1-3 探偵は忘れた頃にやってくる
「突然で申し訳ないんだけど、
「殴り込みでも?」
同じ歳の女子高生とは思えない物騒な質問が返ってきた。察しが良くて助かるけど、それを期待する女の子というのもどうなんだろうとか思ってしまう。
「場合によっては、そうなるかも」
「手伝います」
「で、ここからどうするんですか?」
そうこうするうちに私たち三人は女の子が連れさらわれたという場所にやってきた。
「とりあえず可能な限り、目撃証言を頼りに追跡してみます」
「もう随分前ですよ。見かけた人がそのまま残ってるわけじゃないし」
「……確かに」
正攻法でいこうと思ったけど、やっぱり私には無理らしい。
「確かにって納得する場面じゃないと思うんですけど……」
また依頼者の信頼を失ってしまったのをその言葉から強く感じた。
「あまり使うなとは言われてるんだけど」
私は非常時だし、ちょっとした超能力に頼ることにした。
《
「イメージしてください。女の子を連れ去った犯人たちがあの建物の中にいると」
私は依頼人にそう伝えると適当に身近なビルを指さした。
「なんですか、それ?」
「助けたいんでしょ、早く」
「あ、はい」
「行きます」
私は目を瞑り、意識を内側に集中した。能力を使える精神状態にするためだ。翼くんはそんな準備などなしにいきなり使えるのだけど私にはまだ無理。
「なにをしてるんです?」
しかしその意味がわからず依頼人が不安そうに尋ねてきた。
「黙ってて!」
「……はい」
自分の心拍を意識し、それを少しずつ遅くしていく。ある心拍数になった時に私の集中力が高まるように自己暗示をかけているのだ。
周りの音が聞こえなくなり、心音だけの世界に私は突入したのを確認する。
私の手には光のナイフが握られている。というイメージ。《
私は目を開くと、それを依頼者に向かって投げる。瞬間、目の前の依頼人と私の間に水色の光の線が走る。
瞬間、私は上下の感覚を失う。光の洪水に飲み込まれ、上に落ちるような感覚。
その場で膝をついた。
「ふぅ……」
しかしそこはさっきと同じ場所だった。でも同じ世界じゃない。
そこは依頼人の世界だった。翼くんが
イメージの世界だから現実とは色々違い、依頼人がちゃんとイメージしてくれてれば犯人は目の前のビルの中にいてそこから本当の犯人の場所をたぐれる予定だった。
「おい、
そこには『翼くん』がいた。でもそれは本人じゃない。私の罪悪感が生み出して影のようなものだ。
翼くんに注意されていたのに勝手に行動してることで、この世界に彼が現れたのだ。
「翼くんが来ないからでしょ」
なので文句を言ってみたところで意味はない。本当に翼くんじゃないのだから。でもそれだけで『翼くん』はすっと姿を消した。私が納得したからだろうか。
それから私は辺りを改めて見回した。それでちょっとした異常に気づく。
同じ女の子がそこかしこにいた。
「そっか。そっちの方が確実だったよね」
犯人よりも助けたい女の子をイメージする方が依頼人にとっては圧倒的に簡単だったらしい。どうやら依頼人のすぐにも見つかるという期待の表れみたいだ。
「なら、この娘からやってみますか」
私は《固有世界》の中の人間から、その人の《固有世界》に入ることが出来る。翼くんは危ないからやるなと言うし、実際、彼が使ってるところは見たことがない。理由は色々あるみたいだけど、今は気にしてる場合じゃない。
「この娘がもう殺されてるとかでなければ問題ないよね」
私は再び、能力を使う準備をする。目を瞑って集中。心拍、心音だけの世界へ。
そして目を開きイメージしたナイフを投げる。光の線が彼女に繋がり、私は彼女の世界へと飛んだ。
「……ここは?」
どこかビルの一室のようだった。しかし何も無い。元はオフィスだったけど、誰も借り手がつかないままのフロアみたいだ。
そこにガラの悪い男の子数人と、女の子が一人。女の子は椅子に縄で縛り付けられている。この情況では縛られてなくても身動き出来そうにもないけど。
私は女の子のことも心配だけど、窓の方へと走った。そこには歩いてる途中に見かけた映画館があった。
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