第15話悪魔と幸せ

前から思っていた。私は職場に入る時、門をくぐる時、こわいと感じるときがあった。あれはなんだろう。嫌な職場はたくさんあるが恐い、とはあまりならない。理由なく何かが無性に恐い、と感じるとき・・・。きょうふを抱いているのが自分とは限らない。自分の中にいる自分ではないものの、恐怖かも分からない。その恐怖は、自分に起こるすごい幸運の、前ぶれかも分からない。じじつ、この職場は私を幸せにした。そりゃ幸せじゃないこともあるが。               悪魔は自分の中にいる。悪魔は自分の不幸が大好物。自分の不幸に満足し、それを食べて生きている。なみだや、苦しいきもちや不安、怒り ・・・・それらが、悪魔のえさになる。善悪なんて悪魔にはない。責めても無駄。喜ぶだけだ。             ときどきおもう。わたしは自分の絶望が、心地よい。じぶんのしあわせは、足ががくがくふるえ、顔がこわばり、パニックになり、呼吸がとまるほど、実は恐い。自分の幸せが、恐い。幸せは、避けないだけで、なれる。逃げ出さない、それだけでなれる。   幸せはあなたを、ずっと待っていた。ここにあなたがくると、知っていた。それなのにあなたは自分の幸せを避け、逃げだす。あなたの逃げ足は早い。しあわせは、あなたを見失う。3秒でいい。逃げだすのを、我慢しよう。そうすれば、その3秒で幸せは、あなたに手錠をかけ、もう逃げられないようにする。して、・・・くれるだろう。3秒間だけ、待とう。そして、3秒は30秒へ。30秒は、30分へ。30分は、3時間へ。3時間は、3年へ。しあわせになっている人々を見てみよう。その人達は、みごと、自分の幸せから、逃げ遅れた人びとだ。靴のひもを、結び直したり、時計を見たり、ぐずぐずしていて、捕まったのだ。だから、覚悟しよう。もう、逃げない・・・・・・。逃げ遅れるように、足を捻挫しておこう。カバンの中に20キロの重しを、入れておこう。だいじょうぶ。捕まろう。つかまって、ろう屋に入れられよう。ろう屋には、毎日高給料理の差し入れがくる。きっと。小さいころ、遊んだけいどろ。どろぼうチームになった時、にげ足だけは早かった。誰も見つけにきてくれない中庭の、植木にかくれて、たいくつするだけだ。よし、もう逃げない。             あみは、クリスチャンだった。毎日、祈る。

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