一の前夜 琴鳴る月に

 月の国の戦は、鼓笛こてきに始まり鼓笛に終わる。それは周辺の国々にはよく知られたことだった。

 一つ太鼓が鳴れば、それはこれから降り注ぐ矢の雨を伴う雷と思え。

 一つ笛が鳴れば、それはこれから死者へと成り果てる我々への手向たむけと思え。

 敵は恐怖にすくみ、物言わぬむくろとなろう。月の光は浴びたものを青白く照らす。


 しかしそこに聴こえ得ぬ筈の調べ、琴の調べも、何故か今宵は混ざり鳴る。誰にも気付かれず、ひっそりと。


 琴鳴る月に言はなく。


 やがて月は欠け、刃へと変わるだろう。

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