『透明な小説――プラトン対話篇の世界的擁護』



 これは僕の空想の産物に過ぎないとしておくが、空想の産物ほど世界を豊かにするものはない。ここに構想された物語同士が複雑に絡み合い、物語全体を豊かにすることを願ってやまない。

 物語はまず、先の見えない病から始まる。主人公は闘病生活を送るザムザという少年で、プールサイドにいた一人の司書に唾を吐きかけられた結果病に陥ってしまう。その司書の名前こそ、少年ザムザが復讐したいと願ってやまなかった開拓移民の血を受け継ぐイマニュエルであるのだ。ザムザはイマニュエルの飲み物に自分の爪の垢を混ぜ、イマニュエルに毒を盛る。その毒はザムザの夢の産物で、イマニュエルが夢の中でザムザに復讐されるというものなのだ。ザムザはイマニュエルにそのようにして復讐しようとするが同時に病気でもある。ザムザ自身が復讐のためにイマニュエルの夢の中に自ずから現れ、宿敵であるイマニュエルと対峙しなければならないからだ。イマニュエルが夢を見ていないときは、ザムザが唯一心を休められる唯一の時間なのだが、イマニュエルはいつもいつまでも夢を見続けることをやめないために、ザムザにとっても夢による復讐は負担なのだ。そしてザムザは死ぬ間際にこう言う。「俺が魂を預けたままこの夢から覚めると思うな、俺が悪魔になっててめえを呪ってやるから」この一言だけでザムザは息絶えてしまうのだ。そのため物語中にイマニュエルの言葉はあっても、ザムザの言葉はほとんど出現せず、記述されることないまま終わってしまうのだ。

 書かれたことと語られたことのどちらが優位であるかは、プラトンの『パルマケイアー』を参照するまでもなく、必然的に哲学的な難問であり、その難しさは世界との根底にある認識自体を、その世界ごとひっくり返す可能性を秘めている、ということでもあるのだ。ザムザが唯一残した手がかりは、我々が夢を読み解くための劇薬となるだろう。それこそ『ティマイオス』を参照すべき唯一の伏線であり、我々が世界と宇宙との結合を指し示すための真論なのである。


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