憲法



 この国の憲法は、という書き出しをすること自体がもはや夢の中では野暮なことでしかないので、この国の憲法、という文面が意味を持つ限りにおいて、この国の憲法、という表現を適応しようと思う。


1. すべて国民は平等ではない。夢の中の世界においては、国民という概念が意味をなさない。なぜなら夢の中の世界と現実の世界との間には、国家を形成するあらゆる概念、領土領空領海国民国家安全保障云々……などというものは存在しないからだ。その意味で、ここに国民はない。ここにあるのは、夢の世界。想像力の豊穣のみである。

2. すべての民は存在しない。すべての人間は理性と判断に立ち返り、その概念的支柱をもって世界となす。人間存在は神を信じない。また信じるべきではない。

3. すべての存在者は存在しない。仮言命法的に存在と呼ぶことはあっても、存在物をアプリオリな仮定の範疇に入れることはしない。

4. 残るは記号のみである。が、これも存在しない。透明な小説には、何も書かれていない。何も書かれていないということが書かれていたということはない。何も書かれていないことにするために、書かれたあらゆるものに対して否定図を提示することが許されている。


 ∴あらゆるものが存在せず、存在しようとすることもなく、存在としてもなく、存在もない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る