第16話 旅の準備と魔法練習
「お皿はこれでいいね。あと、そのコップもいくつか買っておこうか。」
現在街の雑貨屋で買い物をしている。
たまたま見つけた雑貨屋で子供たちが遊ぶ人形がいくつか展示されており、その付属品として売られていた人形用の皿やコップなど、ままごと遊びで使うような物をいくつか買い漁っている。
何もこの歳でお人形遊びをしたいわけではない。
アグニラ用だ。
「ぐぬぬぬぬぬ!玩具ではないかッ!!」
っとアグニラがご立腹だが、おもちゃなので素材は陶器ではないがこれはこれで耐久力もありそうだし、何よりも大きさが丁度良いのだ。
「エマー。こっちにアグニラ様用の可愛い洋服もありますよー」
少し離れた所でレイナがヒラヒラとレースのついた水玉柄の小さな小さなワンピースを持っていた。
「人形用ではないかあああああああ!」
アグニラが顔を真っ赤にさせながら叫ぶ。
先程のマークスの「話」っというのは実に簡潔ですぐに終わった。
場所を変える程なので、少し緊張していたのだが、その必要は全く無かった。
実はマークスは急遽王都に出向かなければいけない事情が出来たらしく。
目的地は一緒なのだし、マークスの馬車に一緒に乗っていけばどうかっという提案だった。
しかも、冒険者ギルドからの護衛付きという事で道中も安心だ。
願っても無かった事なのでこちらからお願いしたほどだ。
マークスは「これで道中退屈しなくて済みそうです」っと微笑むと明日の待ち合わせ場所と時間を伝えると早々に帰っていった。
話がトントン拍子に纏まったので時間が空き、予定通りに今はこうして必要な物の買い出しをしている。
「わーほんとだ。アグニラ、好きな服選んでいいよ。」
レイナに近寄り人形の服を手に取る。値段は銅貨8枚。なかなかお安い!
「高貴な妾が玩具の服などッ!!!」
文句を言うアグニラはプイっと拗ねてそっぽを向いてしまう。
「えーでもこれなんか・・・・あ、かわいいですー! やっぱりアグニラ様は何を着ても似合いますねー!」
すっかり拗ねてしまったアグニラの前に人形の服を重ねながらレイナが褒める。
「ほ、ホントだ! アグニラすごい可愛いよー!これもいいんじゃない?」
ふと、レイナの意図に気付きエマもレイナに続き褒めながら別の洋服をあてがう。
「おー!やっぱり似合う!可愛いー!」
ぴくっとアグニラが少し動いた。
「あー・・・さすがにこの服はいくらアグニラ様でも・・・・・・きゃー!可愛いですーーー!!」
さらにレイナがもう一枚あてがい、大げさにリアクションする。
アグニラがさっきより大きくぴくっと動き、チラチラとこちらを見ている。
「やっぱり、アグニラ程になると何着ても似合うんだねー。うらやましいよー。」
「・・・ムフッ。」
あ、なんかすっごい口元が緩んでる。
さぁもうひとふんばりだ。
「ですよねー。美しい上に可愛いなんてー・・・・・ずるいです!卑怯ですー!」
レイナがさらに追い打ちをかける。
「クフフ・・・フフ・・・・かーはッはッ!!そうじゃろうそうじゃろう!妾程愛らしければなんでも着こなせるのじゃ! まぁ、妾の愛らしさが皆を嫉妬させてしまうのはちと申し訳ないがの!」
ついに緩んでいた口元が完全に崩壊し、胸を逸らしながら満足気にしている。
そんなアグニラをよそにレイナと二人でウィンクする。
(フっ・・・ちょろい!) (作戦・・・成功ですね。)
なんとなくアグニラの扱い方がわかってきた気がする。
「よし、店主!ここの服をすべて頂こう!」
どこから持ってきたのか人形のアクセサリーであろうおもちゃのサングラスをかけたアグニラがお店の従業員の女性にそう叫ぶ。
どこのセレブだあんたは。
全部はさすがに多すぎるので慌てて間に入り適当に5着ほど選んで買う。
そんなに長旅になるわけじゃないし、これだけで十分だろう。
汚れても洗い替えできるしね。
アグニラに必要な物は一通り揃えたので、今度は自分達の着替えや必要な日用品を買うためいくつかの店をまわった。
途中、昨日冒険者ギルドで出してくれたこの街の名産でもあるラグ花のお茶も見つけたので少し多めに買っておく。
食材もある程度買っておいたのだが、調理しなくてもすぐ食べれるように露店でいくつか買ってレイナの収納魔法で保管してもらう。
「ふー、これで今日の予定はあらかた終了しましたね。」
馬車の事が思いのほかすぐ片付いてくれた事もあって時刻はまだお昼を少し過ぎた頃、くらいだろうか。
買い物もさっさと済ませたので時間が随分と空いてしまった。
「そうだねー。調度お昼頃だしどかで昼食でも・・・」
ふと肩のほうを見るとアグニラがしゅんっとしおらしく顔を伏せている。
あぁ、そういえばご飯抜きって言っちゃったんだった。
「はぁ・・・アグニラ。お昼は何がいいかな?」
まぁ、反省してるみたいだしもういいかな。
「うむ!!!では昨日の串に刺さった肉と揚げた芋のような物、それからあの魚介の甘酸っぱいやつと・・・・む?なんじゃあれは!? よしあれも! 食後はさっき甘味処があったじゃろ!」
あっ・・・全然反省してなかった。
パッと顔を明るくすると、次々と要望を出してくる。
「行くぞエマ! 今こそ!己の限界を超える時じゃ!!」
肩の上からビシっと前方を指さすとそんなカッコイイ事を言ってくる。
ただの昼食なんだけど・・・。
――――――――――――――――――――――――――――――――
昼食後、レイナに頼んで魔法の練習に付き合ってもらっている。
その為街からは離れて見晴らしのいい草原に出てきた。
先日のキングウルフと戦った場所からはちょうど反対方向だ。
あの時のただの初級魔法がとんでもない威力をもっていたのもエマが魔力を制御出来ていなかったからといえる。
あんな物むやみやたらに放っているといつか周りの人まで巻き込みかねない、まずは魔力をきちんと制御することが大切だ。
「とりあえず、まだ属性魔法はやめておきましょ。 何か無属性で覚えたい魔法はありますか?」
「えっと、それじゃ収納魔法がいいかな。」
実は先程の買い物も全部レイナの収納魔法で保管してもらっている。
魔法だし重さは感じないから大丈夫っと言ってくれているが、なんだか少し悪い気がしていた。
それとエマ自身、魔法を初めて知ってからずっと一番便利な魔法だなーっと思っていた。
属性魔法より便利な無属性魔法の方が興味があるくらいエマはある意味堅実派なのだ。
「わかりました。収納魔法は今ある空間の中にもう一つ空間を作るというイメージなんですけど・・・・」
「・・・・・・・」
一瞬で心が折れそうになってしまった。
全然理解ができない。
「あぁ、えーっと・・・・ここに、は、はこ? 空間? 収納・・・あ、あれなんだか私も分からなくなってきました~。」
レイナがぐるぐる目を回している。
魔法はイメージが大事。でもそのイメージは全員が全員、一致したイメージを持っているわけではなく人それぞれ考えや理論が違うようにイメージの作り方も違う。
とりあえず目を瞑り魔力を込めるイメージから作り上げていく。
「あ、無属性魔法は保有魔力量が低い人でも使えるの様になっているので魔力はそこまで込めなくても大丈夫ですよ。」
「あれ、そうなの?」
「はい。発動に関してはごく少量の魔力だけなので、エマの場合はむしろ意識しない方が上手くいくかもしれませんね。」
無属性魔法は保有魔力量が大きいとその効果や受ける恩恵は魔力量が少ない人よりも大きくなるというが、発動に関しての魔力使用量は保有魔力の大小に関わらず特に変化はないらしい。
簡単にいうと発動時に魔力を沢山込めたからといって収納魔法の収納量が大きくなることはないし、身体強化魔法でも魔力を込めれば込めるほど強化されるっといったことはないという事だ。
魔力を意識しない方が良いというレイナのアドバイスを聞いて改めてイメージをし直す。
「うーーん・・・・ここに、収納箱を・・・」
何もない空間に手を向けそこに収納箱のイメージを作り上げていく。
大きさはこれくらいで・・・・深さは・・・これくらい・・・
ピシッ
小さな亀裂音が聞こえる。
イメージ作りに集中する為、閉じていた目を開け音がした方を見てみる。
すると、向けた手の先に小さな傷跡のような亀裂が空間に出来ていた。
立てに出来たその亀裂は長さ10cmくらいだろうか。
その小さな亀裂に人差し指をそっと入れてみる。
スッと入った指先はすぐに何かにコツンと当たりこれ以上進むことができない。
「できた!!けど・・・・せっっまっ!!!!」
「ぶふッ!お主、くふっ、そ、そんな小さい・・・くははっ・・・一体何を収納するんじゃ?ぷはは」
アグニラにお腹を抱えて笑われてしまった。
おかしいな、もっと大きい収納箱をイメージしたはずなんだけど。
これじゃただの穴じゃん・・・・。
「すごいですよエマ! 一発で空間に亀裂が生まれるなんて! みんな小さい頃から何年も練習してやっと亀裂が生まれるんですよ。」
「でもこれじゃ・・・・なんの意味もないよ・・・」
つつくだけでコンコンと音を鳴らしながら限界を知らせてくる収納魔法にがっくしと項垂れる。
「エマは保有魔力が大きいそうなので、イメージさえきちんと作れればとんでもない収納空間が生まれるはずなんですけどね。 こればっかしは慣れるしか・・・・。」
イメージか。
なかなか難しいな。
もう一度、今度はもっと大きいのをイメージしてみよう。
いっそのこと倉庫くらいの大きな空間をイメージしてみる。
ピシッっという先程と同じような音が鳴り再び空間に亀裂が生まれる。
さっきの亀裂よりも少し大きく縦に傷跡のような亀裂が入っている。
指先からそっと亀裂の中に入れていくと遮る感覚は何もなく片腕一本丸々入ってしまった。
「おぉー!さっきよりも全然広い!」
何もない空間に腕が全部入るこの不思議な感覚。なんかちょっと気味悪い。
試しに入った腕を大きく回してみる。
ガンッ
「あいたッ!」
腕を上の方に向けた瞬間、壁のような固い物に当たる感覚があった。
腕を大きく一周回せるほどの広さはないようだ。
「はぁ~・・・やっぱりダメかぁ~・・・」
さっきよりも随分と大きくはなったと思うけど、それでも思っていた物より随分狭い。
やっぱりイメージが足りないのかな。
思い描いた物を形にするのはすごく難しい。
「でも、すごいです! 小さくても、一応収納できるんですから!」
レイナがそう慰めてくれる。
まぁ確かに少しでも収納できるんならそれに越したことはない。
レイナに預けていた自分の着替えやアグニラ用の物を受け取り、とりあえず自分の収納魔法に仕舞えるだけ仕舞ってみる。
次々と見えない空間にそれらが吸い込まれて行き消えていく。
これくらいならまだまだ余裕で収納できそうだ。
アグニラが依代にしていた精霊王の本もついでに掘り込む。
依代にしていた時はフワフワと一人でに浮遊していた本だが、今は持って歩くには少しつらい程重い本だ。
この本に関してはレイナは自分の収納魔法に入れるのが恐れ多いと断ったのでエマが自分で持ち歩いていたのだ。
「あー、なんかスッキリした。」
レイナが言っていたように収納魔法に入れると重さなんかは全く感じない。
ちゃんと使いこなせるようになるとこれ程便利な魔法はないだろう。
「してエマよ、取り出す事はできるのか?」
「あ・・・・・」
そういえばどうやって取り出すんだろう腕を入れると何かがある感覚はわかるんだけど、それが何なのかわからない。
いちいち取り出して確認するのは面倒だな。
「あぁ、それなら取り出したい物を思い浮かべてみてください。」
収納魔法の亀裂に向かって精霊王の本を思い浮かべてみる。
瞬間、亀裂の外にあの重い本がスッと音もなく出現した。
「おぉー!?でてきた!」
以外にもあっさりと思った物が出てくる。
これはやはり便利だ。
もう少しイメージ作りをきちんとして収納量を増やしたい。
「うむ!収納魔法はもうそれくらいで良いじゃろ? 次は妾が火の魔法を教えてやるぞ!ニヒ・・・」
悪戯ぽく笑っいながらアグニラが言う。
「「えっ」」
その後、
夕暮れまで続いたアグニラ先生の火魔法教室は失敗に失敗が続き。
立ち昇る爆炎とそれが作り出す爆音が離れたラグジュの街中からも確認でき、キングウルフ出没以降警戒体勢を取っていたラグジュの街ではより一層の警戒が敷かれ、街が少し混乱に陥ったという。
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