第一話 刃と琴弾き ①
それは寒風吹き荒ぶ真昼のことであった。
「恵みをくだされ。一片の
物を乞う
もとより往来の少ない道であったが、その願いが通じたのか、今日は幸いにして神の
「あのう、こんなものですが……」
赤毛の少年が包みから食物を取り出しながら、その女に向かって歩いて来た。人々から慈悲の心が失われて久しい時世である。女の顔は我知らず
「有難き幸せです。もう少し、もう少しこちらへいらしてください」
下女は途端に
「させぬぞ、“北の
少年の背後から槍が伸びる。それが目に入ったのも束の間、気付いたときには既に、下女は壁に縫い付けられていた。少年が驚きの声を上げるのと、麺包が地に落ちるのはほぼ同時のことだった。
槍を放ったのは月の国の兵士、それも装いの華美なるを見るに、位の高い身分であるらしいことが
「探し人とは異なれど、
兵は
一方、下女は痛みに
「よくぞ見破った。だが、まだ死なぬ」
女が槍を両手で掴む。手に触れた部分は見る見るうちに溶け出し、周囲には蒸気が立ち昇った。そしてそれは徐々に獅子の形を成し、兵士に向かい
「ほう、我を試すと申すか!」
兵士は少年を庇うように立っていたが、新たな敵の登場によって戦い方を改めざるを得なくなった。獅子の突進に先立って、真っ先に狙われるであろう少年を掴んで投げる。一歩遅れて飛びついた
(ここでなら、この国でなら、もしかしたら自分の居場所を見つけられるかもしれない……)
それはとてもとても濃い一瞬であった。
「その手負いで今までよく永らえた。しかし、流石にもう仕舞いだ」
兵士は刀を鞘に納めた。
首と胴が離れ、下女はようやく動きを止めた。切り口からは
「獅子を狩る男、予想を超える男よ。
ここには居らぬ自らの主君に向けて、下女は別れの言葉を吐いた。直後に突風が巻き起こる。それは吹雪となり、兵士と少年を
その暴風に乗じ、一揃いの眼球が飛び去ったのを認める者は居なかった。
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