1-7 探偵は忘れた頃にやってくる

「まあ、いいか」

 でも一向に目を覚まさないので下場は考えを変えたらしい。

「気付いたら襲われてるっての面白いかもしれねえしな」

 でもそれが私や胡蝶こちょうさんにとって良い方向だったかどうかはよくわからない。わかっているのはもう私にはどうにもならないということだ。

 下場げばは胡蝶さんのタンクトップを軽々と引き裂いた。

「色気のない下着だなあ、おい」

 その下から出来たのはいわゆるスポーツブラというヤツだった。確かに色気はない。機能重視のデザインだ。

「どうせ脱がすので関係ないけどな」

 下場が胡蝶さんの下着に手を伸ばした。私は見ていられず飛び出していた。

 その勢いをそのままに脇腹に渾身の蹴り。

「……そんなに先に手を出してもらいたいのかい、嬢ちゃん」

 でも胡蝶さんの必殺技すら受け止めたこの男に私の技なんかが効くわけはない。怒りを買っただけだった。それでも助けてもらった胡蝶さんが襲われるのを黙って見てるだけよりはずっとマシだ。

「私だって襲われるなんてまっぴらゴメンだけど、恩人を見捨てるくらいなら、自分の体だって差し出すわよ」

「そうかい。だったら自分で服を脱ぎな」

「え?」

 ちょっと予想外の展開だった。怒りに任せて私の方に襲いかかってくると思ってたけど、この男、外見に反して頭が回る。

「ぬ、脱げばいいのね?」

「もちろん、それで終わりじゃないけどな」

 あまり考えたくないことを念押しされた。

「よく見てなかったが随分、いい生地の服を着てるな。嬢ちゃん、本当にお嬢ちゃんなのかい」

「だ、だったら何?」

「興奮するねえ」

 それを聞いて私はそれ以上、話すのはますます自分を追い込むだけだと理解した。なので黙って服を脱ぐことにする。

「…………」

 ブラウスのボタンを上から順番に外していく。ボタンを外し終わっていざ脱ぐという段になって下場は変なことを言い出した。

「先にスカートを脱げ」

「なんで?」

「その方が興奮する」

 質問をしてしまったのを後悔した。

「わかったわ」

 どうせ全部脱がすくせに……と思いつつ私はスカートに手をかけた。その時だった。

「おいおい、未成年に手を出そうなんて犯罪だぜ」

「仮に成人女性でも合意がなければ犯罪です」

「そういや、そうだな」

 緊張感のないやりとりが聞こえてきた。

つばさくん!」

 そこにいたのは翼くんと盾無たてなしさん、そのお姉さんの真林さんだった。

「どうやら危機一髪ってタイミングだったみたいだな」

 私は火村ひむらさんの言葉を思い出す。

――ヒーローっては遅れてやってくるもんだろう?

 確かにその通りなんだけど。

「だからって遅すぎでしょ!」

「悪い、悪い。真林まりんさんがせっかく入れたコーヒーくらい飲んでけってうるさくてね」

「なんだい、僕のせいなのかい?」

 真林さんはそう言いながら笑っている。この情況で笑ってられるのだからかなりの大物なんだなと改めて思う。それとも単に空気が読めない人とか。

「というわけで、まもりん、あとはよろしくお願いします」

 でも翼くんはもっと緩んでいた。この情況で盾無さんに丸投げするつもりらしい。

「イヤです」

「じゃあ何しに来たの?」

「その言葉、そっくりお返しします」

「まもりん、ケンカ大好きでしょ」

「人をなんだと思ってるんですか。あと、まもりんって呼ばないでください。気持ち悪いです」

 結果、押しつけ合いが始まる。正直、そんな情況じゃ無いんだけど。

「ハハハ、君たちは本当に仲がいいな」

 なのに真林さんはさらに笑い始める。

「私はお嬢様のボディガードで、お嬢様を助けに来ただけです。残りはあなたの仕事でしょう?」

「まもりんは咲夜さくやが無事ならそれでいいと?」

「そうは言いませんが、理由も無くあんなむさい男と戦うなんてイヤです」

「……それは同感」

 翼くんたちの話がやっとついたらしい。

「人が増えてきたのでアフターケアだけを担当したいんだけどねえ」

 それで翼くんはツカツカと室内に入ってきて下場の方へと移動する。

「なんだ、お前?」

「名乗る意味も無いが、一応名乗っておいてやるよ」

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