第7話 誕生日の決意

「ウォーターショット!」

いくつも現れた小さな水の玉が弾丸の如く狼に向かっていく。

攻撃の機会を伺っていた狼は横っ飛びでそれを躱す。


「ガルゥッ!!」

先程の狼が少し距離を取ろうとした瞬間今度は後ろに回り込んでいた狼がエマに向かって飛び掛かって来る。


「くッ!!ロックシールド!」

岩壁が一瞬で形成される。

勢いよく飛び出していた狼は、壁に当たる直前に後ろ目に飛び衝突を寸でで避ける。



『やはり、こう囲まれては分が悪いの。狼共も連携しておる。それに・・・』

そう言ってアグニラは本の表紙をチラリとレイナに向ける。

はぁはぁと大きく肩で息をしている、心なしか顔色も少し悪い気がする。


あれからどれだけの攻防が続いたのだろうか、連携して襲ってくる狼に攻撃が当たらず、

たった一人で戦うレイナはかなり疲弊しているようだ。


『これだけ魔法を連続で放っておるのじゃ、魔力も残り僅かかの?』


魔力は空気中の魔素を体内に取り入れて作られる、しかし、人それぞれ魔力を保有できる量は異なる。

消費した魔力は急速に生成されるわけではなく時間をかけて徐々に体内で生成されるらしい。



このままではレイナの魔力が底をつくのも時間の問題らしい。

どうにかしてこの危機から脱出しないと。


しかし未だ狼達は攻撃の機会を伺いつつ唸り声を上げながらぐるぐると

自分達の周りを円を描きながら回っている。



「はぁ・・・はぁ・・・一か八か・・・はぁっ・・・やるしかなさそうです!」

そう言うとレイナはチラッと周りのひと際大きな木に目を向ける。


「お客さん、私が合図をしたら全力で走ってください!」

「う、うん!」



正面の狼が今にも飛び掛かろうとぐっと足に力を入れるのがわかった。

「ウォーターカッター!」

一瞬で水の刃が形成されその狼に向かって横なぎに飛んでいく。

「ガウッ!!!」

横なぎに飛んだ水刃をめいいっぱい大きく狼が避け

目標を失った水刃はそのまま勢いを殺す事もなく、後方にあった大きな木に当たりスパンッと綺麗に切断された。


「もう一つ! ウォーターカッター!!」

間髪入れずレイナが同じように水の刃を横なぎに飛ばす。

先程の狼よりも少し左にいる狼に向かって飛んでいく水刃。しかしまたしても避けられてしまい、同じように後ろにあった大きな木に辺り、スパッと切断する。



『ほほぉー』

アグニラが何か気づいたかのように感嘆の声を上げている。

『しかし、そう簡単にいくかの?』

そう言った瞬間

ギィィィィー


切断された二つの木が倒れてくる。

ガウウっ!

それとほぼ同時に後ろの狼がこちらに向かって来る。


「今です!走って!!!!」


その合図の声で一斉に走り出す。


ギィィィィィィ―――――ド―――――――――――――ン


大きな木二本が先の方でクロスするように倒れ狼が作り出した円に大きな穴を開けた。

その脱出口に向かって懸命に走る。

どうやらレイナはこれを狙っていたらしい。


「グルルル゛」

後ろに迫っている狼が鋭く尖った爪を今にも振り下ろそうとしている。

「ロックシールド!!!」

ガチンッ

間一髪で土壁により狼の攻撃を防いだ。


ようやく狼の円を抜け、その勢いのまま真っすぐ走る。

少し進みレイナが振り向きながら

「これがですっ!!!ロックシールドーーーー!!!」


沢山の木々の合間を縫って大きな土壁が出現する。

縦にも横にも今までにないくらい大きい。さながら塀のようだ。


「すごい・・・」

走りながらそんな事を思っていると

ドサッ

横で何かが落ちる音がした。



見るとレイナが倒れていた。

慌てて駆け寄り、声を掛ける。

「レイナさん!? レイナさん!!」

「い、いまのうちに・・逃げ・・・」

よく見るとレイナの左肩から下は真っ赤な血で濡れていた。


「レイナさん!?怪我をっ!!」

『何をしておる!!!その壁もそうそう持たぬぞ!!回り込まれる前に逃げるのじゃ!!』

「でもレイナさんが怪我を」

『今の魔法にすべての魔力を乗せたのじゃろう。魔力切れで気を失っているだけじゃ!』

アグニラが早く逃げるように檄を飛ばす。


眠るように意識を落としたレイナの腕を肩に掛け、少し引きずるようにして進む。



狼の魔物を前に何もできない自分。

一人で戦い、自分を守ってくれたレイナ。

もしかすると、あの場に自分がいなければレイナはこんな怪我をしなくてもよかったのかもしれない。


悔しさと、無力感そして肩に掛かる少女への罪悪感を胸にその場を後にした。





―――――――――――――――


アグニラの案内でレイナを抱えながらずいぶん歩いた。

もう魔物の気配はないらしい。

このまま諦めてくれるといいんだけど。


そんな風なことを考えているとだんだん周りの大きかった木々が小さくなり、遂には森を抜けた。

『ふむ!抜けたぞ! 魔物の気配も感じぬしひとまずは安心じゃろ。』


森を抜けた先は何もない背の小さな草が生えている広大な草原だった。

辺りは変わらず夜なのだが、頭上に遮る物がないため月明かりが随分明るく感じる。


ササ―ッと優しく当たる風の音に、少し控えめな虫の鳴き声も聞こえ、ホッと心が落ち着く。


『川があるぞ。あそこで休憩してはどうかの?』


森からそのまま続いている川だろうか。

透き通った水が月明かりで照らされてキラキラしている。


川原の調度平なところにレイナをゆっくりと寝かせる。

「ん・・・・うーん。・・・・・・んはッ!!!」

パチリ

寝かせた瞬間にレイナの意識が回復し、上半身を勢いよく起き上がらせた。


「レイナさんっ!?・・・よかった・・・・よかったぁ~」

いきなり目を覚ましたレイナを思わず抱きしめてしまう。

「はわ!?わわわわわっ!!ど、どうしたんですかお客さんんんー、ッ!?いててててて」


突然の事に驚いていたレイナだが、すぐに別の感覚を感じ顔を歪める。


「あ、そうだ!レイナさん腕が」

レイナの左腕には狼の爪にやられたのであろう何本かの線が抉り、そこから血が流れていた。

「ど、どうしよう。病院!病院探さなきゃ!!」

「いッッッー。だ、大丈夫ですよ。これくらいなら・・・・よいしょ、回復薬で」


そういってレイナは何もない空間に手を伸ばし、突然開いた空間の切れ目のような所から

ペットボトルくらいの大きさの瓶を取り出した。


瓶の中には濃い青色の液体が入っており、それをドバドバと傷口にかけていく。

「うぅ~~~~~~~~~しみるぅぅぅぅ~~~~~」

小さく叫びながら回復薬を掛けるレイナの左腕を見てみると、みるみる傷が塞がっていく

遂には後すら残らず消えてしまった。


「ふぅ・・・。ねっ?」

「すごっ!」

やはりこの世界は色々と自分の世界の常識とはかけ離れている。

改めてそう思う。


「レイナさん、守ってくれてありがとう。」


レイナがいなければ今頃自分は生きてここにいないだろう。

会ったばかりの少女は何度も何度も自分を守ってくれた。

自分が怪我を負ってまでも・・・。


だからこれは本当に心からの感謝だ。


「いえいえいえいえ!!気にしないで下さい!ほっんとに!」



それに狼達と戦っている最中、レイナが少し震えていたのを知っている。

いくらこの世界の住人だとしても自分と歳はそう変わらなく見える少女だ。

やはり怖かったのだろう。

それなのに自分は何もできなかった。


だから


もう一つだけ。



「アグニラ、レイナさん、私に・・・・」


『ん?なんじゃ?』

「はいー?」


伝えたい決意があるんだ。





「私に、魔法を教えてくれませんか?」


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