第三話 月下の魔道 ①
月の国の都は騒然としていた。猛き武人であり、この防衛戦の要と考えられていた
数多の識者たちが卓につき、紙面に筆を走らせ議論する。彼らはこの絶望的な状況を悲観する暇もなく、月の国を生かす
今や国土の東半分は、その実効支配権を
支配を失った地があるということは、単に陣地を取られたということを意味するだけには留まらない。東部には
「しかしながら……敵軍の侵攻には合理性がない。戦闘行動自体に発揮される
各人の報告が一巡した後、国の基盤工事計画の一部を担う建設大臣は、細眼鏡の位置をしきりに直しながら呟いた。
「どういうことだ」
「敵は兵力の温存をまったく度外視している、と言わざるを得ない。それも、何の意味もなく。たとえばここ。
彼は地図の一点を指差して言う。
「待ち伏せや
「数日前にその先の
面々は顔を見合わせる。不気味な程に
細眼鏡の大臣はそれきり黙り込み、誰とも目を合わせず眼鏡を
沈黙が場を支配し始めたのを見計らい、この場にいない大宰相の、その代理の者が口を開いた。
「
「月下の……魔道?」
「それは何かは知らぬが、何故関係があると断言できるのだ?」
占い師の意味深な発言に、各所で疑問の声が上がる。
(うふふ、みんな気になってますね。まさにこういう反応を期待してましたわ!)
聞きなれぬ言葉に
「忌まわしき
戦場の報は当然ながら君主の耳にも入っている。日に日に悪化する状況に優れぬ体調も相まって、場の空気は鉄よりも重い。
「このままでは、講和の場を持つことも……考えなければなりません」
大宰相の表情もやはり、沈痛なものだった。
「その提案は敵にとって利がない。このまま押せば殺せる相手と、今更何を話そうと言うのだ」
「かつて彼が我が国に要求したことを知っているか?」
「主に三つ。領地の
君主の問いに、大宰相は即座に返答した。しかし、その声は次第に小さくなる。話している途中で会話の雲行きの怪しさを感じとったが、しかしそれに気づくのはあまりにも遅かった。
「……そう言えば、お前は我が
対照的に、君主の表情に変化はない。大宰相はその
「いったい、何をお考えですか?」
「我が国に王子は一人ではない。
紡ぎ出される言葉は重々しい。大宰相は出来ればその続きを聞きたくはなかった。彼女に身寄りは無く、それ故に親子の情というものを何にも代えがたきものと捉えている。それが
「まだ結論を出すには早すぎます。今しばらくお待ちください。すぐに何か策を――」
「よいか……必ず探し出すのだ。忌まわしき末子を。一刻も早く。この国がため、頼んだぞ……」
絞り出されるような
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