第3話 リメリア魔法堂 Ⅰ
「えっと、少しは落ち着きましたか?」
「・・・・は、はい。」
先ほどの衝撃の出来事をレイナと呼ばれる少女が何とか止めて
今は店の奥に申し訳程度設けられたテーブルにレイナがお茶とお菓子を出してくれている。
「この茶葉、自家製なんですよー。少し乾燥チェリーも入れてるので香りもフルーティーなんです。」
レイナが入れてくれたお茶はほんのりとピンク色で心から落ち着く感じがした。
味は、くどさのない、ほど良い苦みの茶葉とチェリーの甘酸っぱさが合わさって、さっぱりとした後味の良い味だった。
「美味しい。」
「わぁーよかったぁー! ささっ、このクッキーもどうぞ。このお茶に良く合うんです。」
自家製のの茶葉を褒められて嬉しかったのか、レイナが満面の笑みでクッキーの入ったお皿を寄せてくる。
そんな事よりもエマには気になる事があった。
もしかするとこれは全て夢なのかもしれない、さっき起こった事全て、何もかも。
それぐらい信じられない事が起こったのだ。
「あ、あのさっき猫が・・・爆発して・・・その・・人に・・。」
「あっ!あぁーえーとっ!それはですねー・・・うーんとつまりっ!」
エマからの質問にクッキーをおいしそうに
そして、急に立ち上がり腰に手を当てて
「魔法です」
「・・・・・」
きょとーん。という擬音がまさにこれだろう。
一体この子は何を言ってるんだろう。
エマはあからさまに反応に困り、目の前でドヤ顔で話した少女から目線を逸らしてしまった。
「えっ?あれ?あっ!あの、信じられないかもしれませんが、本当なんです!さっきのは店長の擬態魔法でその、えーっとっ」
エマが信じていないと感じ取ると追加情報を慌てて出してくる。
「えーっと、レイナさん?」
「はいっ!レイナです!」
「魔法って言われても・・・その・・よくわからないです・・・。」
「うーーーん。信じられないのはよくわかりますが、実際魔法なんですー。現にここ魔導書を主に取り扱ってるお店ですしー。」
魔導書?まったく聞き覚えのない言葉が出てきて余計に困惑してしまう。
「魔導書?ですか?」
「はい?魔導書ですよー。」
逆になんで知らないの?っという顔をされたが、その顔をしたいのはこっちだよ!
「やれやれレイナさん、こちらのお嬢さんは初めて魔法を見たのです。信じられないのも当たり前ですよ。」
先ほど黒猫に擬態していた壮年の男が床から積まれた本をまたぎながらこちらに向かってきていた。
改めてよく見ると黒い燕尾服に黒い蝶ネクタイ、大きめの黒いハットを被っている。
いかにもマジシャンといった格好だが、それが益々うさん臭さを増長させた。
「うっ!」
遂には対面の椅子に腰を落としたその男にとっさにエマは身構えてしまう。
「だ、大丈夫ですお客さん! 次にこの変態ロリコン店長が何かしようとしたら私が・・・・撃滅します!」
そう言ってレイナが小柄な両手を腕いっぱいエマの前に広げた。
なんか今、最後にものすごく物騒な事を言った気がするが・・・・。
「ちょっ!ちょっと待ってくっださいレイナさん!私は少女趣味なんかでは決してなく、もっと他の・・・・コホンっ。いや、失礼。これ以上はやめておきましょう。あはは。」
何か言いそうになって思い留まったらしい。
その判断は正しかったのかもしれない。
レイナが両手を広げたままじとーっとした目で男を見ている。
「ははっ・・・!そ、それよりレイナさん。実際に魔導書を見て頂いてはいかがです?」
「あ、それもそうですね。じゃ、私手ごろな魔導書探してきますね!」
なるほど!っと手を軽く打ち鳴らすとパタパタと本棚の方へ駆けていってしまった。
ころころとよく表情が変わる子だ。
「ふふっ、レイナさんもこちらの世界で歳の近い方とお話する機会があまりないので喜んでいるようですね。」
男はそうボソッと呟きながら、これでもあれでもないと本棚の本を取っては床に投げ捨てる少女を微笑ましく眺めていた。
・・・・・が、
「・・・あれでは本が傷んでしまいます・・・。ちょっとー!!もう少し優しく扱ってください!!大事な商品なんですからっ!!!」
そう叫ぶも夢中で魔導書を漁っているレイナには届いていないようだ。
男の顔がすぐに苦笑いに変わってしまう。
「おっと、大事な事を忘れてしましたね。私はエイン・ミラーここ、リメリア魔法堂 ロンドン支店の店長をしています。」
エインと名乗ったその男は立ち上がり被っていたハットを外しながら優雅にお辞儀をした。
「リメリア魔法堂、ロンドン・・・支店ですか・・?」
支店ということは本店があったり、いくつかそう言う店があるという事かな?
しかし、そんな魔法のお店なんて今までエマは聞いたこともない。
ましておとぎ話の世界だ。
そんな疑問を感じ取ったのか再び椅子に腰を下ろして紅茶を啜っていたエインが口を開いた。
「この世界にはリメリア魔法堂が現在50店舗ほどございますね。」
「50店舗!?」
「えぇ、近年はあちらからこちらの世界への移住も増えていますからね。近々もう何店舗か拡大するようです」
「あの、あちらからこちらの世界って?」
「大魔法国家リールザルン王国ですね。こちらとは別の世界になりますが。あ、私もレイナさんもリールザルンの出身ですよ。」
頭の理解が全くもって追い付かない。
こことは別の世界があって、魔法が存在していて、こっちの世界にその世界の人たちが来ている?
「あ、カップが空ですね。お代わりをどうぞ。」
そういってエインが軽く人差し指を振った。
すっかり冷めきったポットからもくもくと湯気があがり、エマのティーカップの方にスーっと進んでくる。
するとティーカップが自然と斜めに傾き、ポットから暖かそうなお茶がトクトクと注がれた。
「・・・・・」
またしても驚いて声にならなかった。
「ささっ、温かいうちに。」
どうやら本当に魔法は存在しているらしい。
信じられなくても目の前でそれが起こったのだから。
もう信じるしかないのだろう。
「はぁ・・・」
大きな溜息とともにエインを見るとウンウンと頷きながらこちらに微笑んでいた。
そしてその後ろから自分の顔が隠れるくらい本を山積みにしたレイナがこちらに向かってきていた。
本を空中に浮かせながら・・・・。
「はぁぁぁ・・・・・」
もう一度、今度はもっと大きな溜息が出た。
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