第二話 不可視の翼 ③
日が地平線の向こうへ消えかかる頃、ようやく少し大きな街が見えてきた。門からさほど遠くないところで市場が開かれており、数々の露店が
しばらく歩いていくと、
「お前は、俺に似ているな」
壮健なる商品たちの
「金がなければどっかへ行きな。そんなものでも商品には変わりねえ」
店主は彼の身なりから、冷やかしに違いないと決めてかかっているようだった。寄られては他の客が来なくなり迷惑と、あからさまに不快そうな声を出していた。
「なら、いくらだと言うのだ」
口をついて出た言葉だった。まるで自身を守ろうとするかのように、彼はほんのわずか身体を
「本気で買おうってのか? その役立たずを。……おもしろい、十一だ」
店主が提示した額は金貨十一枚。この馬の
もう一度馬を見やる。馬は立てずに、
「その馬にお決めになったのですか」
沈黙を破って琴弾きが尋ねる。
「
彼は馬を見つめたまま問い返す。手には懐から出したなけなしの全財産。これを袋ごと渡せば、買うことは出来てしまう。だが食糧は買えず、宿にも入れず、馬が一頭と引き換えに旅の計画は総崩れとなる。それでもこれを実行に移そうとしているのだ。そうせずにはいられないと、そう思ってしまっているのだ。これを莫迦と言わずに何と言うと、彼は自覚もしていた。
「わたくしめに聞かずとも、もう鉄は固まっているのではありませんか?」
女は彼の背中を見つめて言った。彼はその言葉にひとつ頷くと、店主に財布を突き出した。
「残らずくれてやる。この馬は俺が買った」
その言葉の迫力に気圧され、店主はしばし動けなかった。彼は買った馬のもとに歩み寄り、葦毛を閉じ込める柵を開け放った。
「俺とともに来い。ここがお前の居場所だ」
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