第2話 奇妙な本屋
ギギィー・・・
年季の入った扉をいかにもな音を鳴らしながら開けていく。
先ほど外から見たまんま店内はこじんまりとしており、通路の幅がとても狭く感じられる程大きな本棚が左右に並んでいる。
それどころか、本棚に入りきれない本もあるようで、床からいくつも本が積まれていた。
店内には陽気なカントリーぽいBGMが流れており本屋にしては少しアンマッチな気がした。
「へぇー、やっぱり本屋さんだ」
そう呟きながら店内に一歩足を踏み入れ入口の扉を閉めると不意に、
ひゅーんっと不思議な感覚を体に感じた。
よくエレベーターとかで感じるあのなんとも言えないお腹の中から浮く感じ。
「なんだろう・・・・今なんか変な感じが」
そんな事を思っていると
『にゃー』
可愛らしい鳴き声を上げながら、前からトコトコと猫が歩いてきた。
床に積まれた本を時折飛び越えながらこちらに向かってきている猫は、真っ黒な毛並みをしており、少し黄色い目をしている。
どことなく気品を感じさせながらやってきた猫はエマの真下までくるともう一度「にゃ~ぉ」と鳴いた。
「わぁーかわいいーー!お店の飼い猫かな?」
屈んでその黒猫の頭を撫でてみる。「にゃあぁぁ~~ん」黒猫も気持ちよさそうに目を細めてごろんっと寝転がった。
「ふふふ。人懐こいこいね。お腹も撫でてほいのかにゃー?」
愛らしい黒猫の姿に思わず口元が緩んでしまう。
「誕生日に黒猫と会えるなんて・・・ちょっとラッキーだったかも・・」
そう呟きながら猫のお腹をわしゃわしゃ撫でる。
「ここかにゃー?」
わしゃわしゃわしゃ
『にゃぁぁぁ~』
「それとも、こっちかにゃ~?」
わしゃわしゃわしゃ
『にゃっ!にゃあぁぁぁぁぁぁ~~』
「おーよしよしよしよし~」
わしゃわしゃわしゃわしゃわしゃ
気持ちよさそうにしている黒猫があまりにも可愛いので夢中で撫でていると
『にゃあああああああぁぁ~~ぁ゛あ゛あ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛――…』
猫が・・・・叫んだ。
それも先ほどのような愛らしい猫の鳴き声ではなく、どこかダンディさを感じる渋い声で。
「うっ!?うへぇえ??」
突然の渋い声に驚いてエマは言葉にならない声を上げてしまった。
っとその瞬間、
ボンっと小さな爆発音がしたと思うと視界一面に
「ちょっ、一・・体・・・何がっ・・・・!」
とっさに視界に現れた靄を手で払う。
やがて、靄は晴れていき、先ほどと何ら変わらない、所狭しとぎゅうぎゅうの本が詰められた本棚の景色が現れた。
「びっくりした。今の一体何?爆発?」
突然の事に猫を撫でていたエマの手は震えていた。
「手が・・・・」
ぷるぷる震える手を見るように視線を下に向ける
「ハッ・・・・ッ!!! ハギャァァーーー!!!!!!」
向けた視線の先に見えるものにまたも言葉にならない悲鳴をあげてしまった。
「ね、ねねねね、ねこ・・・猫、猫がぁー!?」
驚くのも無理はない。
信じられないことに、先ほど猫を撫でていたその手の先に壮年の男性が寝ころんでいた。
猫がお腹を撫でられていた時の姿勢のまま、恍惚の表情を浮かべている。
はぁはぁと乱れる息を整えながらゆっくりと目を開き
「ハァ・・・ハァ・・ハァ・・お、お嬢さん・・・ハァ・・な、撫でるのがおじょうぐへぁぁぁ゛!!」
先ほど猫から聞こえたダンディな声が聞こえ、余計パニックになったエマは壮年の男の話の途中に
思いっきりその腹を殴ってしまった。
「ぎゃあーーー!!!!猫が!!猫がぁあー!!」
「ちょっ!お嬢さっ!!!」
「ぎゃああああ!!!」
ボコんっ!
「ぐへああ!!!まっ!」
「ああああああ゛」
ボコんっ!
「ぐはぁっ!!!お、おじょうさっ!!!
パニックで殴り続けるエマと、殴られているのに恍惚の表情が隠せない壮年の男
そんなやり取りが数回続いた時、
ギィィーと店の扉が開く音がした。
「店長ー!オルフォードさんの魔力補充、無事完了しま・・・し・・たぁぁぁああ!?」
入ってきたのはエマとそう歳が変わらないように見える少女だった。
目の前の光景に口をパクパク閉じたり開いたりしている。
「あ、あぁ、レイナさん!ぐへあ!!・・・あはっ!お、おかえりなさいっ!!ぐはっっ!!」
「ああああ゛」
「て、店長・・・まさか・・・ついに少女を連れ込んでっ!!」
「ち、違います!ぐはぁっ!!この状況でっ・・・!!ぐはっ!!よくそんな誤解をっ!!あはっ!!」
「あ゛あ゛ああ゛」
「あぁ・・・もう終わりですー犯罪者ですー。こんな所に従士するんじゃなかったですー!!」
「レ、レイナさん!ひ、ひどいです!!ぐふぉっ!!そろそろこのお嬢さんをっ!!とめっ!あぁ~」
未だ殴り続けるエマと、殴られ続けるが恍惚の表情の男、
今後の従士先をブツブツ一人で相談し始める少女
賑やかになった店内には相も変わらず陽気なカントリーBGM がアンマッチに流れていた。
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