第6話出会い

女の子はここから100㎞以上離れたもっとずっとずっと小さな街に生まれた。女の子が生まれたのはある村だった。小さい頃は村の誰もが可愛がってくれたが、父親と仲違いをしてからは、悪口ばかり行き渡っている。その村から少しいくと小さな街があった。街はとても封鎖的な街だった。まるでやはり、封鎖的な女の子の家庭とよく似ていた。ここから出たかった。ずっとずっと・・・ずっと。  この街には何もなかった。自分の居場所と呼べる居場所は、どこにも。駅のホームにも公園のベンチにも、小さなデパートのベンチにも、そして家の中にも。自分のなまえが書いてある、すわってよい席はなかった。無論、職場にはもっとなかった。真夜中に苦しくなり、家を飛び出して、自分の名前を呼んでくれる、自分を待っていてくれる、自分の席をさがしに、目的地なく、とにかくここから逃げたことは何回もある。発狂寸前に。探しまわって、出るこたえは、いつも同じ、どこにもなかった。 

 吸う空気が、なかった。時間が、なかった。そのうち、見ようとするものも、なくなりそうだった。そのうち、探す所が、なくなっていった。そんな女の子の夢はここから、出ることだった。遠くの街に行くことだった。人は本能で知っているのかもしれない。自分の運命がどの街においてあるのか。女の子にとっての運命の街は、女の子にとっての刑務所であった街から、100㎞離れたとこにあった。まるで、受刑者のように号令に従って生きてきた。号令が早く消えるのを待っていたら、よるになり、たえきれそうにない寂しさにつつまれた。たえて、夜があけると次の日には同じ号令が、待っていた。笑顔は脱出できそうにないというあきらめと、同時に消えていった。             凍える村から待っていた。ここから、ずっとずっとずっと、とおくにいるはずの、自分をかばう人。呼べば、すぐにでも現れそうだった。手をのばせば、すぐにでも、その先に触れそうだった ・・・・のに、触れられることはなかった。               この刑務所の中から、1度だけ、100㎞先の街に、女の子は電話をしている。電話に出たのは、陸の外の運命の彼だ・・・・。女の子は、イライラしている。いつものことだ。ゾンビみたいに襲ってくる得たいの知れないおばさんの相手を朝からしているのだから。運命の相手とも知らずに、イライラしながら、電話に出る。女の子はのちに、このゾンビに囲まれた職場を去り、100㎞離れたその男の派遣会社へゆくことになる。       『ほとんど、お仕事に入っていないですから、登録を抹消しても、いいですか。週に1度も、入っていないから。』        『いいえ、これから入るつもりです。』 『ただ、派遣法上、この状態であるとよろしくないんです。』             『だから、これから、入るって・・・』  そんなやりとりが、あった。今は休憩時間である。また、帰ればゾンビが今か今かと待っている。                 『週に2回の人は、OKにして、週に1回の人はだめって。そんなの全部、派遣法でごまかしてよ。』              『ごまかせないんです。それが・・・』  自分がいらいら、しているのが、わかった。そして、そのいらいらを、この相手に ぶつけているのが、わかった。なのに、この目の前の相手は 自分に対していっこうに いらいらしない。そればかりか、楽しんでいるようにさえ見える。自分が文句を言うのを。あみは、何をいっても、やさしく返してくる相手に、かなわないな、と、自分の手から、爪をひっこめる。自分より、ずっとずっと、大きい。                 『うん、分かった。また登録しなおすし、たくさん、入ります。』            















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