第8話 異世界の友人

魔法をおしえて欲しい


アグニラとレイナにそう伝えると、少し困ったような顔をするレイナ


何やら不気味な笑い声を上げながら上空をくるくると旋回している本、アグニラ

と反応はそれぞれだった。


しかし、夜も遅いので少し休んでからということになり、レイナと二人で眠りにつくことにする。

寝ている間、アグニラが魔物の気配を検知しながら監視してくれると言うので安心して休むことにする。


ホッと一息ついて静かに目を瞑ると一瞬で睡魔に襲われる。

横からはすでに小さな寝息が聞こえている。


余程疲れていたのだろう

「アグニラ・・・・・おやす・・・・」

そう言いかけて完全に眠りの中へと意識が落ちていった。









―――――――――――――――――


『朝じゃーーーーー起きるのじゃーーーーーーー!!』

何時間くらい寝たのだろう。

アグニラの大きな声で眠りの世界から一気に現実に戻される。


「うーーーん・・・父さん・・・ゴミ出し当番は今日私じゃ・・」

『何を寝ぼけておる!さっさと起きぬかー!!』


ガンッ!!!


まだ眠い目を擦っていると頭に強い衝撃が走る。


「イッッッッターーーー!」

『ふんっ!!お主がなかなか起きぬから悪いのじゃ!』


本のアグニラが思いっきり体当たりしてきたのだ。


「だからってもう少し優しい起こし方あるでしょ!そんな分厚い本!! もはや凶器だよッ!!!」

っとそんなやり取りをしていると、


「ししょ~あ、てんちょ~そのお肉は私のです~・・・あ、それも私のです~・・・・ふへ・・・ふへへへへ・・・・」

そんな間の抜けた声の寝言が聞こえてくる。


視線を隣に移すと幸せそうに涎を垂らしながら寝ている少女がいた。

ただ一つ、その少女はエマの知っている少女とは違う姿の少女で・・・・。

「えっ!?誰!?」


『ぬぬぬ!!!!天丼はッ・・・・!!!!いらんのじゃああああああああああ!!!!』

そう言ってアグニラは急速に空高く浮上する。

高く、高く、どんどん高く。

まだ何か叫んでいるようだが遠くに聞こえいまいち聞き取れない。

その声がどんどん近くなっていく。


今度は逆に高速で落下しているらしい。

『起きろおおおおおお!!!このっええええええええええええ!!!!」


キーーンっという音を立てながらアグニラが落下してくる。

さながらミサイルのようだ。


「う、うわああああ! 死ぬ!それは死んじゃうよアグニラ!!!!」

必死に静止を促すがアグニラには聞こえてないようだ。


当たる!!


そう思った時。


「んー?何ですかー?あ、お客さん。おはよーございますー。」


アグニラに猫娘と呼ばれたその少女はゴシゴシと目を擦りながら上体を起こす。


その瞬間

ドー――――ンッ!!!!!


激しい音と共に先程まで少女が頭を置いていた場所にアグニラが高速落下し、そのまま地面を抉えぐりめり込む。

「ふにゃぁ!?」

間一髪、上体を起こして助かった少女だがその衝撃で前のめりに飛ばされる。


「バ、バカ!!!危ないでしょ!!!」

地面にめり込んだアグニラはシューと煙を出しながら停止している。

『す、すまんのじゃ。ちょっとテンションが上がり過ぎたようなのじゃ。・・・・それよりも・・・お主ら引き抜いてくれんかの?』



グッ、グッと本が動いているがどうやら抜けなくなったらしい。

いい気味だ。

このまま少し反省してもらおう。




「そんな事よりレイナさん? あの、その姿は一体・・・」

「え?」

そう言ってレイナは慌ただしく自分の体をペタペタと触り始める。

頭の方にあるピンと立った二つの耳を触り、

「はっ!はわわわわ」

お尻の方からぷらんっと垂れ下がった尻尾に目をやり、

「あああああー!!」

っといつものように表情をコロコロ変える。


昨日まで長い綺麗な栗色だったレイナの髪は薄い灰色に変化し、活発な男子のようなショートカットになっている。

だが、顔や声、体つきは変わらずそのままで、レイナだということがわかる。



『寝ている間に変化へんげの魔法が解けたのじゃろ。初めから思っておったが、なぜそんな魔法を?」

地面に突き刺さったままのアグニラがそう問う。


「えっと、向こうの世界でお使いに行くこともよくあるので、師匠に魔法をかけてもらってたんです。」

確かにこの姿では私の元の世界ではかなり目立つよね。

精巧なコスプレです!・・・・では無理か。



「師匠?」

「えぇ。あ、お客さんは見たことありますね。あのリメリア魔法堂の店長、エイン・ミラーが私の魔法の師匠であり、の一人です。」

「な゛ぁっ!?」

あの胡散臭い本屋の店長さんがまさか三大賢者の一人だったとは。

思い返せば初めて会った時本人が黒猫に化けていたし、変化の魔法でレイナの姿を変えてもなんら不思議でもないのか。



「私は獣人族でも落ちこぼれなので・・・・・人族の姿の方が気に入ってるんですけどね」

少し悲しそうな表情を浮かべて自嘲する。 耳もペタンッと垂れ下がってしまった。


「あのさ、レイナさん、お願いがあるんだけど」

「はいー?何でしょう?」

垂れ下がっていた耳が片耳だけぴょこっと動く。


「そ、その・・・お、お耳を触らして頂いてもよろしいでしょうか?」


自分でもすごく気持ち悪い事はわかる。

でももう耐えれなかった。 エマは根っからの猫好きなのだ。

黒猫がおっさんに変化するというトラウマにを少し抱えているが、そこはこれからも変わることはないだろう。


少し戸惑いながらもレイナは了承してくれた。

そーっと優しく手を伸ばす、


「こ、これはっ!!!」

あまりにも心地いい感触に心を奪われてしまう。

本当にふわふわだ。


「あー癒される~」

「お、お客さぁぁ~ん」

思わずレイナだということを忘れて夢中で撫でまわしてしまった。


「ご、ごめん!ついつい」

「い、いえ~」

慌てて手を離すとレイナが照れくさそうにしていた。

さっきまで垂れていた片方の耳もピンとし、尻尾を少しふりふりと動かしている。



「それと、そろそろその“お客さん”っていうの変えてくれるとありがたいかなーって」

実はずっと気になっていたのだ。

もうここはあの本屋でもないし、これから一緒に王都まで向かう仲間でもある。

この辺りで変えてもらった方がいいと思う。


「そ、そうですよね!では店長と同じで、お嬢さんと・・・・」

そう言って何故かソワソワしだすレイナ


「あー、いや、そのまま名前で呼んでくれると嬉しいかな。」

するとソワソワと落ち着かない様子だったレイナが驚いた表情をこちらに向ける


「いいんですか!?」

「え?う、うんぜひそうしてもらえると」


なぜそんな事を聞いてくるのか不思議に思っているとリメリア魔法堂でのエインの言葉を思い出す。

そう言えば元の世界で同い年くらいの子としゃべる機会はあまりないと言っていた。

来ているのは研究員が多いというし、そおいうのも何か関係しているのかもしれない。



「わ、わかりました。で、では改めて・・・・これからもよろしくお願いします、!」


いきなりの呼び捨てに少々驚くが、

照れくさそうに顔を赤くしながらも、ぴょこぴょこ動く耳、さっきより大きく振られた尻尾を見ているとそんな事吹き飛んでしまう。


「うん!こちらこそよろしく!」


こうして異世界で初めての仲間、そして友人ができた。


『あ、いいなーそれ妾もそう呼ぼーっと。 それとそろそろ妾を助けるのじゃ』

未だ埋まったままのアグニラが声を掛けてくる。


「あっそうだエマ。お腹すきませんか? 私の水魔法でそこの川からお魚を捕って食べませんか?」

レイナがアグニラの言葉を無視している。

とりあえずそれに乗っておこう。


「えー水魔法ってそんな事もできるの? 私もうお腹ペコペコだよー。」

便利だなー魔法。 

でも、昨日から何も食べていない本当にお腹が減っているのでここはレイナに任せよう。


『ちょっ!?お主ら!?妾もまぜっ』


「あ、確か収納魔法に・・・・ありました! 」

そういって焼き立てのようなあつあつのパンが出てくる。

「わー!」

『妾を仲間外れにするでないー!!』

「あ、コップも入ってました! これでお水も汲みましょう」

「わぁー!」





こうして賑やかな朝食を終えた後、


『妾は二度と上空から高速落下致しません。」


アグニラにそう宣言させてからレイナと二人で地面に埋まったアグニラを引き抜き、

当初の目的である近くの街に向かって歩き出した。


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