第二話 不可視の翼 ⑤
「てめえの話は長ったらしくていけねえ」
長斧が兵士の頭を
「
盗賊の
「もうこれ以上何も無い! これを見ろ!」
男は震える声で、盗賊たちに蔵の中を開けて見せた。中には
「なんだ、あいつは? ……ん?」
部下の一人が頭に耳打ちする。それを聞いた直後、頭領の顔は
「やっぱりな、あるじゃあねえか、金の種。なあ、
「生死を問わず、という指名手配のとき、お前はわざわざ殺すよな」
「ああ、勿体ないからな」
頭領は
一団は
牛角の兜を被り、豹柄の
「ここから一番近い
「へえ。おそらく
部下の一人が地図上の都市を指で示す。それを見ながら、頭領は別の部下に出発の身支度を手伝わせていた。元より派手な兵装に更に羽の首巻きを巻かせるのが、歴代の頭領の伝統である。
「ううむ……ここからだと、どっちだ? ……上?」
(上って……)
気まずい沈黙が流れる。部下一同、揃いも揃って誰も指摘はしなかった。命が惜しいからである。
「上じゃなくて北! それから、教えて貰ったらまずお礼でしょ!」
その静寂を破ったのは、数十分前まで蔵に捕らえられていた少女だった。長らく檻の中にいたはずだが、
「口の利き方がなってねえな、殺すぞ」
「殺すなら殺せば? でも折角の
少女は
聞けば少女は月の国でも有数の大商人の娘だという。生きて家に返せば、それこそ小さな都市を襲う以上の
彼ら“
「ただし、」と付け加えて少女は言った。「私に指一本でも触れてごらんなさい、報酬どころか処刑が待ってるんだから!」
少女の視線の先には頭領の姿がある。自身の身を庇うように抱きしめ、最大限に警戒するような姿勢を取る。
「……おい、もしかしててめえ、俺が男だと思ってるのか?」
「……え?」
「俺は女だぞ? てめえみたいな不細工、いくら
死にたがりの狂人ども。その中で最も影響力を持つ頭領。その荒々しい態度からは思いも寄らぬことだが、性は女である。身に着ける羽首巻から羽騎士と呼ばれ、敵からは格別の恐れを以て語られる存在であった。
「そしてもう一つ教えてやる」
首筋の冷えるような声でそう言った後、頭領は少女の右手の指を握りつぶした。
「あっ……ひいぃっ……」
「てめえは俺たちが助ける前から、少なくとも右手はこうだった。意味は分かるな」
少女は先ほどまでの威勢を失い、涙を目に溜め何度も首を縦に振るのみとなった。
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