第3話迷路

その隣の陸地で、男はあみのことを、ずっと見ていた。おとこはおとこなりに、あみを愛していた。どこまでが、憑依のせいだと言われるのかは分からないが。男には、やはり消せない彼女への気持ちがあった。巨大迷路は果てしなく続いているように見える。この巨大迷路から彼女ひとりで脱出することなどできるのだろうか。無理だろう。男は思った。男には、ひとなみ優れた身体能力も、ほかに特別な能力もなにもなかった。ただ、唯一あるというならば、一応仕事では管理職をしていたし、判断力ならあるつもりだ。     入るべきでは、ない。男はそう思った。その出口のない迷路には、なんと、入り口があった。男のいる陸と迷路のある陸を、つなぐ橋を渡ったそばに。まるでねずみ取りの、入り口だ。はいるべきではない。もし自分も同じように迷子になったら?自分も同じように助けを呼ぶのか。おそらく同じように、迷子になるだろう。目に見えている。      男には、分かっていた。彼女が自分を愛していることが。会社で自分が近づくと、きまずそうに逃げる。それなのに、男には分かっていた。自分を愛していると。目を見れば分かる。彼女は、何も言わないが、ずば抜けてその目から、なにか訴えるようなところがある。無論、勘違いする男は多いだろうが、男には、確信が、あった・・・。        入るべきでは、ない。彼女が出るのを、待つべきだ。透明になっている一部分の壁から、なんども、なんども、同じところを、繰り返し往復する、彼女のすがたが、見える・・。時おり、止まってはがく然とした後ろ姿が見える。入るべきではない・・・。そう考えている男はもう、橋の真ん中あたりまで きている。入るべきではない、男はくり返し頭のなかで思いながら、そのドアのノブに、手をかけた・・・。             彼女の唯一の希望であった、透明なかべから見える男の姿は、もう、向こうの陸からは消えていた。

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