第13話 初めての報酬
重苦しいギルドの扉を開けると、外の落ち着いた静けさとは違いガヤガヤと人で賑わっていた。
目つきの悪いいかつい男達や、年若い男女、おじいちゃんとも呼べそうな壮年の男性。
老若男女色んな人達がひしめいている。
思わずキョロキョロと周りを見回していると、後ろからやってきたアルトに声をかけられる。
「どうした?ギルドは初めてか?」
初めても何も昨日この世界に飛ばされたのだ、見るもの全てが初めてといってもいい。
そんなことを考えていると、前から人混みを掻き分けながらやって来る女性がいる。
「ようこそ、冒険者ギルドラグジュ支店へ! マスターからお話は伺っていますのでこちらへどうぞ。」
少し息を切らしながらやってきた女性はここの職員らしい。
見るとウサギのような長い耳をピンとさせている。
この人も獣人族っというやつかな。
女性職員に奥の部屋に案内される。
大きな執務机の前にあるソファーに促されるとすぐさま先ほどの職員がお茶を持ってきてくれる。
こっちのお茶も元の世界の紅茶に似ていてとてもいい香りだ。
「ラグジュの名産、ラグ花で淹れたお茶なんです。ほんのり甘くておいしいですよ。」
ラグ花・・・よくわからないけど確かにほんのり甘くて飲みやすい。
隣のレイナも気に入ったのか満足そうだ。
「あ、申し遅れました。私、ここの職員でラナと申します。」
女性職員は軽く自己紹介をし、ペコリと頭を下げる。
「うむ!妾は上級ふぐもっ!?!ふがふが!!」
急いでアグニラの口を塞ぐ。
どうして学習しないのか。
相変わらずこちらを睨みつけてきているが、その後の苦労を考えてほしい。
レイナとアルトが苦笑いし、オーヴとマークス、それからギルド職員のラナが何事かときょとんとしている。
「おう、待たせたな!」
そうこうしているとウゴーンが執務室の扉を開け入ってき、ドスンっと音を立てながら対面のソファーに腰かけた。
ラナが持ってきた熱々のお茶をチビッと一口啜ると続けざまに革袋を取り出す。
「早速だが、これが魔石の買い取り料金、金貨100枚だ。」
そう言ってドサッと机に置く。
「ひゃ、ひゃく・・・・」
エマの隣に腰かけているレイナが口をパクパクさせている。
相場がわからないエマだが、そのわかりやすい反応で高額だということが分かった。
「それと、これがキングウルフ討伐報酬だ、金貨200枚。」
同じようにドサッともう一つ革袋を机に置く。
今度はアルトとオーヴが、
「まじかよ・・・・」
「ラッキー!当分働かなくて済みそうっす!」
っとそれぞれの反応をしている。
「そして次は私から・・・」
マークスが何もない場所に手を伸ばすと空間に切れ目が生まれ、そこから革袋を取り出す。
「実際、街に実害はありませんでしたが、未然に防いで頂いたということで、こちら私からの個人的なお礼として、金貨100枚です。少なくて申し訳ないのですが。」
なんとマークスからもポケットマネーで報酬を出してくれるという。
ギルドからの報酬等全部合わせると、
合計金貨400枚だ。
隣を見ると、驚愕の表情で固まったレイナ、アルト、オーヴの三人がいる。
それを見て、大変な金額だということを理解し、慌てて行動に出る。
「こんなに沢山、本当によろしいんでしょうか?」
未だ固まる三人を横目にウゴーンが豪快に笑いながら答える。
「何も問題ねぇ!魔石の買い取りは相場だし、キングウルフは元々うちで討伐依頼があったんだがな、誰も森深くまで潜る奴がいねぇからここまでの金額なんだ。」
「それに貴方達は街の危機を未然に防いだ英雄ですよ?そんな方達にお礼が何もなしでは街の尊厳に関わりますから、どうぞお収め下さい。」
ウゴーンに続きマークスもニコリといつもの様に微笑みそういう。
街の尊厳とまで言われると受け取らない訳にはいかないだろう。
ここはありがたく頂いておこう。
「そ、それでは、お言葉に余させて頂きます。」
金貨400枚が詰まった革袋3つの重さに少し声が震えてしまう。
「おう!これで報酬の話は終わりだな!」
今度はぐびっと一気にカップに入ったお茶をウゴーンが豪快に飲み干すと、続けて
「そこの坊主二人はギルドに登録してるみてぇだが、嬢ちゃん等も登録しねぇか?」
そう問い掛けてくる。
冒険者ギルドは登録するとで、各地に存在するギルドで依頼を受ける事ができ、それを達成する事で報酬を得たり素材の買い取り等をしてくれるらしい。
先程の老若男女も冒険者で、年齢制限等は特に設けておらず、登録すれば誰でも依頼を受ける事ができるのだとか。
その為、依頼の種類も豊富で魔物の討伐だけではなく、街の警備から、商店等の雑務、手伝い、温泉宿の多いラグジュでは宿のハウスキーピング等々、幅広くあるという。
エマとレイナはギルドに登録はしていないのだが、アルトとオーヴが登録していることもあり、今回は特別に報酬を出してくれたのだ。
「キングウルフを倒しちまうくらいの実力のお前さん達なら頼みたい仕事が山程あるんだけどな。」
期待するような目でこちらをチラリとウゴーンが見る。
「それに、つい先日王都から簡牘が届きましてね。 何やら他の地方でも大型の魔物が突如出没し、被害にあった所も多いようです。こちらのキングウルフの出現も少々不可解なものでしてね。」
笑顔を消しながら真剣な顔でマークスが続ける。
「キングウルフとは森深くに生息し、他の個体よりも非常に知能が高い魔物です、資源が豊富な森をわざわざ抜けて街近郊に現れるのも今までに無かったことです。 何より、群れのボスである彼が、単独で現れた事が私には不思議でならないのですよ。」
なるほど、マークスの言うようにキングウルフは単独で現れたが、そこまで疑問視するような事なのだろうか。
そんな事を考えていると、
「っとまぁ、そういうことで、まだ今後不可解な事が起こるかもしれねぇ、そんで実力のあるお前さん達を街に止めておきてぇってとこだな!」
そう本音であるところを話しウゴーンがガハハハハっと豪快に笑う。
事情は分かったが、少し困ってしまう。
エマにはいち早く王都に行って、元の世界に帰してもらうという思いがあるからだ。
それに今回のも初めての魔法があの結果に繋がっただけの話である。
今後同じような危機に直面した時、乗り越えられるのかどうかはエマ自身にもわからない。
隣を見ると苦笑いを浮かべながらもこちらの意図を感じ取ったのかレイナがこくんっと一つ頷いていた。
正直に話してみることにする。
「あの・・・・実は・・・・」
―――――――――――――――――――――――――
それからエマは昨日から今日にかけて起こった事を一つ一つ丁寧に話していった。
別の世界から来たこと、キングウルフと戦ったこと、火の精霊に加護を貰った事、初めて魔法を使った事、そして、王都に向かっているという事。
ただ一つアグニラの正体については隠しておいた。
共にキングウルフと戦った仲間が異世界人と聞いてアルトとオーヴが驚いている。
「ガハハハハッ! まさか異世界人だったとはなぁ、そりゃぁ悪かった! 引き留めるような真似しちまって」
こちらの世界からはエマの元の世界に何人も人が来ていると言うし、ウゴーンとマークスはさほど驚いてはいないようだ。
ただ、こっちの世界にエマのような異世界人がやって来ることはあるのだろうか?
そんな疑問を頭に巡らせているとウゴーンの隣で静かに話を聞いていたマークスがジッとこちらを見つめている。
「あ、あの?なにか?」
その視線に耐えられなくなりマークスに問う。
「いえ、私も異世界人は初めてお会いしたもので・・・。しかし、異世界人は魔力を有しないと聞いたことがあるのですが、転移してすぐにキングウルフを倒すほどの魔法の才・・・不思議な事もあるものですねぇ・・・・」
そう言って今度はテーブルの上に置かれたお茶菓子をむしゃむしゃと夢中で頬張るアグニラに視線を向ける。
いつもの笑顔は消え失せて、何か冷酷な、思わず背筋がゾクッとするような視線だった。
もしかするとマークスはアグニラについて何か気づいているのかもしれない。
「む?なんじゃ?お主もほしいのか? 仕方ないのぉー。」
そんなマークスを口の周りいっぱいにお菓子の食べかすを付けたアグニラが見上げると、皿に大量に盛られたクッキーを一枚引き抜き空手チョップで真っ二つに割りる。
「ほれ」っと差し出された半分のクッキーを、引きつりながらも丁寧にお礼を言いながらマークスが受け取る。
「あ、ありがとうございます」
そのクッキーをマークスが一口齧ると同時に、
「まっ、これで一通りの話は済んだな。疲れただろ?街で休んでくれ!」
っとウゴーンが皆に声を掛ける。
「お礼も兼ねてこの街一番の温泉宿に部屋をとっておきました。私がご案内致しますので今日はそちらでお休みください。」
マークスが先程とは違い、いつもの笑顔を浮かべる。
温泉宿か、昨日は野宿だったから本当にありがたい。
安全なところで心置きなくゆっくりできるのは本当に嬉しい。
レイナやアルト達も喜んでいるようだし、ここはマークスの行為に存分に甘えさせてもらおう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます