透明な小説 -10
手に汗握る夢だった。夢の中で、僕は応援団の一員に混ざり、小さなジャンプをして体育館を叩いていた。五人の応援団員に混ざりたいがために、僕は鼻くそまみれの手を拭い、かざして、中央に全員の熱い熱い気の球が集まるような、円団を組んでいた。紅組の熱気が凄まじく、対抗する白組青組黄色組緑組は、力ではまさるとも劣らず、エネルギー的には同じぐらいだった。僕は笑いながら目を覚ました。
どうしてこんなことになったのだろう。発端は夏休み後に行われる水泳大会のせいだ。そこで全員が集結しバタフライやクロール、自由形などの遊泳を行う。それで僕は遊泳があまり得意ではないがゆえに、自ら応援団を買って出たのだ。しかし夢の中では驚くほど水の抵抗を感じず、自由に泳ぐことができた。
その夢の中にはタクミや、ハヤトの姿もあった。久方ぶりに集結した僕たちは話し合った。卒業してからどうしていたか、今はどんな仕事をしているのか、などを。しかし、それは夢の中の見かけの姿でしかなかった。本質的なところは、こんなところにあった。「なあ、俺たち、色々あったけどさ」ハヤトが急にこう切り出した。「そうだね、俺がいじめられてたり、色々あったね」そう返すと、一同皆笑った。その笑いに釣られて、目も覚めてしまったのかもしれない。
本当はもっとあの自由な空間にいて泳ぎたかった。この夢は、夢の方から僕に書くように仕向けた。そう、夢は語るだろう。夢のせいにしておけば、取り敢えず何とかなるのだ。
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