第4話
訓練所の中にある講堂で、今回の訓練で行う内容や今後についての話が始まった。説明をするのは前回に引き続き、研究者である加納良子だ。
「まず集まっていただいた皆さんには、これから一緒に活動するパートナーを決めて頂きます。元々霊に関するお仕事従事していた方はご存知だと思いますが、もしも危険な霊と対峙することになった際に、被害を最小限に抑えるようにするための処置です」
一緒に話を聞いていた木下と深見。ふと木下はどんな風にパートナーが決まるのか疑問に思った。するとその疑問に、続けて説明をしていた加納良子がすぐに答えた。
「パートナーはまずこの場に知り合いがいる方は、知り合いの方や組みたい方と組んでもらって構いません。信頼できる方がいるのならその方が良いですし、特に知り合いや組みたい方がいない方はこちらで考えさせて頂きます。それでは今からパートナーを決めて頂きますので、少し時間を設けます。パートナーのあてがない方はこちらまでいらしてください」
なるほどそういう風に決めるのかと木下は納得し、深見に声をかけた。
「ハルちゃん! 僕と付き合ってください!」
「ねぇ。まずハルちゃんて言い方やめてって言ってるのに……あと何で告白みたいになってるの? やめてよ周りから誤解されるじゃない」
木下の妙な言い回しに呆れながら答える深見。最後の方は若干照れくさそうにしているように見えたが。
「ごめんごめん。でも嫌かな? 僕と組むの」
「それ自体は嫌じゃないよ。そっちの返事はOK。ただもしかしてコレからずっとジハルちゃんて呼ぶつもり?」
「やった一緒に組めるんだ! 呼び方は……何かしっくり来ちゃって」
「分かったもういい。呼び方は諦めるから今後ともよろしく」
「うんよろしく!」
笑顔で答える幹鷹に顔を背ける深見。
「女の子扱いされることなんてあんまり無かったから、そんな風に言われると恥ずかしいんだよ……」
そう小声で呟いた。
パートナーを決める時間が終わり、説明が再開する。
「この訓練では主に、丁種に対抗するために開発された新しい機器を取り扱うために、実際に機器を触ってもらい使い方を覚えてもらいます。さらに丁種に関する現時点で判っていることも座学の時間を設け伝えさせて頂きます。今日は訓練する準備を整えて頂き、明日から始めますので、よろしくお願いします」
その後簡単な宿泊する部屋割りについて等の話をし、説明が終わった。
部屋に向かう途中、木下は深見と話をする。
「そいえばハルちゃんて歳いくつなの? 僕と同い年くらいに見えるけど」
「私は22歳だよ? 専門学校でてすぐに就職したから一年半くらいは普通に市役所職員として働いて、不可視物管理課には半年とちょっと前に配属されてた。幹鷹はいくつなの?」
「僕は23歳! 大卒で働いたのは不可視物管理課が初めて」
「そっか年上だったんだ? 口調なおした方が良い?」
「んーんそのままの方が良い。年上って言っても一個しか変わらないんだし、敬語になられたら逆にやり難いしさ。それに社会人としてはハルちゃんの方が先輩じゃん」
「ふふっ。幹鷹って変なところで真面目だね。でもタメ口でいいなら私もその方がやり易いからいいや」
少し打ち解けてきた二人は、それぞれの部屋に向かうためそこで別れた。
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割り振られた部屋で自分の荷物の整理を終えた木下は、施設の中を把握しようと一人で歩きまわっていた。
すると人気のない通路の一角で一人の女性と出くわした。
「アレ? こんな所に人が来るなんて珍しい。研究者区画ですよココ。立ち入り禁止ではないですが」
出くわした相手は加納良子。研究者だった。
「あっスミマセン。ちょっと施設の探検をしていたらこんな所まで来ちゃって」
その返答を聞き加納は微笑んだ。
「ふふっ探検だなんて可愛い事言うんですね。ん? でもあなた何処かで見た覚えが……」
おそらく過去に梶原と一緒にいたのを見ていたんだろうと思い出した木下。
「あっ僕梶原さんの後輩で、新機能説明会の時に一緒に出席していたので……」
すると加納は思い出し、目を輝かせた。
「あぁ梶原さんの! あの人は元気ですか? 私あの人にすっごく興味あるんですよ!」
梶原の何について興味があるのかは木下はすぐに思い至った。当人達が話しているのを実際に聞いていたからだ。
「元気ですよ? 確か梶原さんの霊の声が聞こえる体質を調べたいって言ってましたよね」
「そうなんです! もうあの人の体質を調べたくて知りたくて食事とかも誘ったりしてて!」
「そ、そうなんですね。はは……」
加納のテンションの高さに着いていけず気圧されたように後ずさる。
「最後にお会いした時にちょっと私生活まで気になっちゃったんですよ。えっとあなたのお名前は何でしたっけ?」
「木下幹鷹です。お姉さんは加納良子さんでしたよね?」
「あら? お姉さんなんて嬉しい。そんな歳ではないんですどね」
木下からすると十分お姉さんと言っていい歳に見え、一体いくつなのだろうかと思った木下だったが、女性に年齢を聞くのは不味いだろうと踏みとどまった。
「それで幹鷹ちゃんは梶原さんの私生活何か知らない?」
「幹鷹ちゃん!? え、えっと最近同じ職場の女の先輩と付き合ってるとか……」
急な呼び方の変更と距離の縮め方に戸惑いながらも、自分の持っている情報を話す木下。
「えー梶原さん新しい彼女出来ちゃったのかぁ。ちょっと残念」
少しテンションが下がった加納を見て、あまり言わない方が良かったかと後悔する木下。加納が思っていたキャラと違い少し戸惑う。
「まぁいっか! それで幹鷹ちゃんはこれからどうするの? 探検続けるの?」
完全に子ども扱いされ始めた木下だったが、実は加納に会った時から考えていたことがあり、それを聞いて見ることにした。
「加納さんは僕達が使っている業務用端末の機能について詳しいですよね?」
「うん詳しいよ? システムをいじれるくらいには」
その言葉を聞いて木下の目つきが変わった。
「それなら相談が……」
そうしてしばらく二人以外に聞く人がいない会話は続き、その日の夜施設内に警報が鳴り響いた。
霊は重度で害を及ぼす 猫被 犬 @kaburi-cat
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