透明な小説 j
「夢を書くために夢を取材に行くか……」
僕はそう言って旅立とうとしている。夢に向かって。消えてしまいそうなタマシの故郷を、探して神実主義の道へ歩もうとしている。神の民、神の言葉、神の園、神の命、神の僕、神の見えざる手が、紙の上に開かれていればまだいいものの、今や神さまの掌にさえ転がされている、神の上に転がされて、回されている。描写の中に紙が混じっていく、あたかも神が混じっていくように、宛名のない手紙のように彷徨い歩く、紙の本の中ではこの書物のタイトルは『透明な小説』になるだろう、という予想を上回る、さらなる透明な小説を書く、そのためにただ書いているのだということを、認識して、その瞬間に神は、紙の上に開かれた股となり、四股を踏み、経文を焼いて、幾たび死者を通さばいかん、という哀れな小説の末路よ! 病者を、死者を通してきた者たちに捧げ、そのときの描写こそ、宇宙論となりにけるのだ。
また、松明の炎がどうどうと広がり、白く白熱した木々の葉擦りの音を聴いている、僕の耳元には、幾千人もの時間が投げかけられていて、それがために途方もない距離を歩かされる、あの頃の自分の話は聞くのも恐ろしい。まるで、濁とした、光の輪の中に囚われたかのように、唇が凍え、光の加減で遠目には自分の言葉のように聴こえないのだ。文化者としての《私》の役割は、もはや果たされ、畑は耕され、僕には、焼けていく土地でさえ、死海の言葉のように聴こえる、これが書物の中の言葉であると考えることほど、自分にとって不吉なものはない。
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