第2話
死は落下だった。
死とはどういうものかと聞かれたら私はこう答える。
これは死んだからわかった事だが、私は今何も見えない闇の中を上も下もわからず落ち続けている。
生前、死んだら空に飛んでいくようなイメージを勝手に持っていたが現実はどうやら違うようだ。
落下。
墜下。
墜落。
転落。
どういう落ち方か説明は難しいけど、私が生の世界から蹴落とされたのは間違いなかった。
私は携帯電話を片手に落下している。
この落下が終わる時、私は死の国とやらに行くのだろうか?
死んだ人間は夢をみるのか?
私は夢をみる。
死んでいるというのに夢をみるのだ。
定規で引いた線のようにまっすぐに落ちる最中……夢を見た。
鍵の夢を。
鍵を渡される夢を。
それは生きている時に経験したことがない事を夢としてみていた。
突拍子も無い正に夢らしいと言ってしまえばカワイイものだが、だけど今の私にはそれは……つらすぎる。
希望を夢という形で与えられたのだから。
希望は見えるからつらいのだ。
希望が見えると願ってしまう。
決して叶わないとわかっていても……願ってしまう。
叶わないことを願うという事は泣き出してしまいそうに悲しい事。
ビデオデッキはテープの中のデータを読み込むだけしか出来ない。ビデオデッキは テープを選ぶことが出来ないように、人も夢を選ぶことが出来ない。ただ受動的に脳内から無作為に選ばれた映像をみるだけ。
その流されるだけの無機質な映像を私はただなんの感情もなく、眺め続ける。
だけど、どのような内容であっても私には関係が無い。
私が泣こうが悲しもうが何も関係がないのだ。
なぜなら私は死んだのだから、現世に干渉することは出来ない。
いわば、第三者。
いわば、観察者。
いわば、観測者。
その夢で行われていることを叶えようにもどうしようもない。
死んだらどうなるのだろう、ということを生前はよく考えたが、今死んでみて初めてわかった。
どうなる――の答えは、どうにもならない、だ。
何しろ何も出来ないのだ。
何も出来ない。
一度でいいから孝一君と一緒に学校へ行きたかった。
触れることが出来ない。
私の夢であった孝一くんと一緒に御飯を食べて『はい、あーん』とかも、もちろん出来ない。
言葉をかけても返ってこない。
これじゃあ、しりとりすらも出来ない。別段そこまでやりたくはないけど……。
気づいてもらえない。
そういえば、お母さんやお父さんを悲しませちゃったかな。
孝一君も困ってるんじゃないかな。
お父さんもお母さんもいないし、ご飯とかちゃんと食べられてるのかな。私がお弁当を届けないと死んじゃったりして。
自分の好きだった人が困っていても、助けることが出来ないのがつらい。
ああ、生きてるうちにもっと積極的に何でもやっておけばよかった。
――私は静かに夢に落ちる。
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