第二話 不可視の翼 ⑦
「隣街もついに、戦に負けて
「ああ、知らねえ言葉を話す奴らが、そこいら中を我が物顔で歩いてやがる。軍は何をやってるんだ」
「知らないのか、この国で一番強い将軍さまってのが死んじまったらしい。首が
「莫迦言うんじゃねえよ、月の国ももう終わりだって時に、暢気に物見なんかしてられるかい」
刃を持つ男、琴を持つ女。東に流れるように移動し、一月の半分が経った頃。
二人は、出会う人々の話題が次第に暗いものになっていることを感じていた。拾い聞いたところによれば、
「彼は優れた武将だった。俄には信じがたい」
男は首を振った。
「その強さを直で見たことがおありなのですか?」
「ああ。俺とは
琴弾きの問いに、男は遠くを見ながら答える。
十年以上も前のことであるが、刃の男は一度月の国の
父である
そしてその動静を見破ったかのように、
大きな反乱を父が鎮圧した後、少年はついに正式に帝位を返上した。そして翌日に消息を絶った。これが王宮における男の全てである。
「かけなきを、のみ見るものか、我が瞳」
琴弾きは詩を詠み、続けて言う。
「この世には、避けられぬ悲劇がついて回るものです」
悲劇、とは何を指しているのだろうか。心を覗かれたような気分になり、男はたまらず女から目を逸らした。
「そうは言っても、失うにはあまりにも惜しい
「噂話とは得てして
琴弾きはこの状況にあっても、冷静さを崩すことはなかった。
その後も群衆の暗い話題を聞きながら、日に日に高くなる食糧を買い足し、汗して
この間 にも何人も死んでいるのだろう。繰り返しの毎日の中で、男には次第に
その思いが強くなったとき、昔の記憶が呼び覚まされた。それは子供ながらに君主の責を果たそうとし、しかし誰からも必要とされなかった悲しき日の思い出。
(この俺は、これでも国に何かをしようと考えていたのだな……)
ふと考えたことだったが、男には驚くほど合点がいった。気が付いたのだ。琴弾きと出会って考え方が変わったと思っていたが、実ははじめからずっと、この国の役に立ちたかったのだということに。
そして、その記憶にはまだ続きがあった。当時唯一味方をしてくれた、
「あの者、今は何をしているか。生きているだろうか」
生きていてくれ、と、彼は友の身を案じた。それと同時に、死んでなるものかと、破滅的な思考に偏りがちな自身の心に
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます