アイロン台



 田山花袋が、と書きかけて思ったことだが、彼は布団をアイロンにかけたことがあるだろうか? もちろん冗談である。アイロンにかけることによって、多くの小説は燃えて真っ黒な灰になり、窓からの風で軽く吹き飛んでしまう。しかし透明な小説の場合はどうか? 私は書きながら思うのだが、いよいよ物語に収拾がつかなくなってきたので、詩的な雰囲気でなんとか乗り切るか、あるいは適当にだらだら書いてやり過ごすか、そのどちらかを選択しようと思う。昔の小説家、例えばドストエフスキーなんかは原稿料を文字数やページ数に応じてもらっていたので、ページ数が増えれば増えるほど多くお金がもらえるということで、あんなにも長い、長ったらしい作品が出来上がってしまったという話を、友人から聞いたことがある。では、私の場合、透明な小説、これをどのように仕立て上げればよいか? 私が導き出した答えはこうである。透明な小説を、現実の世界に存在しないものにすればよい。そのためには、まずもって確実なことは、小説のもつ透明性を、存分に引き出してやればよい。そのためには? 単純に考えて、バーチャルな空間に存在する小説なら、どんなに厚みがあろうとも、それは実体のない空虚な産物である。透明な小説がカクヨムに投下されたのは、そういった所以あってのことである。まあ別に文学賞を狙っているわけではないし、もっと正確に言うなら最初は200枚ぐらいのを書いてやろうと思ってはいたが、だんだんそれよりかは自分が書きたいことを自由に書くべきだという発想に落ち着いたのである。それで、今ものすごい勢いでスマートフォンのパネルをシャシャシャシャと指を動かして書きまくっているのだが、私が恐れているのはこれが夢ではないかということ、これである。もし夢だとすれば今まで書いたこと、投稿したこと、そういった事実そのものが失われ、小説としては存在しなくなることはおろか、誰の夢として目覚めるかわからないという些か不可解な現象に立ち会うことになる。文字通りの「透明な小説」になってしまうのである。では、私はどうすればよいのか。というより、誰が私になるのか? イマニュエルか? ザムザか? 神楽弓月か? 榊か? 誰として目覚めるのか? ……といったような内容をLINEで書いて、ポプテピピックの「HEAVEN OR HELL」のスタンプを誰かに向かって送信して、そこで目が覚めてはまた同じように、スマートフォンを確認してこの小説が書かれていなかったというありのままの事実を確認したのち、またそれも夢であるということが次第に判明し……。

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