第4話 姉の裏切り

幸せを奪うJOKER4(真)


私は本当に最悪な人間で、最低な姉だ。

直美は和の持っている数字のカードと別のを渡すと言ったにも関わらず、和を死に追いやるために、あえて同じカードを渡した。

罪悪感のせいか、直美は目から流れる悪魔の血を含む涙を流した。

それが、下に零れる度に、直美の心は洗浄されていく。

訪れる最大の後悔。

直美を悪魔にしたのは、すべて、あの父のメッセージだった。

「和を殺せ、そうすれば、直美だけは助けてやる」

父の力のこもった黒い字で、それは書かれていた。

直美は、これを目にした時、ただこう思った。

私だけは助かる...

そんな、欲望に塗れた感情を、直美は投げ出すことができなかった。

やがてそれは、弟を殺す計画までも思いつかせてしまう。

直美は知っていた。和が直美と違って本当に優しい人間だということを。そこをつけこんだのだ。

メッセージと共に受け取ったハートの5と、手札にあるスペードの5をペアにして机に捨てると、すぐに直美は作戦を練り始めた。

今思えば、この時、自分が助かる道ではなく、自分と和が助かる道を選べば絶対によかったのに。

しかし、この時直美の心は汚染されていて、そんなことを考えるこもできなかった。

和が直美の手札からダイヤのJを抜き取ると、ふぅ〜と大きく息をこぼしているのが見えた。

それを、ただ目で映していると、今度はその目を父さんの3枚並ぶ手札に移す。

もしかしたら、またさっきみたいなメッセージが来るのでないかと、不安感を抑えつつ、恐る恐る真ん中のカードを抜き取る。

表から裏に変えると、ハートの3と書かれた数字が目に入ってくる。

その刹那、それがきっかけは分からないが、和をあの世へ送る最低最悪な方法を思いついてしまった。

この方法なら和を殺せる...

まず、和に直美を完全に優しくて信頼できる姉と信じ込ませなければならなかったを

そのため、直美は和にこの心を悟られないよう、必死にその姉を演じた。案の定、本当に優しい弟の和は私を信じてくれた。

初めに、和が持っていたダイヤJとは違うハートのQをわざと渡すことによって、より和を信じ込ませる。次に直美は、運良く父さんからクローバーのQを抜き取って、和を殺す条件が揃ってしまう。

和は微塵も疑う心を出さずに、直美の言うがままのカードを受け取って、終わってしまう。

既に直美は腐りかかっていた心が完全にカビだらけだった。

「嘘だろ...」

和の口から零れた発言は、直美の心をナイフのように刺した。それと同時に唐突に流れ始める涙。

やっと今気づいたのだ。自分が間違っていたことに。しかし、遅すぎた。

直美の口からは、無責任の謝罪の言葉しか繰り返し唱えれなかった。

和は力が抜けたように、手から2枚のカードを落とした。何故だか、そのカードが机に落ちるまでの時間は長く感じた。

「終わったな」

しばらく口を閉じていた父さんが、疲れたように吐き出した。

「本当に哀れだよ、お前ら」

父さんが悲しそうな顔でそういった。

なにがしたいんだ、この父親は。

今更ながら、父さんのババ抜きの動機が疑問になった。

「和、覚悟はできてるな?」

父さんがポッケから黒い拳銃を取り出して、銃口を和に向ける。

「...」

和は返事をせず、ただ、 黙ったまま下を俯いていた。

そして、次に和が放った言葉はさらに直美を絶望へと追いやられる。

「まあ、でもこれで姉ちゃんにも恩を返せたのかな」

和はニコッと直美に笑顔を見せた。

な、なんでよ...なんでそんなに優しいの?私はあなたを騙したのよ?なのに、なんでそんな顔でいられるのよ...

「じゃあな、また会おう」

「ダメっ!」

最後の直美の言葉は、銃声によってかき消された。何がダメよ...馬鹿じゃないの私...私がしたことなのに...

閉じきった瞼をゆっくりと開けて、再び絶望を覚えた。

コタツに寝そべる顔面血だらけの和。

直美は泣くことしかできなかった。

「なんで泣いてんだよ、直美がしたことだろ?」

「うるさい!」

直美は泣き崩れながら、力のこもった声でいった。

「でも父さんは、お前をそんな風に育てた覚えはないよ」

何も言い返すことはできなかった。それは直美の中で自分がこんな最低な人間だったと、ついさっき分かったからだ。

でも、これで何もかも終わり。

「じゃあ、終わったんだから話してよ、なんでこんなことしたの?」

まだ、鼻水と涙が止まらないが、どうにかして堪えながら聞いた。

「何言ってんだよ、ババ抜きが面白くなるのはこれからだろ?」

「...は?」

「お前だけは助けてやるとは言ったが、あれは嘘だ」

嘘...?しばらく口が動かなかった。頭もろくに働かない。ただ、分かったことは直美が騙されたこと。停止していた思考もやがて、怒りに変わっていく。

「ふ、ふざけないで!なら和の死はなんだったのよ!」

「お前が殺したんだろ、それに直美だって人のことは言えないはずだ、和を騙して殺したのは誰だ?」

正論を言われ、なにも言い返せなくなる直美。悔しくて悔しくて、止みかけてた涙も、今度は別の意味がこもった涙を流す。

「なら、ババ抜き始めるぞ、構えろ」

私は腕で涙を拭いた。ついでに色々吹っ切れた。直美は誓った。この男を殺すと。ババ抜きに勝って全てを聞いたら殺してやる。そうすれば、天国にいる和は許してくれるだろうか、いや、そんなわけないか。

和、ごめんね、最悪なお姉ちゃんで...でもせめて、この男だけは殺して終わりにするから...

ついに始まった、ババ抜きの終盤戦。しかし、悪夢はこれで終わりではなかった。





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