第14話子供
保護された子供は瞳孔があいていて、まばたきもしなかった。いってんを見つめていて、目のなかの視線はまったく動かなかった・・・。感情失調だろうと須藤は言っている。じかんがたてば、もどる場合ももどらない場合もあるとか。からだじゅうに ぴんであけられたような穴があいている・・・・・痛々しく出血する穴のなかには なんどもなんども、おなじカ所をつきさされた傷もある。なおっている傷も無数にある。治りかけの傷も・・・・・。 子供はお家に帰りたい・・・と、言っている。お家に帰ればまた、きずがふえるのに・・・。女の子を、会社の敷地内で保護した須藤は、見てみぬふりできなかった・・・。こちらのほうが、ショックでかける言葉もない。8才の女の子だった。おんなの子の服はよごれていた・・・・・。じぶんでも気づいているらしく、とても気にしている。得によごれたカ所を手でおさえている・・・・・。買い出しに行ってくると、須藤はおんなの子にひつような物を買いに、デパートへ一目散に車で、出ていった・・・・・・。
アンナはここの医務係で、33である。やさしい雰囲気で、やさしさでひとをくるむのは、得意だ。男性からも、評判だ。そのアンナを、あゆかと名のる女の子は、拒否していた。まったく話さない。目も合わせてくれない。これなら、須藤とのほうが、まだ気を許していた。虐待したのは、母親だろうか・・・アンナは考えた。いずれにしろ、ここは一応大きな医務室で、宿泊用のベットもあるが、児童虐待保護施設ではない。したがって、身元が分かるまで、2、3日、保護するのがせいいっぱいだ。
須藤の車の音がする・・・。アンナは、須藤が買ってきた品々をみて、空いた口がふさがらなかった。きがえの洋服、今夜の食品、お菓子、ぬいぐるみ、ゲーム・・・・・。 『なにが好きか分からなかったから・・・』自信なさそうに照れ笑いするコイツをみて、アンナはおもった。コイツは、この子を一生育てる気だ、ここで。間違いない。 2、3日の保護なのに・・・・と、アンナはおもった。しかしそれにしても、お父さんにもなったことがないコイツが、ひっしに女の子を守ろうとしている。その一生懸命ぶりに、アンナは心の底から、微笑みがわいてきて止まらなかった。新しい服にきがえて、お菓子を食べると、おんなのこは、ほんのちょっぴり、安心し遠くをみている。ここはうちの会社のビルの最上階に近いから、見張らしはすばらしくいい。この男とおんなの子の、ほほえましい時間を邪魔したくないので、アンナは友達とのコンパに、はやばやと帰った。 アンナが、ここにいて女の子の面倒をみるんだ、須藤はてっきり勝手にそうかんがえていた・・・・・。虐待されたおんなの子をおいて、自分は早々、コンパか・・・・・。こんどは、須藤のあいた口がふさがらなかった。こんなうら若い女性と、この色男を、ふたりきりにして帰るなんて・・・・・。あいつらしい。そういう奴だ、あいつは昔から。須藤は知らなかった。アンナより自分のほうに女の子はなついていると。 おんなの子といろんな話をしたが、傷のことにはいっさい触れなかった。家族のことも聞かなかった。好きなキャラクターや、好きな遊びや、好きな授業。好きなどうぶつに、好きなテレビ番組。好きな本、好きな運動競技。そして、好きな芸能人の話にさしかかった時、ビルの玄関用の、応答無線のチャイムが鳴った。こんな時間に・・・・・?午後9時である・・・・。無線に出る・・・・・。 『あゆかの母親です、警察のほうからこちらに保護してもらっていると伺いまして・・・・・・』 警察に、とどけたのか、!須藤はショックだった・・・・・もう母親がむかえにきたとは・・・・まだ、いっしょにしようと思っていたゲームもある。ご飯も自分で作ろうとやる気まんまんでいたのに・・・・・。母親に、このおんなの子を返したくない・・・・・。・・・・・・だがどーがんばっても、よい言い訳が思いつかなかった・・・・・・・。いい訳?ここで、おんなの子を母親に返さなかったら、それはすなわち誘拐になる。 『お母さん、来たって・・・・』 おんなの子の反応をみてみる。 さして動揺も恐怖の色も みてとれない うれしいような、せつないようなきもちで須藤はふたたび 無線にでた 『ここは、9回の医務室でして、いま解じょうしますから、玄関を入られてすぐあるエレベーターで、こちらにこられますか』 医務室のばしょをひと通りせつめいしおえたところで須藤はおんなの子の異変にきづいた・・・・・・失禁している・・・・・。瞳孔はあの時とおなじ、あいている。須藤はおんなの子の手をにぎると、荷物をかきあつめて、エレベーターへむかった そう 母親が乗ってくるエレベーターとは逆側の。 なにをしているのか須藤にはもう、分からなかった。ただ道はこちらだ、といわんばかりにじぶんの足はむかっている。けして、たちどまらない おなじく おんなの子もまた、なにが起きてるのか分からなかった。女の子のあたまのなかはきょうふでいっぱいだった。須藤への、ではない、そう・・・・・母親への・・・・・。
地下の車に乗りこむと、おんなの子をすわらせ、アクセルを全開にハンドルをいっぱいに、きり発進した・・・・・。
高速に乗り、軌道にのると、須藤はアンナに電話した・・・・・。怒りでいっぱいだった。自分に相談もなく、勝手に警察に電話し、そして今頃ともだちと、一杯やっている・・・。 『はい、何?調子はどう?』 そう電話ごしに上機嫌で出られて、こんどは須藤がたじろいだ・・・・。調子はどうって、絶好調だよ。高速はすいているし、おんなの子は、誘拐したよ。これで明日は刑務所行きだ、とでも、言うとこだろうか。 『なんで、警察に電話したんだ?そりゃ、分かるけど、ひと言も言わなかったし、警察に連れていったら親元へすぐ返されるから、だから、いったん保護しようって、言ったんじゃないか!』 『え? なんのこと 警察には言ってないわよ、わたしは』 須藤は、思考回路が停止し、まっしろになった。『あ、そうなの・・・・・あぁ、勘違いか・・・・。まぁ、いいや。じゃまた、あとで』 いまは事情を説明する気はなかった。 助手席のおんなの子を、いまはじめて大丈夫か見る。おんなの子は、じぶんがしてしまった尿が、くるまのシートにつかないようにスカートをたくして、きにしている 今気にしているのは、そんなことではないよ、須藤は笑いそうになった・・・。タオルをひいといてあげればよかった。そうしたら、気にしないで安心したろうに。 あとのことは、きょうの須藤のあたまではかんがえれそうにない・・・・。ただ、・・・今分かっているのは、おんなの子が無事だと言うことと おんなの子が、とてもいい子だと いうことだけだ。それだけで、須藤はいい気がした。なるべく遠くに行こうと、高速に乗ったので、高速をおり、近くのラブホテルに須藤は入った。思考は回らなかった。とにかく、ここなら人目につかず、安心だ。 須藤は、ゆっくりぐっすり、寝入った。会議の夢をなんどか見た・・・・・。このマニュアルじゃ、問題が出たから、代わりのもっと、正確な行動マニュアルがいるんだよ・・・・課長の声がする・・・・・・・・・でもみきちゃんがわたしのをほしいっていったから、あげたの ・・・・・おんなの子の、こえがする。 ハッとして、すどうは、めをさました・・・ おんなの子は・・・・・おんなの子は・・・・・・ 部屋にいない・・・・。トイレルームへ、かけよる。トイレと逆がわのバスルームから、シャワーや水道のおとがする・・・。 『あゆかちゃん、お風呂はいってるの? 『うん、泡が・・・・・すごくきれいないろになるから・・・・・・泡が』 思わぬ楽しそうなこえが聞こえてくる。ほっとして、ベットにもどった須藤は、疲れていたのかまた、寝入っていた。
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