第一話 刃と琴弾き ⑨
「語り伝う
目を見据えたまま、女は言った。
「この指輪、それはもはや意味を為さぬ。ただの飯の
「異なる月に言は泣く。あなた様も、その腰の短刀も、居場所はここではありません」
「俺に戦えとでも言うのか。この国の為に」
彼は怒るでもなく、女に聞いた。
「国の為ではなく、あなた様の為に。そしてそれが、民の為となりましょう。
琴弾きの言葉は湯の泉が
「だが、俺は家を出た者。それに一人だ。何も為せまい」
彼はそれだけ呟くと瞳を閉じた。
「お労しや。長き苦難の日々により、多くの
「端から在ったかも怪しい」
彼は久々に、自身の身なりを
「名君は作ろう創ろうと
その否定の句を斬り返すように、琴と言にて女が詠う。
「ですから、わたくしめがここにいるのです。故にあなた様は一人ではありません」
もう一度、二人の視線が絡み合う。しかしそれは長く続かなかった。彼は女に背を向けた。
「そのような
背中越しに大きな溜め息が漏れる。次に
「……だが、少しは音を聞いてみようという心持ちだ。ゆめ
その意志を聞き取り、女は深々と頭を下げた。その金色の瞳は、背中の影で
朝告げの鳥が鳴いた。空を分厚く覆いつくしていた雲が切れ、その間から差した陽光は、二人を明るく照らし出した。
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