第二話 不可視の翼 ⑧
「
ふてぶてしい
「どうぞ」
「うむ、よし……おっと」
羽騎士の
「商人の娘なんて話、
それを見た部下たちは感心したような声を出す。
「おそれいった。あの娘っこ、もうお頭に気に入られてやがる」
「残念なことだ、なかなかの
この荒くれ達にとっては、これも微笑ましい光景と映る。談笑する隊員に、羽騎士は斧を投げやる。それは味方の兜を
「聞こえてんだよ
「へい!」
隊長の号令によって和やかさは一瞬にして消え去り、雰囲気は本来あるべき戦場のそれへと
少女を自らの馬に乗せ、頭領の女は
「しかし、防衛に回されるやつらは無能揃いだな。強いやつは前線にしかいねえのか?」
馬を駆けながら、
一行は
「何て臭いなの……」
「お頭、その子怯えてやすぜ」
部下の一人が気づかわしげな視線を送る。
「てめえら、ガキに優しいのは結構だがよ、まさか俺のすることに口を出そうってんじゃあねえだろうな」
羽騎士は振り返りもせず言い返す。月軍の基地まで行って褒賞を受け取るという、当初の目的は果たせそうにはないが、そんなことなど関係ないといった風情である。しかしその足取りを不安に思うのは、仲間ばかりではなかった。
「お前たち……ここから早く立ち去るんだ……」
道端の死体が喋る。正確には死にかけの兵士であるが、
少女は迷っていた。やはり、この光景には既視感がある。この先に進めば、起こることには見当がついていた。だが、それを伝えるべきかどうか。この様子だと聞いてもらえるとは到底思えない。
(どうせ、私の言葉なんて……)
少女を縛る思考が、沈黙を強要する。
あと五歩、四歩歩けば――三歩歩けば彼らは、二、一。
突風が吹き荒れた。と、気づくまでに、羽騎士は数え切れないほど地面に叩きつけられた。視界が滅茶苦茶に暴れる。馬の悲鳴が重なり合う。誰のとも知らぬ腕が飛ぶ。鈍い音が何度も身体に響く。赤い池に赤い雨が降る。壁に打ち付けられる。敵の姿が見える。腕が濡れる。耳元で叫び声が上がる。立ち上がる。同じく倒れた仲間を見やる。命令する。
「立て! 殺す!」
知らないうちに
「敵は魔法兵、風の
「おう!」
簡潔な指令を受け、部隊に血が巡る。反攻の開始である。
飛ぶように移動を開始する
(私が勇気を出していれば、こんなことには……)
そこに丁度二人の男女が通りがかった。刃を持つ男と琴を持つ女。目の前に広がる惨状に、しばし言葉を発することが出来ずにいた。
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