第5話 「案」

非常に不服であるが快活である。

檻から精神病院の柔らかな清潔ベッド生活に変わったからである。


どうやら俺の主張、精神的なモットー、深層心理は、この世界では当たり前でなく、気の触れたあかん奴、見えないものと闘う戦士、俗に言うキチガイとして猫に診断され、今あたたかな綺麗な飯を召し上がっている。


何度も言うが不服ではある。

この、頭のおかしい人間が創る抽象映画、目立ったことをやりたい学生が公園で騒ぎながら書きなぐったポエム、イルカの描いた絵のような狂った世界に否定されたからだ。


俺は学校では目立ちはしないものの、それ故勉学優秀健康優良児としてカテゴライズされ、友人もそこそこに、恋人だっていた事のある、模範的高校生で、馬鹿のやる様な、授業休憩タイム、俺の机に絵を描く時間に、後ろで民族的踊りにも似た騒ぎ、集団ミニマム祭りなんかをしてる奴とは一線を画す、シンプルな、それでいてどこか影のある、魅力的な人物なんだよカリスマなんだ俺は。


それというのに、精神病院の職員らは、みな俺を腫れ物のように扱い、大丈夫かい?水は要るかい?今日はどんなんだい?と、しつこく何度も何度も何度も何度も何度も問うてきて、もう憤り、沸点が振り切りそうになる。飯を運ぶケツの良い女(見た目が人なら同じ人間であるということは認識できた)も、それを調理した厳つい黒人男性も、定期的にシーツを替えに来る二足歩行の豹と狼を掛け合わせたような奴も、よく分からん光を手から放ち、そのままそれを俺の頭に当てては首を傾げる自称魔法使いのおばあも、みな俺を非とし、是はこちらだ、と言わんばかりの当然の出で立ちで接して、生活している。


いつまで続くのか、一生かも知らん。そんな恐ろしいことは嫌だ。


俺は明朝、強制的な長い入院生活で得た地の利を活かし、脱出案を企て、それを実行することにした。

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