考えるアルトの良いところではあるのだが、友人としては少し心配している。
もう少し楽天的に生きればいいのに・・・。
「なぁアルト、エマっちとレイナっちはもうラグジュ出たっすかねー?」
「あぁ、そうだなー。」
なんとなく聞くとやはり適当な返事が返ってくる。
それを聞きながら何かを思いつき、悪戯にニシシっとオーヴが笑う。
「にしても折角、王都に向かうんだから一緒に行けばよかったのにー」
「あぁ、そうだなー。」
「そうすれば道中も楽しいものになると思うっすけどね」
「あぁ、そうだなー。」
笑いをこらえながらオーヴが続ける。
「エマっちもレイナっちも可愛かったっすよねー?」
「あぁ、そうだなー。」
「むふふ。」
「あぁ、そうだなー。」
なかなかこっちに意識を戻さないのを良い事にさらに切り込む。
「アルトはどっちがタイプだったっすか? 」
「あぁ、そうだなー。」
「俺が思うに・・・・エマっちっすね!!」
「あぁ、そうだ・・・・・・なっ!?・・・・・なっ!?」
突然とアルトが八ッとし、わなわなと慌てだす。
「なっなっ何言ってんだお前!!そんなわけねーだろッ!!」
「ぷははははは!!アルト、超わかりやすいっすー!」
顔を真っ赤にしながら否定するアルトをオーヴさらにからかう。
「てめぇ・・・ふざけやがって・・・・」
しまいには抗議しながらも真っ赤になった顔を伏せてしまった。
「悪かったっす・・・ぷぷ。 まさかここまで引っかかるとは・・・アルトも可愛いところあるっすねー」
「うっさい!気持ち悪い事言ってんなよ! ほらもう行くぞ」
そう言うとアルトは立ち上がり木陰から出て歩き出す。
「ちょっ、待つっすよ。」
笑い過ぎて零れてくる涙を拭いながらオーヴが前を行くアルトに続く。
すると何かを思い出したようにアルトが立ち止まり振り返る。
「あぁ、それとな、小さい妖精のアグニラっていたろ? あれな、妖精じゃなくて火の上級精霊みたいだぜ。」
「へ?」
何とも間の抜けたオーヴの返事がした。
今度は先程の自分のように悪戯にアルトが笑っている。
「なんつー顔してんだよオーヴ。さっさと次の街に向かおーぜ。」
「え?えぇ??冗談?え? アルト!ちょっと!どっちっすか?」
どんどん先に進んで歩き出すアルトを慌ててオーヴが追いかける。
王都への馬車は無事つかまっただろうか。
また危険な魔物に遭遇していないだろうか。
そして、あの上級精霊はなぜ出現し、少女等と行動を共にしているのだろうか。
穏やかな昼下がり、この先二度と会うことはないだろう少女達を思いながら、
青年二人の旅は続いた。
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