第4話 リメリア魔法堂 Ⅱ
戻って来たレイナが再び席に着いたところで、二人に色々な事を教えてもらった。
まとめると、
① 魔法を使うのは体に少しでも魔力を有することができる者。
個人によって保有できる魔力は異なるという事。
② 魔力は魔素という物質から自然変換されるらしく、この世界では魔素が存在していない。
その為、こちらでの魔力の自然回復が出来ず、
リメリア魔法堂では向こうの世界から逆輸入した魔力パックを宅配するサービスがある。
③ こちらの世界と向こうの世界への移動は、
転移魔法を使っての移動であるという事。
転移魔法は誰でも使えるわけではなく、向こうの世界でもたった3人しか存在しておらず、三大賢者と呼ばれている。
④ こちらの世界に来ている人達は厳しい検閲を受けた者のみで、6〜7割は国から派遣された研究員
あとは最近増えてきた移住者達。
その全ての人に魔法の使用制限が設けられており、
人に害をなす魔法、自宅外での魔法の使用、
この世界に影響を与える魔法、その一切を禁止されている。
破った者は強制転移され重い刑を受けるという事。
っと、こんなところだろうか。
もうすでに本当にお腹いっぱいなところだが、
もう一つ聞きたいことがあった。
「あの、一ついいですか?」
「なんなりと。っと言っても機密事項がいくつかございますが。」
そう言ってエインは申し訳なさそうに笑った。
レイナは先程からコクンっコクンっと頭を上下させながらうたた寝しているようだ。
「このお店はいつ出来たんですか? 私毎日ここを通ってる筈なんですけど今日初めて気づきました。」
エマの記憶にはどう考えてもこの店の記憶はないのだ。
「あぁ、それはですね。 店の存在を隠す為認識阻害魔法がかかっているからですね。」
「認識阻害?」
「えぇ。この世界では魔法はお伽やファンタジーの中の物だと思われているようですし、そんな物が実際にあると知られたらパニックになるでしょうし、私達の身も危なそうですからね。」
そう言ってエインは少し目を逸らした。
「うっ・・・確かにパニックになりました。 で、でも私には今日このお店が認識できたんですけど?」
可愛い黒猫がいきなりいい歳の男に変わると誰でもパニックになると思うんだが、殴ってしまったのは流石にエマも反省している。
「そうでした! とっても大事な事を忘れていましたっ! お嬢さん、今日この日にあなたに渡さなくてはいけない物があるんです!」
余程何か大事な事を思い出したのかエインが少し慌てている。
「渡したい物?私にですか?」
「えぇ、えぇ、ある人から頼まれましてね。その為にお嬢さんをここに誘導させて頂きました。」
誘導されていた?私が?私は買い物に行く途中でここに気が付いたはずだけど、エインにここに来るように仕組まれていたという事だろうか。
「少々お待ちを・・・これですね!」
そう言ってエインは何も無い所から一冊の分厚い本を取り出した。
「うわっ。今どこから!?」
「あー、空間魔法の一つですよ。それよりもこれを。」
魔法の説明よりも取り出した本を優先してほしいとエインが差し出して来る。
綺麗なダークブールの色をした厚手の本だった。
大きめの辞典くらいはあるだろうか、硬めのハードカバーの様な頑丈な作りだ。
表紙には中央に大きな木が描かれており、そこから5本の枝木に分かれている。
その枝木の先端には、丸い窪みが空いており、それぞれ窪みの周りに左から
黄色→青色→赤色→緑色→黄土色の順で色が塗られていた。
そして大きな木の上と反対側の下部には一つずつ窪みが空いているが、こちらは色は塗られていない。
よく見ると中央の枝木、赤の色が塗られている窪みにだけガラス玉の様な物が嵌っていた。
「綺麗な本ですね。それにこんなに分厚い本なのに、すごく軽いです。」
硬く分厚い本なのに手に持ってみると不思議と薄いノートの様に軽かった。
「その魔導書は、精霊王の本、全ての精霊の頂に立つ真の王だけが持つことが出来る魔導書なのですよ。」
「しぇ、しぇいれいおー?」
精霊王のワードに反応したレイナが寝惚け眼をゴシゴシこすっている。
「なんとなくすごそうな魔導書って事はわかるんですけど、それをなんで私に?」
「・・・・・さぁ、私はお嬢さんにただ渡す様に言付かっただけですので。」
そういってエインはニンマリと笑った。
こんなよくわからない魔法の本をもらってもどうすることもできないし、
正直迷惑なんだけど・・・・。
適当な事を言って返してしまおう。
そして今日は起こった事、見たこと全てを忘れてしまおう。
そんな風な事を考えながら、本を開いてみる。
そこには何の文字も書かれていない新しいノートのような真っ白なページが広がっていた。
「お、おぉぉ! 開きました!ついに・・・ついに始まるのですねー!」
エインが興奮したように立ち上がりそんな事を叫んでいる。
一体何を、そう問おうとした時、突然と開いた本が光りだした。
「わっ!本から光がっ!!」
驚いている間にもその光はどんどん大きくなっていく。
先ほど見ていた店内の景色もその光がのみこみ、眩しさでついには何も見えなくなってしまった。
「エインさん! 私どうすれば!!」
必死に叫んでもエインからの応答はない。
開いた本を閉じようとするが、何かに固定されたかのように本はびくりともしなかった。
「くっ!!エインさんっ!! エインさんっ!!!」
何度も何度もエインを呼ぶがやはり反応はない。
「はわっ!?こ、これは一体何なのです!?」
先ほどまで寝ぼけていたレイナもこの事態でようやく目を完全に覚醒させたらしい。
「レイナさん!? 本がっ!! ッ!」
「きょ、強制転移!? て、てんちょー!」
そんなレイナの言葉を聞きながらエマは急速に意識が遠のいていくのが分かった。
手も足も感覚がなくなっていく。
声さえも、もう発することはできなくなっていた。
瞼もゆっくりと勝手に下がってくる。
薄れていく意識の中でエインの声が聞こえた。
「ここから始まるのですね。・・・・・良い物語を。 エマ・マーティンさん」
あれ・・・なんで私の名前を・・・
そして最後に一つ
「わっ!」 っという小さな悲鳴が聞こえ、エマの意識は完全に途切れた。
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